19
エンサイオの会場に着き、ダンサーの練習場に居たハルさんに挨拶をした後、荷物を控室に置いてきた柊に連れられて、バテリアの練習場に行った。
キョウさんは既に来ていて、スルドのヘッドの部分のネジみたいなところをねじ回しのようなもので回していた。
「おー、嬢チャン、ホントに来たか。こないだは酔っぱらってて悪かったナ。スルドやンだろ?」
キョウさんは改めてよろしくナと右手を差し出した。
なんだか語尾がカタカナっぽいなと思いながら、「よろしくお願いします」と握手に応じた。
キョウさん、本名は菅原響弥さん。
見た目通り若い頃はロックバンドをやっていて、今もミュージックバーなどで演奏したり、かつてのバンドメンバーで集まってたまにスタジオやライブハウスで演奏することもあるらしい。
『ソルエス』が拠点を置く街の隣の市で活動していたそうだ。
『サーバルキャッツ』のキョーヤと言えばその市内ではそれなりに名が通っていたとは本人談。
知名度の真贋については判断つかないし、調べるつもりもないけど、パートはギターだが、ドラムやベースもできるというのだから、ハルさんの言うとおり楽器の演奏には長けているのだと思った。
ちなみにキョウとキョーヤは敢えてわけているのだそう。
どうでも良い、では語弊があるが、どっちでも良いとは思った。でも、自分の名前が好きなのだろうなと思えて少し羨ましかった。
「んじゃ、さっそく叩いてみるか」
キョウさんは体験者用のチーム所有のスルドを貸してくれた。
ボディーと肩紐にチームのロゴが入っている。チューニングは終えてあるそうだ。
まず肩紐の掛け方、楽器の持ち方を教えてもらって、装着してみた。楽器の見た目、大きさに違わない重量感が圧し掛かる。
右手にバチのようなものを渡された。『マレット』というらしい。
キョウさんのスルドは自己所有とのことだ。体験者用のと同じようにチームのロゴが入っている。
「見様見真似で構わないから同じようにやってみ?」
キョウさんがゆっくりと一定のリズムでスルドを叩き始めた。
右手に持ったマレットでヘッドを叩き、左手の手のひらでヘッドを押さえる。
これを交互に繰り返すことで、デン、ドン、デン、ドンと音が鳴る。
ゆっくりと、それほど強く叩いていないのに、大きな音が鳴った。
キョウさんの音に合わせ、同じようにマレットを叩いてみる。
デン、ドン、デン、ドン……。
わたしの腕の動きに合わせ、大きな音が練習場に響いた。
爆音や轟音といった音量ではない。
それでも、音の圧といったようなものが、練習場を隙間なく埋め尽くしたような感覚があった。