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週明けの月曜日、授業の合間の休憩時間に柊を捕まえた。色々と話したいことや訊きたいことがあった。
あの日の打ち上げは、その後もどのテーブルも盛り上がっていて、柊は結局わたしがいたテーブルには戻ってこなかった。
解散の時、柊とはお店の外で少し話せたが、「打ち上げ楽しかった? じゃ、お父さん迎えにきてるから」と、柊は姉の穂積さんを呼び、お父さんの車が停められているという駐車場に向かって行ってしまった。
商店街の近隣に住んでいる人が多いらしく、流れでぱらぱらと解散していった。一部の猛者は次の店に行ったようだが。
わたしは柊たちが去って行った方向とは逆方向にある駅に向かい、少数の駅利用者たちについて帰路についたのだった。
柊は日曜日のイベントの疲れも感じさせず元気そうだった。
「いつの間にか、そんなことになってたんだ」
わたしがスルドという楽器の体験をすることが勝手に決まったあの時、その場に居なかった柊に事の経緯を説明しながら、練習に付いていって良いかを尋ねたら、柊はわたしを残して別の席に行っちゃってごめんねと言いながらも、なんだかちょっと嬉しそうだった。
「もちろん。一緒に行こう」
柊はイベントの時に見せた笑顔と同じ笑顔だった。
ハルさんとキョウさんの会話にあった『エンサイオ』とは、ダンサーと打楽器が合同で練習することらしい。
エンサイオは木曜日だ。この日はバイトがあったがシフトはずらしてもらった。
イベントが終わったばかりで、次のイベントは少し先だ。
そんなタイミングのエンサイオはやや出席率は低く、特定のイベントに向けて特化した練習をするわけでもないので、体験の場としては適しているといった説明を柊から受けた。
木曜日。最後の授業のチャイム前に既に帰る準備はほぼ整えてあった。チャイムと同時に机に残っていた文房具とノートもカバンに突っ込み、隣の席の柊に、もう行けるよと声を掛けた。
「がんちゃん、気合い充分だね!」
今日は七限まであった。
エンサイオは十八時開始だ。空き時間は一時間以上あるが、移動時間を考えたら、決して充分な余裕があるとまではいえない。
体験を願い出ておいて遅刻するわけにはいかないといったことを柊に伝えたら、「真面目だなぁ」と笑われた。
なんでも、十八時から開場されるが、集合時間などがあるわけではなく、任意の時間に行けば良いのだそうだ。
それでも、どうせ行くなら早い方が良いじゃんなどと思いながら、わたしは柊に連れられて練習会場に向かった。
道すがら、柊はサンバのことやメンバーたちが使っているサンバ用語について教えてくれた。
ダンサーパートの中で花形且つ中心的な存在の『パシスタ』。
打楽器隊は『バテリア』というのだそうだ。
「合同練習が始まるまで、ダンサーとバテリアは別々の部屋での練習になるから一旦離れちゃうけど、キョウさんが教えてくれるんだよね? キョウさん多分早く来てると思うから、キョウさんのところまでは連れて行くからね」
柊は姉である穂積さんと仲が良い。そして、穂積さんをとても信頼しているようだった。
そんな姉への憧れがあるのか、柊も結構姉御肌なところがある。頼りがいがあって安心できた。
奔放で飽きっぽくむらっけもあるため、この前のようにいつの間にか放ったらかしにされてしまうこともあるのだが。
わたしにも姉がいる。年の差も柊と穂積さんの姉妹と同じだ。
同じ姉妹なのに随分違うなと思った。
正確には、同じ妹なのに、わたしは柊とは全然違う。