61
イベントに出る。
そのためにはもっとたくさん練習しないと。
量だけでなく、質も大事だ。一回あたりの練習には集中して臨む。集中すればするほど、時間はあっという間に過ぎていて、結果長時間になる。質を求めたら量もついてくるのは良い循環だと思えた。
エンサイオは時間は限られているから、できるだけ自主練もするようにしていた。日々がスルドに染まっていった。
練習は、ストイックになればなるほど孤独だ。
それは団体やチームで行うものであっても、行き着くところの最後の最後は自分との戦いであり、自己とどこまで向き合えるかだと思う。
だから、同じ練習場で姉が練習していたとしても、隣のホールで友達が踊っていたとしても、近くで師匠が見守ってくれていたとしても、それに心強さや安心感は感じられても、頑張るのはわたし。わたしがどれだけ頑張れるかなのだ。
なんてことを考えながら練習していたら、キョウさんに固すぎるって言われちゃったけど、練習の本質はやっぱり、自己をどこまで追い込めるかなのだと思う。
今までは、バテリアではわたしが一番後輩で、年少でもあった。
今は後輩に祷がいる。
わたしの時はガンザだったが、祷は初日から合同練習でもスルドで加わっていた。二回目の今日は早くもソロの奏法を習っている。
祷は音楽経験者だしセンスもありそうだから、多分すぐにわたしを抜くだろう。
そうすればやっぱり戦力として一番低いのはわたしになる。
一応先輩として、それを安易に良しとしたくない気持ちもある。
どうあれ、このチームで、一番頑張らなくてはならないのはわたしなのだ。
キョウさんに言われて十分間の休憩になった。
水を飲みながらガンザを振ってたら、休憩ってのは身体をしっかり休めることも含まれてんだと、キョウさんに注意されてしまった。
わかってるけど、少しでも練習していたい。なにもしていないとなんだか焦る。
「もう休んだよ。練習しよう?」
まだ十分は経っていないけど、給水もしたし、身体も疲れていない。
「しょうがねぇな。ちゃんと休めてンだろーな? 体力や体調も管理できねぇとイベントにゃ出せねーぞ?」
「うん、大丈夫!」
「ぅし、ンじゃ、やっか」
繰り返されるリズム。
集中は切らさない。
右手のマレットと左手で交互に一回ずつ叩くリズムから、一拍にマレットを二回入れ、次の拍では左手で二回叩く音を入れる。
単純に叩く数が増える。
腕が疲れてきた。
ここで、ペースを落としちゃダメだ。
これをやり切ったら、この長さ、この速さを安定したリズムで叩けるわたしになれているということだ。
次のステージに行くためにも、ここは今日クリアしてしまいたい。
ペースを落とさないためにも、むしろ今より少し早めを意識して叩いた。
その時、右の手首から肘にかけて、短く鋭い痛みが駆け抜けた。
「いっ......た......‼︎」
突然の痛みと驚きでマレットを落としてしまった。
「おい、どーした⁉︎」
キョウさんがすぐに演奏をやめて駆け寄ってくれた。
異常に気づいた祷や他のメンバーたちも集まってきた。
練習中断させちゃった。
申し訳ない気持ちでいたたまれなくなった。
テッチャンがダンサーの練習場で練習していたハルさんを連れてきてくれた。心配した柊とにーなさんも付いてきていた。
ハルさんはお医者さんだ。この場で専門家に診てもらえることに少しほっとした。