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合同練習前に軽いミーティングがあった。
体験者としてハルさんに紹介され、挨拶をした。
多少開き直って自ら名乗っている名前とは言え、やっぱり大勢の前で名前を名乗る自己紹介は緊張する。
ミーティングが終わったら合同練習が始まる。
演奏前に準備など、ほんの少しだけ時間が空く。その間ににーなさんやこの前の打ち上げで話すことができたひとたちが何人か声をかけてくれた。
バテリアのひとたちはバテリアの練習場でも顔を合わせていたが、すぐにキョウさんとのマンツーマンレッスンに入っていたため、会釈程度しかできていなかった。
みんな一様に歓迎してくれていた。
体験者が、そして入会したら入会者が、チームにとって価値があるのだ。わたしそのものに価値があるわけではない。そんなことはわかっている。
でも、「がんこちゃんは本当はわたしのノペ弟子になるはずだったんだから!」なんて自慢気に言っているにーなさんを見ていると、わたし自体が求められてるのではと期待を持ってしまう。本当にそうだったら良いな。
「だから、イマジナリー弟子なのよ。がんこちゃんは」
変な説明を力説しているにーなさんに、クールな雰囲気の男性ダンサーが「イマジナリーって妄想じゃねーか! さも師弟関係結べてます的に言ってるけど、自ら妄想って言っちゃってんじゃん!」と、長めに突っ込まれてる。
クールそうな人を突っ込ますなんて。やりとりの様子を見ていて、なんだかおかしくってすごく笑ってしまった。
打ち上げの時のキョウさんやハルさんもそうだったけど、みんな本当に遠慮がない。言いたいことを言っている。当然衝突もある。けど、次の瞬間お互いけろっとしてるのだ。
まるで家族のようだと思った。
にーなさんは「今はキョウさんに取られてるけど、見てなよ、そのうち取り戻す」なんて決意をダンサー仲間と話している。
入会したら、わたしもこの輪に加われるのかな。
練習場の一角の、ちょっとした騒ぎの中では、みんなわたしの名前を覚えてくれていた。この名前で良かったことがあるとしたら、覚えやすいことくらいか。
たとえ覚えやすいから覚えていただけだったとしても、相手の名前を覚えるということは、相手に対して真摯でいることの証のように思えた。
わたしはまだ、わたしの名前を覚えてくれているこのチームの人たちの名前を、あまり覚えられていない。
思えば、わたしはわたしのことばかり考えていた気がする。
自分の意思と希望で組織に属するなら、わたしももっと周囲に気を配れるようにならないと。
バテリアが隊列を組み、弦楽器と歌の音響の準備も終わったようだ。
わたしもガンザを持ってバテリアのひとたちに混ざる。
弦楽器が前奏を鳴らし始めた。続いて歌が始まる。
間をおかず、指揮者の『ヂレトール』が大きな声でカウントをとった。
はじまる。練習なのに緊張する。
ベースとなるスルドの音を意識して、同じリズムでガンザを振る。
振り方は教えられた通り、三拍目にアクセントが来るように、中の粒を、塊単位で意識するように振る。
シャカ、シュカ、シャカ、シュカ。
これをテンポをキープして続ける。
合同練習に入ると曲が終わってもバテリアの演奏は続いていて、指揮を執る『ヂレトール』の指揮で止める。止めずに指揮が続いていれば、すぐに次の曲に行く。
止めると少し休憩になるが、止めるまでは楽器は鳴らしっぱなし、歌は歌いっぱなし、ダンサーは踊りっぱなしだ。
数分に亘りぶっ通しとなるのでどのパートもかなり疲れそうだ。けど、ダンサーはやや自由度がありそうだった。
ダンサーは振付を踊ってる人たちは止められないが、フリーで踊っている人たちはダンスの動きの中でゆっくりになったり止まったりしていた。それに、演奏中でも給水などしてる人もいる。
一方、バテリアは演奏が止まるまではずーっと鳴らし続けている。
リズムをずらさずに。片手で持てる軽い楽器のガンザを一定のリズムで振り続けるのでさえ腕が疲れた。
バテリアのみんなはすごい。わたしも練習したらそんな風になれるのかな。
なんてガンザを振りながら思っていたということは、心はもう決まっていたのかもしれない。
わたしは二週間後、入会届を出していた。