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いかついし言葉遣いもそれっぽいけど、意外と礼儀正しいキョウさんと握手を交わし、キョウさんが持ってきていたジョッキを軽く掲げたので、飲みかけのメロンソーダが入ったプラスチックのコップを軽く合わせた。
挨拶の儀が一通り終わるのを見計らい、ハルさんはキョウさんに尋ねた。
「キョウさん、次のエンサイオは来るだろ?」
「ああ」
「がんちゃん、来週の木曜日に練習がある。都合がつくならひいと一緒に来ると良い。キョウさんが音の神髄を体感させてくれるだろう」
「あ? それって、オレが嬢チャンにスルドを教えるってことか?」
「えー? がんこちゃん女の子だよ? 教えるなら同じ女性のチカが良くない? キョウさんじゃガラ悪すぎてがんこちゃんかわいそう!」
にーなさんが、またわたしを抱えるようにしながら口を挟む。
「おう、言ってくれンじゃねーか。ぴぃぴぃぴぃぴぃと、ナガブチかオメーは。よく回るその口縫い付けんぞコノヤロウ」
「ほら怖い‼︎」
「まあそういうな、にーなよ」ハルさんがにーなさんを窘めている。
「だってナガブチとかなんとかってぇ! きっとガラの悪い隠語かなんかでしょ⁉︎ ひどいっ」
「それは違うぞ、にーなよ。
ナガブチは言葉通り長渕でしかない。
若い挫折と苦悩を男気溢れる歌詞で歌い上げた往年の名曲がある。にーなの哀愁と男気をキョウさんはなぞらえたのだろう」
「多分違う!」「そういうわけじゃねーンだけどな」
にーなさんとキョウさんが同時に反論していた。
「ははは。ふたりとも息ぴったりだな。さて、がんちゃんの指導係について話を戻そうか」
「話逸らしたのハルじゃん」「話逸らしたのハル坊だろ」と、ハルさんが言う通り息ぴったりのふたりがぶつぶつ言っているがハルさんは気にした様子もなく話を続けた。
「チカもだが、うちのスルド奏者はサンバがきっかけで楽器に触れた者がほとんどだ。がんちゃんも音楽経験は無い。キョウはもともと音楽経験者だからな。せっかく教えるなら、『打楽器の叩き方』ではなく、音楽そのものを神髄から伝えられた方が良かろう」
「オオヨ。ヴァイブスだろ? 任せナ」
やるなんて言ってないのに。
どんどん話が進んでしまう。
でも、興味があるのは本当だ。都合は大丈夫だし、せっかくの機会だし、柊も一緒なら、行ってみようかな。
「んん? ハルのさっきの話だと、音楽論とか考え方とか、音楽の基礎基本って意味じゃないの? ほんとにキョウさんで大丈夫? 多分ハルの意図伝わってないよ? あとガラ悪いよ?」
先ほどまで結構酔っていたように見えた、にーなさんだけが冷静だった。