このエレベーターの悪戯は……
君の悪戯にはとても参るよ。
「琢は覚えている。このエレベーターでのこと……」
子供の事を覚えている?
それは物心じゃない。好奇心を撃つ、トキメキなものさ。
「エレベーター。いっぱい一緒に乗ってたな。お前とは同じ階だしさ」
「そうだよな。一緒にどっちが速く押せるか、マンションの出入り口でかけっこして……」
「ずっころんだ事もあったな。泣いてたよな、夢美」
一緒に通った同級生。それから友達になって、もっと親密になるのは少年野球を始めた事。琢が誘ってくれたことだった。
一緒に通うことが増えていく度、君の活躍も、君が隣なほど強くなれた気がする。
「もう追いかけっこもできないな」
「ははは、お前の家に遊びに行くさ。そん時、やってみよう」
「……中学生になってもか」
「俺が足が速いのも、お前と一緒に走ったり、練習してたからだ。こんなに近くで友達がいるのは、そうないさ」
琢は近々引っ越す。それでも近くで、同じ学校に通う。
けど、それだけ。いつも近くにいる者が離れると、……寂しい。何かじゃない。
怖いのかな。
「一緒に帰る距離が遠くなるだけ、友達として見られないかも」
「何を言ってる。一緒の学校に通うだろ?」
「ううん。高校とか、大学とか……自分の近くにいた人達が、遠くに行くと不安じゃないか」
もう数回しかない一緒の帰路。
マンションにある2台のエレベーターは今、上の階にいっていた。もう数少ないエレベーター待ちを、夢美は震えそうな手を必死に無関心にしようとしていた。
「些細な事でも難しくなるんだ」
「簡単に考えろって。俺とお前は友達。学年もクラスも、場所も離れても友達。それでいい」
「心強いな」
そんな琢が好きだ。サッパリとしていて、単純。迷うよりも動く。それも楽しく。
野球を誘ってくれたのも人が多いから良いってだけだったな。
チーーーンッ
「…………」
「……そんなに俺を心配してんの?友達じゃなくなるって?」
「分かってるけど、友達じゃなくなるのって一瞬な時もある」
小さい時はすぐにできる事でも、大きくなった時にはできなくなる事もある。
6階のボタンを押して、2人で乗ったエレベーターはゆっくりとした速度で昇ろうとする。
「ははは、一瞬か」
その刹那に琢は、なんと2階、3階、4階、5階と停止ボタンを連打!!何をするんだって心の声は上がってしまうが、
「これでもうちょっと長くなるだろ?」
「琢は……ははは、実に君らしい」
とても迷惑な悪戯だ。でも、楽しいな。
「こうした悪戯もしたね。鬼ごっことかでさ」
「そうだな。今じゃやらないけど、楽しくみんなとやったな。マンションかくれんぼや、だるまさん転んだとか。カードゲームもやったなー」
「1階で注意されたから、6階の廊下で座ってやったね」
いっぱい色んな人と遊んだ。
止まったエレベーター分、思い出が蘇る。
そして、教えてくれる。
君と一緒に居られるのは、このエレベーターばかりだった。もうこれが終わりかな。
チーーーーーンッ
6階に着いた時。この思い出で終わりでいいのかと、足が止まってしまった。
夢美は7階と8階も押していた。
「……た、琢さ」
「ん?」
「もっと上がって見ない?」
「景色でも見収めるかな」
「ううん」
本当なら20階以上の階層で。けど、自分達が付き合った年月分だけでもいい
「景色じゃない。僕達の、……その……階段を上げようよ」
「…………」
誰もいないさ。監視カメラなど気にもしない。
そんな中で、琢と夢美はこのエレベーターで最後の悪戯。
子供も友達すらも自分達は辞めた、……口づけを。7階と8階までしていた。
けれども、僕達はまだ最上階には行っていない。
これはきっと、ここよりも高い場所までいってから……
◇ ◇
「いい…………エレベーターの悪戯はショタ同士の定番中の定番」
古いマンションに住む幼馴染の友達同士。いつかは来る引っ越しに、手紙のやり取りやら、誓いの約束もあろう。なんとも言えぬ不安から来る、勇気に。
恋は生まれるのである。
こんな話を聞いた安西弥生という女性は涙を流していた。
「あんたね、安西……」
その涙を流す安西に対し、彼女の友達である工藤友は結構ドン引きしていた。
先ほどの話。少し問題があった。
「なんでよりによって、少年同士で一線を越えようとしてんの!?」
「そこがいいじゃないですか!!美少年達が、これから新しい男の世界を知り、別れが一層の!」
「教育に悪い!!こんな話を少年達に聞かせたら、少年達の絆に亀裂ができるわ!!」
子供達の遊びを注意するお題が、いつの間にかこんな飛躍した展開になるとは。
企画会議は分からんものだ。