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 お祭りの日当日はよく晴れていた。

 まさにお祭り日和で、既にたくさんの来客が歩行者天国になっている沿道を賑わせていた。


 この街の商店街が主催するお祭り。

 駅を起点に、北に伸びるスターロード商店街と、南に伸びるサンロード商店街の合同企画である『サンスターまつり』は、年により多少の浮き沈みはありつつも、毎年この街を盛り上げてきた。

 その中でも目玉となるのが、両商店街の代表者たちが立ち上げた、太陽と星の名を冠するサンバチーム、『ソール・エ・エストレーラ』による、昼の部のパレードと、夜の部のステージショーだ。


 柊にもらったお祭りのリーフレットの裏には、そのようなことが記載されていた。

 チーム紹介の下部には、「案内係ジル」と書かれた小さな文字の上に、切り抜かれた顔写真が貼り付けられていて、そこから吹き出しが出ている。


「メンバー大募集! あなたも『ソルエス』で歌って踊って鳴らしましょう!」


 切り抜かれた笑顔の女性が、きっと案内係ジルというひとだ。

 チーム名はソルエスと略しても良いのだろうな。正直略称の方が呼びやすくてありがたい。




 照りつける日差しがじわりと肌を焼き、汗を滲ませる。

 ハンドタオルで首元を軽く拭い、ペットボトルの水を飲んだ。


 最近は夏が延びている気がする。

 夏休みが終わって、秋は微かな気配を感じさせることはあっても、尚残る圧倒的な夏の存在感に塗り潰されていた。

 沿道を行く人も汗を拭っていたり、団扇や扇子、ハンディ扇風機で涼を取りながら祭りを楽しんでいた。



 パレードは公道を封鎖して行われる。

 開始時間にはまだ数十分あるが、既に沿道には観客が集まってきていて、バズーカみたいなカメラを携えた観客たちは熾烈なポジション争いを繰り広げていた。

 わたしは予めパレード開始位置の手前のスタンバイエリアの場所を聞いていたので、スタート前に柊と話せるかなと思いスタンバイエリアの近くで様子を見ていた。この辺りにもちらほら観客は集まってきている。



 集まっている観客たちがざわめいた。遠くから揺れるカラフルな羽根飾りが見えた。何人かのスタッフにガードされながら、サンバ隊がこちらに向かってきていた。


「柊―!」


 柊の姿を見つけたわたしは声を掛けた。


「あ、がんちゃーん! 来てくれてありがとう!」


 柊が手を振りながらこっちに来てくれた。写真と同じ満面の笑みだ。既に演者としてのスイッチが入っているように見えた。

 わたしがいる場所はスタンバイエリアだが一応トラロープで仕切られている。


「うわ、間近で見るとすごい迫力」


「きれいでしょ!」

 柊が自慢げにくるりと回る。羽飾りもふぁさりとまわり、羽飾りにあおがれた空気が遅れて風となりわたしの髪をそよがせた。


 きれいだが、まず上がるのは「すごい」や「派手」、良い意味でも悪い意味でも言われそうなのが「イカれてる」といった感想ではないだろうか。

 キレイという感想が素直に出るのは、この業界に身を置いているからか。


「ひいの友だちー? じゃあわたしの友達じゃん! 写真とろーぜー」


 どういう理屈なのかわからないことを言いながら、ダンサーのお姉さんが割って入ってきた。大学生くらいだろうか。

 柊もそうだが、サンバ用なのかメイクが濃く実際の年齢はよくわからない。

 少し小柄でかわいらしい雰囲気なので学生のように見えるが、もう少し年上かもしれない。

 柊とノリの良いお姉さんに囲まれて写真を撮った。お姉さんが別のダンサーを大声で呼んで、五人くらいに囲まれている写真も撮った。


 わたしでさえ、思わず笑顔になってしまうのだ。サンバの衣装や、それを身に付けたダンサーたちが醸し出す雰囲気が、ひとつのコンテンツになっているのだとしたら、サンバ=賑やかしという印象を持ってしまうのもあながち間違いではないのかもしれない。


 音楽やダンスの一ジャンルでありながら、衣装や見た目という要素でも観客を楽しませることのできる文化なのだと思った。

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