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「ハルさん、すみません。先ほどお伝えした通り、出先から直接伺ったもので......がんこにも言いましたが、ついでがあって、思い立ってお伺いしたものですから、がんこには連絡せずにきてしまったのです」
祷がハルさんに神妙にお詫びをしはじめた。
急に私が居たものだからがんこ、驚いてしまったようで。
なんて、にこやかに話している。
ねえ? なんて祷が話をこちらに振ると、ヒトミさんも、
「なんかわかるわー。昔忘れ物しちゃってお母さんが学校まで届けにきてくれた時、学校がゆるかったのか、お母さん教室まで来てくれちゃって、なんだか恥ずかしいのと照れくさいのとで、とにかく忘れ物だけ受け取ってすぐ帰ってもらおうとするんだけど、余計なこと話しかけてきて、妙に焦っちゃったこと思い出したわ」
なんて話題に乗ってきて、キョウさんにそれを「昔って、いつヨ。四半世紀前のノリと一緒にされても伝わンねーと思うぞ」と混ぜっ返されて、「私より年上のおっさんが年齢いじり仕掛けてくんの⁉︎」とカウンターを打ってわちゃわちゃしてるうちに有耶無耶になった。
例えヒトミさんとキョウさんが話題を展開させなかったとしても、祷にポイントをずらされたこの話は、祷が家族間の連携を疎かにしたことをお恥ずかしいと言いながら、無用な混乱を来したことをハルさんたちとわたしに詫びて、終了という着地に収まっていたことだろう。
仕切り直した祷は、三人と楽しそうに話をしている。
「サンバって、奥が深いんですね。打楽器だけでこんなに種類があるなんて知りませんでした。体験って、事前に予約をしてないとできないのでしたっけ?」
キョウさんが、「ハル坊、別に構わねーだろ? ちょっとやってみるか?」
なんて言ってる。
え、ちょっと待ってよ。
打楽器なんてブラスバンド部でバスドラムやって以来ですなんてマウント取るみたいなことを言ってる祷に、ハルさんが「おお、打楽器経験者なら、スルドがもたらすリズムの深淵に届き得るだろう。ぜひ体験してもらいたい」と訳のわからないこと言ってる。
「どうせならがんちゃんと同じ楽器やりたいですね。体験だけじゃなくて、一緒に演奏できたら楽しいだろうなぁ」
えっ、やだよ! 何言ってるの⁉︎
「オー、イイねぇ」
キョウさん、なんで嬉しそうなの?
「やだ! なんで⁉︎ 祷、他になんでもあるじゃん‼︎ なんでっ......なんでわたしのっ......!」
わたしが見つけた、わたしの居場所なのに。わたしだけの。
駄々っ子みたいに大声を出したわたしを、みんなが見てる。
ハルさんも、ヒトミさんも。キョウさんも驚いた顔をしている。
やっちゃった。
もうだめだ。
もうここにいられない。
気づいたら、わたしは走って練習場から出ていっていた。