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最後少しあやふやな感じになった部分はあったが、これだけで全てを語るわけではない。大きな失点にはなっていない。
おおよそはまとまっていたスピーチ。あとは穂積さんと柊を呼び込む合図となる言葉を言って、締めの言葉に入る。続いて、実演に入る旨を伝えて楽器のところでスタンバイ。
スルドのみによるスローアップが始まったらふたりが入場してそのまま踊る流れだ。
スローアップとは、打楽器のみの演奏で、ゆっくりのリズムをしばらく続け、起点のリズムを打った後、早いリズムに変調しまたしばらく続け、起点のリズム後ゆっくりに戻す。これを繰り返すという内容だ。
打楽器のみのリズム。早いリズムと遅いリズム。それに合わせるダンサーのフリーのダンス。ダンサーもバテリアも、サンバの原点とも言えるパフォーマンスとなる。
サンバそのものを感じてもらうと言う意味では最も適した演目ではないだろうか。
なのだけど。
わたしは話すことをやめていなかった。
このタイミングでは、わたしは思いの丈をお伝えすることになっていました。
それはお伝えしました。
わたしはわたしを良く思ってくれているひとも、それほどではないひとでも、人間関係が濃いひとも薄いひとも、関わってくれたすべてのひとのおかげで成り立っていると思っています。
そのことに感謝しています。
だからわたしもたくさんのひとに良い影響が与えられたらと。
全部本当の気持ちで本音で本気です!
でも、まだ全部伝えられてない。
わたし!
わたしは!
みんなの前でスルドを叩きたい。
みんなと一緒にサンバをやりたいっ。
わたしにスルドを教えてくれた師匠に成長を見て欲しいし一緒に叩きたい。
わたしをいつも気にかけてくれるチームのみんなと一緒にイベントに出たい。チームにイベントの機会を作って恩返ししたい。
わたしと仲良くしてくれてサンバにも出会わせてくれた柊と、いつも良くしてくれる穂積さんに、大きいイベントでわたしの音で踊ってもらいたい。
いつもっ......!
いつも、わたしを、わたしのことをみてくれて、助けてくれるお姉ちゃんと、一緒にやりたい!
それをっ。
それを......。
言葉が詰まる。声が出ない。
でも、祷に助けてもらっちゃダメだ。祷に助け舟を出される前にリカバリーしようと祷の方を見た。
助け舟を出される心配はなさそうだった。
何故なら、祷は俯いてしまっていて、口を開く様子は無かったから。
光るものなんて、実際は見えない。隠されたらこの程度の距離でも涙の有無なんてわからない。
でも、わたしには祷が泣いているように見えた。
助け舟が出される心配は無くなったが、祷のそんな姿を見せられたら、わたしの方もさらに言葉に詰まってしまう。
声を出すどころか、嗚咽が漏れないよう耐えるので精一杯だ。
こんなことは安達さんにとっては何にも関係のないこと。ほんの数秒だけ伸ばして言いたいことを言わせてもらって、すぐ次に進むはずだったのに。