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テストは終わった。
イベントにスタッフとして出て、演者側の感覚を体験した。
お祭りで演奏を披露し、観客の前でパフォーマンスをする感覚と、観客から得られるエネルギーを識った。
徳島へは今週の金曜に渡る。十九時台の飛行機で二十一時には着くのだから、意外と近い。
土曜日は現地を見て、向こうのサンビスタたちと合わせる。これまでのエンサイオでも、リモートで繋いで簡単な合わせや打ち合わせはして来たが、生音できちんと合わせるのは初めてだ。
そして、日曜日が本番。
宿泊費はチームが負担してくれることになったが、渡航費は自腹だ。
現地集合なので、ひとによっては連休にして金曜日の早い時間から観光がてら現地入りする者もあれば、仕事の兼ね合いで土曜の早い便で到着する者もいる。特にダンサーは現地サンビスタとそこまで厳密に合わせなくてはならない要素はないため、土曜日中に到着していれば問題ない。
参加者に費用的な負担がかかり、スケジュール的に近隣イベントに比べれば都合のつけにくいイベントになるが、比較的多くのメンバーが参加してくれた。
自分のイベントなどと言うと烏滸がましいけど、案件獲得に関わった身として、参加しにくい条件でありながら、参加率が高いことは、多くのメンバーにとって嬉しい案件であることの証明のように思えて嬉しかった。
なかには、担当のがんこの顔に泥を塗るわけにはいかない、とか、わたしの頑張りに報いたいなんて言ってくれるひともいて、少しくすぐったくも思いながら、誇らしい気持ちにもさせてもらっていた。
はっきりいって、子どもの頃の遠足やクリスマスくらい楽しみだ。
出発まであと四日しかない。
できることは先にしてしまおうと、寝る前の時間を使って荷造りをしていた。
ちなみに大きな道具はあらかじめチーム負担でまとめて運送している。といっても、音響設備は現地に揃っているため、PA(音響機器。生音以外の音を音質や音量を調整してスピーカーから発するシステム)や発電機は必要ない。ダンサーのコステイロ(羽根飾りのついた背負子)はかさばるが基本各人の手持ちなので、対象となるのはスルドのみ。
二泊分の荷物とスルドは、無理して工夫もして、なんとかすれば持っていけなくもないが、飛行機移動もあるのであまりに無理するのは望ましくないと言うことで、チームでまとめて先に送ることになった。
スルドが傍にないのは寂しいが、荷造りという点では楽になった。
わたしのスルドケースはキョウさん作のキャリーケースのように運べて楽だけど、旅行用のキャリーケースと同時に運べと言われたらやっぱり辛い。
ベッドの方から、軽く硬い何かをリズミカルに転がしたような、少し間抜けな音が鳴った。
ベッドヘッドのコンセントに刺した充電器から伸びているコードに繋げられベッドに無造作に置かれたスマートフォンからだ。