表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/155

125

 次の『Vou fostejar』も格好良い系の曲で、曲は途切れさせずそのまま続けて演奏に入る。

 身体が暖まって来たのか、踊る穂積さんと柊のダンスも激しさが増して来た。


「柊ー! ほづみさーん!」

「ぎゃー‼︎」

「びゃーっ‼︎」


 テンションが上がった三人も楽器を鳴らしながら踊り始めた。


 周囲も異様に盛り上がっていて、ただ観てるひとは日本人のなかの六割くらいだ。ブラジル系の人たちはほとんど踊っていて、一部は楽器を振るか歌うかしている。日本人も、同年代くらいの子たちが一緒に踊り始めたり、小さい子も見よう見まねで踊り、母親らしき女性が子どもに手拍子を送っていた。



 うわあっ......!

 これ、すごいっ!



 スタッフとして参加したイベントでも観客からの熱量をその身に感じたが、演者として受ける観客からの歓声や観客の放つ熱気は身が震える感覚だった。

 大音量が観客を震わすものと承知していたが、演者側が観客から震わされるとは思ってはいなかった。

 この前のイベントと比較するまでもなく、小さな街のローカルスーパーのささやかなイベントに集まった観客の数は、数字だけで言えばごく少数と評せざるを得ない。

 そんな人数からでも、これほどの情熱を感じられたのだ。

 徳島のイベントではどうなってしまうのか。

 楽しみであり、怖くもある。


 とにかく今は、この瞬間を燃やし尽くそう。


『Vou fostejar』は勢いが衰えないまま終わっていく。

 スルドも尻すぼみにならないよう、気合を入れて叩いた。


 二曲合わせてたった五分。


 それでもこんなに......こんなに、気持ちが高揚するなんて。

 これが、アゲってやつ? いや、なんだかそんなものでは括れないなにかが、わたしの中心に宿って、その塊が強く熱された金属のように、周囲に熱をじわりと伝導させて際限なく広がりながら身体を満たし、皮膚まで届いたその熱が外に向かって放出するような感覚になった。

 息が上がるほどには身体的に疲れてはいないのに、上気した身体はしばらく冷めそうにない。



「がんちゃん! おつかれさま!」

「かっこよかったぁ」

「すっごい楽しかった!」


 演奏を終え、観客、司会者、演奏してくれたユニットとゲストにそれぞれ一礼し、ステージから捌けたわたしと祷とキョウさんを、一汗かいたスポーツマンのような柊と、意外と余裕の表情の穂積さん、何故か柊よりも疲労困憊で肩で息をしている三人が迎えてくれた。


「ねぇ、なんでみんなの方が疲れてるの」


 そんな三人の様子を見て、わたしは笑ってしまった。



 本気で楽しんでくれたみたいで、とても嬉しい。


 元々はキョウさんがわたしを元気づけるために誘ってくれたお祭りだ。

 でも、わたしの演奏で誰かが楽しんでくれたり、もしかしたら元気になってくれたり、そんな影響が与えられるのだとしたら、その方が嬉しいと思った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ