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「でも、キョウさんがずっと使ってきたものですよね? さっきキョウさんも言ってましたけど、愛着とか、自分に馴染んでるとか、あるんじゃ……」
「そりゃーそーなんだが、がんこ頑張ってっからヨ。オメーに使って貰いてーんだわ。オレはよ、アドリブできるテルセイラやりてえから、がんこがプリメイラやれンようになったらオレもプリメイラ以外もやれンようになンし、ウィンウィンでいこーじゃねーの」
後半は本音ではあるだろうけど、照れ隠しでもありそうで、キョウさんはもうこっちを見ないでしゃべってる。
とにかく、気にしなくても良いと言ってくれている様子から、むしろもらってほしいと思ってくれてるのだと感じられて、素直に貰い受けることにした。
わたしが感謝の気持ちを伝えたくて、大きな声で「ありがとうございます!」というと、キョウさんは「オオ」とそっぽ向いたまま右手を挙げて応えてくれた。
スルドのメンテナンスや調整は済んでいて、全体的に清掃までしてくれたそうだ。スルドケースは新品で用意しようとしていて、用意できるまで待っててほしいと言われた。
そこまではと遠慮しても、「ガキが遠慮なんざしてんじゃねーヨ」と取り合ってくれない。
わたしとキョウさんのやり取りが聞こえていたのか、ドリンクを飲みながら休憩していたにーなさんが、「もらえるものはもらっておきなよ。どうせキョウさんなんてプレゼントあげる女の子とかいないんだから、内心でれでれよきっと。やーね、おじさんて」なんて挑発するものだから、キョウさんもやり返す。
「そーだナ。オメーみてーな擦れっ枯らしじゃ甲斐もねーけどヨ、がんこみてーなヤツならどこまでも面倒見たくなンだわ」
今回はキョウさんの勝ちっぽい。
「くやしー! 師匠面しちゃってさぁ! ほんとは私ががんちゃんにノペ教えるはずだったのに‼︎
がんちゃん! このおっさんの加齢臭と時代錯誤なヤンキーノリについていけなくなったらいつでもダンサーに来てよね!」
なんて捨て台詞を吐いて練習に戻っていった。
「がんこ、オメーは素直なまんま大人ンなれよ」
逃げ去るにーなさんに哀れんだ目を向けたまま呟くキョウさん。
わたしが素直? 結構ひねくれてると思うんだけど、キョウさんも人生経験豊富そうだから、わたしが素直に見えるくらい悪いひととかたくさんみてきたのかもしれない。
それにしても、『ソルエス』に入って以来、なんだかいろんな人に求められているように思えて勘違いしてしまいそうだ。
有頂天にならないよう、気を引き締めた。