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倉庫に入ると、端の一角が簡易的な壁で仕切られていた。壁には扉がついている。
扉を開け、ふたりが「スペース」と呼んでいた領域に入った。
床はタイルカーペットでヒールのシューズで踊るには向かないが、室内用のダンスシューズなら問題ない。壁の一面には鏡が貼られていて、壁も天井も一応防音処理がされているそうだ。
スピーカー、メディアを接続・再生できる機器、照明、空調、冷蔵庫が完備されていて、端にはベンチが置いてあり休憩もとれる。
思った以上に本格的に練習ができる環境だった。
扉をノックする音と同時に扉が開けられた。
「はい、おやつと飲み物と……」
入ってきたのはお母さん。
柊に言われた通りおやつを持って来てくれた。トレーを柊に渡している。その後ろから、
「これ、使うんだろ?」
お父さんがスルドを持って来てくれた。
それじゃ、とお父さんは仕事に戻っていった。仕事中にいろいろやってもらって申し訳ないと思った。きっと面倒見の良い人なのだろうな。
お母さんの話によると、娘ふたりのダンス練習に付き合うため、お母さんが一時スルドを覚えようとしていたのだそうだ。
やっぱり仲の良い家族だ。
お母さんは多少叩けるようになったらしいが、最近は練習ができていないらいしく、ほこりをかぶりはじめていたスルドを引っ張り出してくれた。
簡単に拭いたがチューニングはしていないので、それは自分でやってねと今日の練習のために貸してくれた。
「キョウさんがくれるスルドに較べると安い練習用のものだけど、この室内くらいなら充分な音量だと思う」
叩いてみる。
確かに充分な音が鳴った。
ネジで音を調整する。
「準備できた? がんちゃんのタイミングではじめよー」
最初はスルドだけで踊るそうだ。
すでに準備体操を終えたふたりは軽く体を動かしてる。