建てよう海にコテージを
親父さんたちが漁に出てしばし。迎えた朝。
予想通り、今日もここエミナは晴天だ。
どこまでも広がるエメラルドの海が気持ちいい。
憂鬱でない朝。こんなにも気持ちが前向きになるものなのか……。
俺は今日、この白亜の砂浜に家を建てる。
方向性はもう決まってる。
テーマは、南国ビーチリゾートだ。
アリサの用意してくれたスープを飲みつつスキルを確認したところ、やっぱり【クラフト】はとんでもない。
まずは【変換】だ。
ポイントを10振ったこいつが、なかなかヤバイ。
これはたぶん、分解と再構成を同時に行うっていうとんでもスキルだ。
「――――変換」
スキルの発動によって、足元の砂が石に変わる。
綺麗な白色の石を次々に作り出して、それをまとめて10振りの【加工】スキルで綺麗なブロックにする。
「考えてみたら、浜に建てる家ってコテージだよな……それなら思い切って、建物の一部を海にせり出す形にしようか」
スキルウィンドウから、大型コテージのアイコンを選ぶ。
浜の上に浮かび上がるガイドライン。あとはこの指定にそってブロックを集めて――。
「――――クラフト」
これで土台が完成。
「位置は……これで大丈夫だな」
「うわー、すごい」
見ればアリサがぽかんと口を開けていた。
確かにクラフトスキルの有用性は異常だ。でも【変換】のすさまじさはここからなんだよな。
続いて必要なのは木材。
これは建材に向いた木さえあれば【加工】で変えられる。
でも、裏の森にそんな木があるのかは分からない。
そこで【変換】だ。
大量に作ったブロックに、このスキルを使うと――。
「うわっ! 木になったよ!?」
アリサが驚きの声をあげる。
そう、これが【変換】の恐ろしさだ。
石を木に変えるなんていう奇跡が普通にできてしまう。
ただ、物質によって変換比率が違うんだろう。
砂から石に換えるのと違って、木材にすると結構目減りする。
これを鉄なんかに換えようとすると、さらに減ってしまうんだろう。
同じ要領で、俺は次々ブロックを作っては木材に換えていく。
「お手伝いします!」
そう言って素材を運びをテキパキとこなしてくれるアリサと共に、数時間。
無事、必要な素材が集まった。
「見てろよアリサ。いくぞ」
「うん!」
アリサが大きくうなずく。これから起こる奇跡を前に、もう興味津々だ。
「……ユーキ」
ゴクリと息をのみ、アリサは真っすぐに俺を見る。
「今なら……できる」
「だからそれやめろって。なんで気に入ってんだ」
今思い出しても恥ずかしい決め台詞に、俺は苦笑いしながらスキルを発動する。
「――――クラフト」
集めた素材が、光と共に消える。
ガイドライン上にワイヤーフレームが描かれ、すさまじい速度で空間が塗り替えられていく。
「うわ……」
アリサがまた、あんぐりと口を開ける。
クラフトスキルの発動から、わずか十数秒。
エミナの輝く海。その純白の砂浜に、立派な木造のコテージが建立された。
「我ながら……とんでもねえな」
思わずうなる。
見た目はそのまま、高級ビーチリゾートのコテージみたいだ。
白い石で作られた土台に組まれたウッドデッキ。
大きな四面屋根で、二階はなし。
「ほら、中も見てみようぜ」
アリサは口を開けたまま、こくこくとうなずいた。
一歩入れば、そこから足元は濃い色のフローリングで統一。
二階がないせいで天井は高く、窓も多めに取ったことで開放感がある。
「ひろーい!」
ロビーを兼ねたエントランスから続く広いリビングダイニング。ここはカウンターを挟んでキッチンともつながっている。
カウンター越しに顔を出したりひっ込めたりするアリサに、思わず笑みがこぼれる。
まためちゃくちゃに浮かれてんなぁ。
あとは部屋をいくつかと、後回しにしてる風呂とかのためのスペース。
家具なんかもまだ最低限しかないけど、それは後々考えよう。
「そして一番のお気に入りは……」
リビングからそのまま海上に突き出す形のウッドデッキだ。
「あれ? これはなに?」
アリサがデッキの先端に置きっぱなしになっている素材たちを見て首を傾げた。
よくぞ聞いてくれた。ここが最後の仕上げなんだ。
「――――クラフト」
スキル発動。
デッキの上に現れる、かやぶきのパラソルとビーチチェア。
「おおーっ」
さっそくアリサが腰を下ろす。
その目には、どこまでも続くエメラルドの海だけが映っているはずだ。
これぞまさに、思い描いていた通りのリゾートハウス。
「な、なんだこりゃあ!」
沖にやってきた船からあがる声に振り返る。
親父さんが漁から戻って来たのか。
……しまった。
アリサには「エミナにいていいか」って聞いたけど、親父さんたちには何も言ってない。
そのうえ勝手にこんな大きい家を建てて、これじゃ侵略者みたいじゃないか。
漁から戻ってきたばかりの親父さんたちは、俺の建てたコテージを驚きの表情で見つめている。
「お、親父さんっ! 俺、エミナが好きで! ここに住みたいと思ってつい……これ、建てちゃいました……っ!」
ウソ偽りなく、思いを告げる。
すると親父さんは――。
「こりゃ……新築祝いもやんなきゃいけねえなあ!」
そう言って笑った。その手には見たことのない大きな魚。
負けじと戦果を掲げてみせる、親父さんの仲間たち。
よかった。うれしくなって俺は、思わず頭を下げる。
「――――ありがとうございますっ!!」
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