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入会したばかりのわたしに、サンバを語れるほどの知識はないが、サンバはやっぱりリズムだと思う。
とにかく基本のリズムを取れないことには話にならない。
わたしは日常生活でも日々意識してガンザを振るようにしていた。
サンバには『パゴーヂ』という楽しみ方もあって、少人数で時には飲み食いなどもしながら楽器を鳴らし、踊ったりするのだが、このときは大きな音の出る楽器よりもパゴーヂ向きの楽器を使うことが多い。
わたしも出られるときはガンザで参加した。
エンサイオの時と違い、自分が鳴らしているガンザの音が良く聴こえ、演奏に参加しているという気持ちが持てた。
その分、ミスれば目立ってしまうので集中しなくてはならない。
日々の努力の成果もあってか、サンバのリズムがだいぶ身についてきたような気がした。
合同練習に入る前はキョウさんの手ほどきによるスルドレッスンが続いていた。
「よし、これまではリズムや音を耳と身体で覚えてもらうために見様見真似と感覚で叩いてもらってきたけどヨ、ガンザもだいぶ振ってきたんだろ?
リズムにはかなり馴染んできたみたいだしナ。そろそろ変な癖がつく前に正しい叩き方を身に着けてもらうか」
スルドはサンバの心臓と呼ばれるくらい大きく強く、低い音を鳴らす楽器だ。
利き手に持ったマレットでヘッドを叩いて音を出し、左手でヘッドを押さえてミュートする。
この叩き方、押さえ方を変えることで音やリズムが変わる。そうやってバリエーションを増やすのだ。
スルドは他のジャンルの太鼓と比べても胴が深く、伸びやかな低音が出せる楽器だ。音の大きさだけでなく、音の長短も重要な要素になる。
左手でミュートしたままマレットでヘッドを叩くと、『ドッ!』という短く詰まったような音が鳴る。左手を離して叩くと『ドーン!』という長く伸びる音が鳴る。
短い音と長い音のコントラストでリズムを作っていくのが基本となる。
サンバは四分の二拍のリズムで、スルドは一拍ずつ音を出す。
キョウさんが説明しながら実際に叩いてみる。
わたしも聴きながら実際に叩く。これまでに見様見真似で叩いていたやり方と同じだが、右手と左手の役割、出せる音の種類を意識することで、理解が深まった気がした。
音源で曲を流しながら、キョウさんに合わせてスルドを叩く。
スルドはリズムの軸となるので、基本は一定の間隔だが、キョウさんは時折アレンジを加えている。
「例えば、空いた拍でこんな風に高い音を加えることもできる」
と、マレットの柄で太鼓のリムの部分を叩く。重い低音の合間に甲高い金属音がリズムに軽やかなテンポを加えていた。
音の強弱や音を伸ばす、止める、といった基本的な動きでバリエーションを出す楽器だ。
例えばミュートの役割を果たす左手だけでも、左手を放す前にヘッドを叩いて「ック」という音を出したり、押さえるときに強く叩いて押さえることで「クッ!」といった音を出したりする。
叩き方、押さえ方で異なる音を、サンバのリズムで鳴らすのだ。
サンバのリズムは、二拍めに低く重い音を出してアクセントをつけるのが特徴だ。
基礎で基本は複雑な動きは少なく、どちらかと言えば一定のリズムをキープする方が難しかった。
周りの音をよく聞いて合わせるタイプの楽器ではなく、スルドの音が基本となり、周りがこの音に合わせるのだから、早くなったり遅くなったりしてしまっても周りに合わせて修正するということができない。むしろ周りを巻き込んでしまう。
まさに心臓だと思った。