由来
リビングに入ると、ソファでお母さんがテレビを観ていた。割と渋い設定のドラマだけど、出てくる俳優に華があり演技に色気があって、ルカがハマってるって言ってたやつだ。
お母さんもドラマとか観るんだ。
テーブルにはルイボスティーが入ったガラスティーポットとティーカップが置かれていた。
「わたしももらって良い?」
お母さんの許可をもらい、カップボードからマグカップを持ってくる。祷が自分のとお揃いで買ってくれたスターバックスの限定品だ。
ハロウィン仕様でねこの形のかわいいマグカップにルイボスティーを注ぎ、L字型ソファのお母さんの斜向かいになる位置に座った。
「お母さん、訊いて良い?」
「なあに?」
「わたしの名前の由来ってどんなのだっけ? 前訊いたかもしれないけど」
「お姉ちゃんがうまれて、『祷』って名前つけたときから、次の子どもには『願い』って字を使うって決めてたの」
テレビ観ているのに邪魔かなと思ったけど、お母さんは気にする様子もなく話し始めた。
なんとなく観ていただけかもしれない。
「それならさ、『ねがい』って名前でも良かったんじゃない? 『いのり』とも揃ってるし」
「祷のときは知らなかったのよ」
「なにが?」
「漢字と全然違う読み方の名前つけて良いって」
は?
「『ルーク』とか『ここあ』とか、素敵な名前の子がいることは知っていたわ」
素敵? 素敵、なんだろうけど、センスに拠るというか、多少ひとを選ぶ名前かな、と思う。
お母さんにとっては素敵と感じる名前なのか。
「でも、字がね。『琉宇九』とか『琥々愛』とか、無理矢理じゃない?」
無理矢理? 一応素直に読めるけど。
「ああ、『仏恥義理』みたいな感じがするから、ちょっとねぇ、って思っていたの」
えっと、よくわかんない。けど、お母さんの中にあるなんらかの美学には反するようだ。
「そしたら、空走とか、苺姫とか、漢字と読み方がリンクしない名付けされている子たちをみつけて、衝撃が走ったの。ルールなんて、なかったんだって」
いや、あると思うよ? ルール。
「ひとつの名前に漢字と読み方で、ふたつの意味を込められるなんて素敵じゃない?」
化粧水だけど乳液の効果もある、みたいなこと? 要はお徳ってこと? そういう価値観?
「だから、祷には可哀想なことをしたわ。知っていれば祷にも付けてあげられたのに」
訳のわからない読み方を?
助かったね、祷。お母さんが変な知恵つける前にうまれて。