7.危機の実感
犬人間と猫人間が去り、俺の目の前には倒されたゴリラが残された。
し、死んでるんだよな? 実は生きてましたー! とかいって襲って来ないよな?
木の棒を拾ってツツいたけど、全く反応が無かった。
「し、死んでる! というネタはおいといて」
うわー、マジで死んでるんだ。
えっと、えっと、どうしたら良いのかわからずゴリラの死体を見ていると、俺は気持ち悪くなってきた。
う……そういえば死体なんて見たの初めてか? 小さな猫や犬の死骸なら見た事あるけど、このサイズになると……凄い量の血だな、匂いも……うっ!
「おげぇ~~! ごほっ! うげ~!」
俺はリバースしてしまった。
急いでテントに戻ると俺は口をゆすぎ、そのままテントの中に入り寝袋を抱きかかえた。
俺も死ぬのか? ゴリラみたいに? 血だらけで?
あ、テントが破れてるな、さっきの猫人間が切ったんだっけ? 新しいテントを買わないとな。
死ぬのが怖いのに、何故か冷静にテントを見ていた。
新しいテントか……考えてみりゃ雨風はしのげるけど、襲われたらひとたまりもない。
もっと頑丈な家が欲しい。
でも家なんてな……いや、だからこそ人里を探してたんじゃないか。
人が居れば、せめて命の危険は減るはず。
よし、一刻も早く人を見つけないと!
俺は立ち上がり、簡単に装備を整えてテントを後にした。
夜になり、元の場所に戻って新しいテントを買い、夕食のインスタントラーメンを食べていた。
「見つからねぇ……結構範囲を広げたのに、どこまで行っても森しかないじゃん……」
ポン
『耕二君、夕食はもう食べた?』
『今ラーメン食べてるよ』
『野菜は入れた?』
『ウインナーは入れた』
『ダメだよ? 野菜も入れないとバランスが悪いから』
『大丈夫だよ、どのみち襲われたら助からないんだし』
『……ごめん』
ああ、なに陽菜に当たってるんだよ。
今日の昼間、巨大なゴリラに襲われた事を陽菜と健吾に話した。
二回目にゴリラの死体を見た時は、特に気持ち悪くならなかったから、写真も送った。
流石に二人ともビビってたな。
あんな大きな奴に襲われて、しかも犬猫に助けられたんだから。
ゴリラに吹き飛ばされた時の怪我は、防刃ベストのお陰か打撲で済んだ。
まだ痛いけど、湿布を張って我慢している。
防具をしっかり着ていてよかった。
……そうだよ、陽菜が防具を教えてくれたから、俺はこうして生きているんじゃないか。
お礼すら言ってない。
『ありがとう』
ポン
『え?』
『陽菜が防具を探してくれたから、俺は助かった』
『ううん、耕二君だから助かったんだよ。私だったら無理だもん』
『陽菜、会いたい』
『え? こ、耕二君?』
『ここには誰もいない、言葉も通じない、一人ぼっちだ』
ポン
『耕二君! ほら私の写真だよ! 私はいつでも耕二君の側にいるから! いつでも呼びかけに答えるから!』
部屋着の陽菜が、硬い笑顔で小さくピースサインをしていた。
肩より少し長い黒髪、前髪は切りそろえられていて目を大きく開き、必死に口を横に広げて笑顔を作っている。
健吾もそうだけど、小学生の時から一緒にいる。
幼馴染になるのか?
ほんの一日ぶりなのに、とても懐かしく見える。
ポン
『弓矢を買え耕二!』
いきなり健吾が入ってきた。
弓矢? そんなの売ってるのか?
リンク先を見ると、すごくゴッツイ弓矢がいっぱい並んでいた。
『え? こんなの買えるのか?』
『他にもスリングショットもあるが、威力ならコンパウンドボウの方が圧倒的に上だ!』
コンパウンドボウ、弓の両先に歯車が付いていて、弦が交差している。
なんか初心者でもわかるアーチェリー講座って本もある。
ん? 随分と小型の物もあるんだな。
矢以外にも鉄球の撃ちだし可能? それは便利そうだ。
ポン
『まって健吾君、こんなの使ったら危ないよ!?』
『近距離用の斧や槍じゃダメなんだ陽菜。今回みたいなゴリラが相手になると、接近すること自体が命取りになる』
『そ、そうだけど、自衛に徹した方が良いと思うの』
『相手は待ってくれないんだ』
遠距離攻撃の必要性か、それには確かに賛成だ。
しかし俺はもっと必要だと感じるものを思い出した。
『二人ともありがとう。弓矢の練習もするけど、そもそも見つからない様にする必要があると思うんだ』
『見つからないって、隠れる練習でもするのか?』
『木登りの練習?』
『それも良さそうだが、迷彩服を買おうと思う』
『迷彩服か、確かに森の中なら見つけにくそうだな』
『どんなのを買うの?』
いくつかのリストを送り、三人であーでもないこーでもないと言いあった。
結局はシンプルなガラの、ウッドランドとかいう奴にした。
そして今後の方針を話し合う。
『でもいそいで人を見つけないと、これからも危険が付きまとうな』
『周囲二キロメートルを調べても、見えるのは森だけなんだよね?』
『ああ、双眼鏡で見ても、木しか見えなかった』
ポン
『FF外から失礼します。ドローンを使って空から調べてはいかがですか?』
全く知らない人が、俺達のチャットに入ってきた。