エルフ姉妹の旅
ちゃぽん。
「はぁ〜〜、癒やされる〜。」
尖った耳と褐色な肌。そして綺麗な青い瞳とタオルで申し訳程度に隠された大きな胸。
ダークエルフのラテナは、溶かされたスライムのようなボーッとした顔で湯船に浸かる。
そして足は開き、入る時に「よっこいしょ。」と言う様はおやじと思えてしまう程に開放的である。
そして、そのラテナの後ろからは同じく尖った耳と青い瞳で、真っ白な肌、まだ小さい胸を持つ女性がペタペタと冷えた浴場の大理石の上を歩いては近付く。
その女性、エルフのサシャータは穏やかな表情で、そしてまるで令嬢のような動きで滑らかに湯船へ浸かる。
「下品ですよ、ラテナ姉さん。」
サシャータの第一声は注意喚起であった。
「あ、サシャータだ。いいじゃんかよー、クエストなんか今日だけで15個もクリアしたんだぜー?ここで堅苦しくやっちゃあくたばっちまうよ。」
文句をだらだらと公衆の面前で垂れるラテナに、一同揃って苦笑いをする。
だが、サシャータだけは頬を膨らませて厳し目な声でまた中位する。
「言葉遣いも下品です!姉さんは綺麗なんだから、もっと上品に振る舞ったほうが可愛いしかっこいいです!」
「はっはっは!褒め上手かよ。」
そう笑い飛ばし、ラテナらサシャータの肩をバシバシと叩く。
微妙に痛がってるサシャータは静かにラテナの攻撃を制止して「はぁ……。」と溜息を吐く。
「分かりました。姉さんはそのつもりというのは。それより、明日の目的地はどこでしたっけ?」
「えっとーー。あれだ、魔森林だ。」
ぽん、とラテナは手を打つ。
「また森ですの?虫は嫌です〜。」
はぁ、とサシャータはまた溜息を吐く。
それはニシシっと笑うラテナは「あ、」と声を出してサシャータに顔を寄せる。
「明日はどの宿予約してるんだっけ?」
「えっとーー。コーレントールの宿屋です。」
嬉しそうに答えるサシャータとは対照的に、ラテナは「うわ、」と苦虫を噛み潰したような顔をする。
「あの宿めちゃくちゃ上品そうだから嫌だ。なんか、もっと自然で開放的な場所がいい。」
嫌がるラテナに笑みを浮かべ、サシャータは話を続ける。
「サラダはすごい美味しいですってね。」
「肉がいい。それに、コーレントールって海に囲まれた宿だろ?森林浴したいよ。」
「私は海水浴が好きです。今日の宿は姉さんの好きな場所だから明日は我慢して。」
そしてサシャータがそう言い終わると、会話に間が生まれ、冬特有の乾いた涼しい風が二人の顔を撫でる。
立ち上る湯気はお互いの顔を隠しているが、二人とも微笑みを浮かべてるのはお互いなんとなく分かっていた。
「「何笑ってるの?」」
お互いの声が被り、二人とも声を出して笑った。
最初に口を開いたのはラテナだ。
「え?だってさ、うちらこんなにも好き嫌い真逆なのによくここまで続いてるよな。」
そう楽しそうなラテナにつられてサシャータも人差し指を曲げて口元に持ってきて「ふふっ」と上品な笑い方をする。
「私も思いました。さぁ、出ましょうか。そろそろ披露が溜まってきて眠くなっちゃいました。」
大きな欠伸をするサシャータを見て、ラテナも「そうだな。」と相槌を打っては風呂から上がり、脱衣所の方へ向かう。
その間ラテナは自分とは違う、傷一つないサシャータの背中を後ろから見ては、「いつも援護してくれありがとな。」と声をかけた。