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柊がいつの間にかいなくなっていて、少し心細さを感じながらも、油淋鶏をつまみつつ穂積さんたちの話を聴いているような雰囲気で居心地の悪さをごまかしていたら、穂積さんが察してくれたのかわたしに話を振ってくれた。
「がんちゃんはサンバ見たの初めてなんだよね? あ、がんちゃんはひいの同級生で、パレードもショーも観てくれたの」
ひいとは、柊のこのチームでの登録名らしい。チームに入ると、サンバネームというものを登録するのだそうだ。
穂積さんはわたしに話題を振りながら、さりげなくわたしのことを紹介してくれた。
穂積さんと話していた人たちは、そこではじめてわたしに気付いたようだった。みんな結構酔った感じではあったが、存在に気付いてもらえていなかったとは。
わたしの地味さもいよいよステルスじみてきたなと少し残念に思った。それでも、穂積さんによってスポットが当てられ、ようやく認識されたのだから、しっかりと伝えようと思った。
「あの、お邪魔してます! 学校ではがんことかがんちゃんて呼ばれてます。みなさんのパレードとショー、素敵でした! 柊に連れてこられて、初めてサンバを見ましたが思っていた以上に迫力があってびっくりしました」
「見ててくれたんだ? ありがとう!」
「打ち上げにも参加してくれるなんて、もはやメンバーじゃない?」
「うん、入っちゃおうよ! ひいと一緒にダンサーとか?」
わたしを認識した人たちは、次々に話しかけてくれた。気安い人たちが多いのだろう。
裏を返せば、先ほどまで話しかけられなかったのは、本当に認識されていなかったからなのだと思った。少し残念ではあるけど地味であることを悪いとは思っていないので悲しくはない。
けど、名前のこと以外で注目されるのは、なんだかくすぐったい気持ちになった。
「がんちゃん困ってるじゃない。サンバの人たちって、基本少しでも興味持たれたら引き込もうとするから気を付けてね。でも、練習もこの近くでやってるから、体験とか来てくれたら嬉しいなぁ」
「ほづみも勧誘してんじゃん!」
わたしを中心に、わたしの周囲が何やら盛り上がっていた。
穂積さんはフォローとケアをしてくれたのだと思え、それが嬉しかったが、勧誘されたことも実は悪い気はしていなかった。
「あの、わたし、今日のサンバを見て、ほんとにすごいなと思いましたし、興味も持ちました」
「え、じゃあほんとにやってみようよ! 私がんちゃんにノペ教えたい!」
ノペとは、サンバの基本的なステップのことらしい。
にーなさんが嬉しそうにわたしをの肩を抱き、自分のものみたいにしている。
すごく酔っているんだろうなと思うが、可愛がってくれているようでこれまた悪い気はしなかった。
のだが。