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なにが物足りない、だ。
本場のひと、耳の肥えたひとたちに聴いてもらえる最高の機会ではないか。
それも否定的な雰囲気ではなく、暖かな、楽しげな雰囲気の中伸び伸びとやれるのだ。
盛り上がりを額面通りに受け取ってはいけない可能性はあるが、これだけ素直に感情を表現するひとたちだ。その反応から気付かされることはあるだろう。
司会者より次の演目についてのアナウンスがあった。司会者は店長さんだ。
次の演目は『Samba de Arere』と『Vou fostejar』だ。わたしたちがエントリーした曲だ。
ギターとヴォーカルは常連参加者のユニットが引き受けてくれた。キョウさんが事前に頼み込んでくれたようだ。その他、フリー奏者の小太鼓の『カイシャ』を演奏してくれるゲストも用意してくれている。
彼らとは一度も合わせたことはないが、それぞれベテラン奏者らしく、指定したBPM通りに演奏してくれるのはもちろん、リズム側が多少狂ってきたとしても、自然な感じで合わせてくれる実力者だそうだ。
基準にすべきは、もちろんわたしたちのスルド。プリメイラがわたし、セグンダは祷、キョウさんはテルセイラだ。一番の経験者が合いの手に相当するテルセイラとなる。メインのリズムを叩くプリメイラは最も責任が重い。
狂っても合わせてくれるとは言え限界はある。
少数編成だからミスは目立つ。
集中しよう!
ヴォーカルの歌とギターのメロディが奏でられる。同じ歌を歌っても、野太く時に甲高い男性の声は、『ソルエス』のカントーラとして歌うゆきえさんやアリスンの綺麗な声とはまた別の魅力があって、気持ちを湧き立たせるようななにかを感じる。
柊と穂積さんも踊り出した。周りの観客たちが囃し立てる。
続いて打楽器の演奏が加わる。
『Samba de Arere』は格好良い感じの曲だ。始まりの部分で歌詞の区切りごとに大きく叩く箇所がある。
ドン! という大きなスルドの音に合わせ、都度格好良いポーズを決める穂積さんと柊。
パシスタは笑顔が基本だが、この時は妖しく鋭く艶っぽい美女の顔でポーズをとる。舞台メイクはしていないのに雰囲気が半端ない。特に柊はさっきまでフランクフルトとコシーンニャ・チキンクロケットを交互に食べるわんぱく子どものような顔をしていた子と同一人物とは思えないほどだ。憑依型ってやつなのかな?
サビに入ると打楽器も加速する。
「ぎゃー! がんちゃーん!」
「がんちゃんかっこいー! いのりさーん!」
「キョウさんも! キョウさんも!」
特に具体的な内容にはなっていないが、応援してくれていることだけはわかる同級生たちからの声援を受ける。
みんなもそれぞれ楽器を叩いて盛り上げてくれていた。
ダンサーは盛り上がっている観客の前まで行って、激しく踊ったり、ハイタッチしたり、観客のテンションに合わせたりファンサービスをしたららする余地があるが、バテリアはなかなか難しい。
顔を向け、表情で応えるくらいしかできないが、叩くマレットには想いを乗せ、音として放った。