まぶしい海と女の子
「う……ううん」
ゆっくりと目を開く。
「ぺっぺっ。なんだこれ……砂か?」
目の前にあったのは、ただ真っ白な砂地。
「どうなってんだよ。あの能面女神」
こんなの、いくらなんでも無茶苦茶だ。
ていうか、これってもう異世界に放り出された後なんだよな?
淡々と、しかも強引に。
これじゃ、死ぬ前と同じじゃないか。
あれやこれやと押し付けられて、それを抱え込んで……。
ため息を一つ。それから顔に着いた砂を払い、視線をあげる。
そして辺りを確かめるために、振り返ると――。
「うわ…………」
思わず声がもれた。
最初に目に映ったのは、きらめく一面のエメラルド。
どこまでも続く抜けるような、いやもう完璧に抜け切ってる大きな青空に、燦々と燃える太陽。
「ッ」
そして思わず目を細めてしまうくらいまばゆく反射する、純白の砂浜。
そこにはただ、広大な海がキラキラと輝いていた。
すごい……世界には、こんなに綺麗なものがあったのか。
ただぼんやりと眺めているだけで、こんなに穏やかな気分になれるなんて。知らなかった。
背負っていた何かが、張り詰めていた何が、解放されていくような感覚。
「別に……海なんて好きでも何でもなかったんだけどなぁ……」
夏はバカみたいに暑くて、海水はしょっぱいし、砂は張り付くし。
遊ぶのだって、大人になればもう面倒なだけ。それが海だったはずだ。
それのに、バカみたいに目を奪われ続ける。
ここには会社のビルも、駅も、アスファルトが貼られた道も、電信柱もない。
ただどこまでも広がる砂浜があるだけだ。
「…………はっ」
おっと、いつまでもこうしてちゃいけない。
辺りを見回してみる。
見えるのは誰もいない一面の海。続く砂浜。そしてその端にわずかに見える森。
泳いでいくのはさすがに無理そうだけど、少しの距離を挟んだ先にも陸地が見える。
どうやらここは、離島みたいだ。
日本で言うと、石垣島とかの感じかな?
「さて、どうしたものか……」
やはり異世界転生は本当らしい。これはもう疑う余地もない。
「っていやいや、スキルの確認が先だろ」
思わず苦笑い。
こんな基本的なことを忘れてしまうくらい、余裕のない日々を生きてたんだなぁ……。
「それでは、さっそく――――スキルオープン」
言葉に反応するように、文字が視界に現れた。
クラフト > 999
良かった。最後に半ば無理やり受け取ったカードだったけど、無事スキルはもらえてるみたいだ。
どれどれ……内容はクラフト?
なんだこれ。なんか999ってなってるけど……レベルはカンストしてるってことなんだろう。
「とりあえず、使ってみるか」
何がいいかな。とりあえず今出すなら……小舟とかか?
片手を肩の高さに上げて、木製の船を想像する。
「――――クラフト」
…………あ、あれ? 何も起きないぞ。
「おかしいな。スキルってこういうことだろ?」
もう一度、今度は天に手を掲げて――。
「クラフト!」
…………ダメだ。何も起きない。
そうか、分かった。集中だ。精神を研ぎ澄ますんだ。
目を閉じて、意識を体内に集中する。
ほら、やっぱり何かを感じるぞ。身体の内側からほとばしる何かを――。
この感覚をさらに研ぎ澄まし、そして全身に行き渡らせる。
そして、イメージとそれが融合したその瞬間!
「クラフト!」
…………何も起きねえのかよ!
これは一体どういうことだ?
S級の使いやすいギフトって言ってたよな?
それなのに発動すらしないってどういうことだ?
「……そうか! 素材だ。素材がないのにいきなりクラフトは出来ないってことか」
俺は足元に砂をかき集めて、その上に両手を乗せる。
今度こそいけるはずだ。
作るのは砂の城でいい。
それならもう、ここには素材しかない。問題なく完成するはず!
よし、今度こそ頭にしっかり砂の城を思い浮かべて! 頼む! 発動してくれ!
「――――クラフトォ!」
集めた砂は、ピクリともしない。
「ウソ……だろ?」
まさかの事態。
突然の立ち眩みに、思わずその場に倒れ込む。
辺りは見渡す限りの砂浜。誰もいない海。そして太陽。
そういえば、食べずに来たせいか空腹だし、暑さでのどもカラカラだ。
向こうの陸地まで泳いで行くなんて、とても無理。
視界がグラングラン揺れ出す。頭も熱い。
俺は砂の上に倒れ込んだまま、目を閉じる。
なんだよこれ。俺……また死ぬのか?
転生して、チートスキルもらって、使う前に死ぬやつとかいる?
いや、使うどころか何ができるのか確認もできずに死ぬって、バカにもほどがあるだろ。
死んだら、また女神のところに戻されるのかな……。
もしそうなったら…………大外刈りをぶち込んでやろう。
それからあの長いローブで簀巻きにして異世界に放流してやる。うん、それがいい。
遠くなっていく意識。
俺の異世界転生物語、これにて終りょ――。
「おーい、大丈夫ー?」
なん……だ?
聞こえてきた声に、顔をあげる。
するとそこには、太陽みたいな笑顔をした女の子がいた。
「良かった! 大丈夫そうだね」
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