VS女神様
エミナの真っ白な砂浜。
コテージの前に集まった皆に、告げる。
「俺は元々この世界、アルテンシアの人間じゃないんだ」
「どういうこと……?」
俺の告白に、アリサが首をかしげる。
「別の世界からここにやってきたって言えばいいのかな。その時にその取り計らいをしたのがあそこにいる女神さまだ」
「女神さま……ですか」
マリアンヌがチラリと、女神の方を確認する。
まあ、にわかには信じがたい話だろう。
「俺のクラフトスキルも女神さまにもらった力だって言えば、少し納得できないかな?」
「……なるほどな。ならば最初に感じたあの大きな力も、海を割って現れるなんていう奇怪さも、少しは理解できる」
クロウはそう言ってうなずいた。
「そしてこの力は、この世界のために使わなくてはならないってのが女神さまの言い分だ。分かりやすく言えば……魔王を倒せと」
「待って、ここを出るの?」
エリーナが慌てて、俺のシャツをつかんだ。
それに応えるように首を横に振る。
「……俺はここが、エミナが好きだ」
思い出すのは、今日この瞬間までのこと。
「前の世界では、不安に押しつぶされそうだった時もあった、どうしようもない理不尽を押し付けられて怒りを抱えながら過ごしていた時も、向けられた害意に身体を悪くしたこともあった」
「……ユーキは色んな痛みや苦しみを知っていた。だから我らに『ここにいろ』と言ってくれたんだな。放っておけないと、そう思ってくれたのだろう?」
クロウの言葉に、うなずくことで応える。
「そんな俺も、アリサに助けられてようやく楽になれたんだ。だから今は俺の番。俺はここで出来ることをしていきたい。そして皆といたい。だから――――力を貸して欲しい」
心配そうにしていた皆の前で頭を下げる。すると。
「もちろんだよ」
「今度は私の番ね」
「力になれるなら、なんだってしますよ」
「当然だ」
頼もしい仲間たちはそう言って、笑ってくれた。
◆
「持って来たぞ!」
「ありがとう!」
親父さんから受け取った新鮮な魚介を、アリサと共に得意の料理へと変えていく。
エミナが迎えた夜。
温かみのある木材で作られたリビングを、火精石が橙色に照らし出す。
そのテーブルの中心には、女神の姿があった。
魔王と戦うためにここを出るか、スキルと世界をもう一度選び直すか。
そんな選択肢を突き付けられた俺にできること。
それはやはり、一つだけだ。
すなわち、俺が見つけた大切なものや絆を知ってもらう事。
アリサがキッチンを駆け回り、テーブルには次々に豪華な料理が並ぶ。
今回も俺が現代から持ち込んだ知識を使い、それをアリサが中心になって形にしていく形式だ。
茹でたペンネに、目にも鮮やかなエビのトマトソース。
香草とレモンを使った白身魚のマリネ。
エミナ名産の鯛的なヤツのムニエルも、盛り付けはホワイトソースにキノコ、ミニトマトで綺麗に。
アッサリめの味付けの魚介出汁スープには、めずらしくジャガイモやニンジンなんかも使っている。
そして、あさり、えび、いかをオリーブオイルで煮込んだアクアパッツァ。
これを大きな鍋で作って取り分けて食べるのが、ここの定番。
見るからに、アリサが気合を入れてくれてるのが分かる。
「……では、失礼いたします」
そう言って女神は、並んだ料理をなんてことなく口に運ぶ。
一見いつもと変わらない雰囲気のリビング。
それは事情を聴いた親父さんたちが、普段通りの態度でいてくれるから。
この雰囲気もまた俺が好きな、俺が元気を取り戻すために一役買ってくれたエミナの要素の一つだ。
さあ、どうだ!
出来は最高。高まる期待。
しかし女神は、表情の一つも替えない。
「よろしければ、こちらもどうぞ」
そう言ってマリアンヌが持って来た、ココナッツリキュールのカクテルも――。
「ありがとうございます」
顔色一つ変えずに飲み干してしまった。
「……ユーキ」
自分自身がハマったこともあって、マリアンヌはとても綺麗なグラデーションのカクテルを作る。
それでも、女神の不愛想は変わらなかった。
アリサが不安そうに俺を見る。
「大丈夫」
夕食が終われば次は風呂だ。
風呂に関しては、エリーナの提案でもう一つ趣向を乗せるつもりだ。
それは、香り。
エリーナが持って来てくれた香水をわずかに落とすと、途端に優雅な花の香りが浴室中に広がっていく。
「――――クラフト」
もちろんタオルは作ったばかりの物を。
ふわふわのタオルを受け取った女神は、「ありがとう」と短く応えて風呂へと向かっていった。
「上手くいくといいわね」
「そうだな」
「……ねえユーキ、大丈夫よね?」
「ああ。なんとかなるよ」
明らかに不安そうにしているエリーナに、笑みを向ける。
そして、なんだかウソみたいに長く感じた待ち時間の後。
「……ど、どうだった?」
風呂から出てきた女神に、エリーナが問いかけた。
女神は、それでもまったくその態度を変えない。
「ありがとうございました」
ただ一言そう言って、そのまま部屋へと戻って行く。
「あ、あの、待ってください!」
するとそんな女神を呼び止めたのは、アリサだった。
「その、少しわたしたちと遊びませんか?」
そう言って、以前作ったトランプを手に女神を誘う。
それはもう、最近の俺たちの日課の一つになっている。
皆で遊んで、たくさん笑う。
エミナの一日を締めくくるひと時。俺はすぐに飲み物を作りに動き出して――。
「いいえ、結構です」
その足を止める。
女神はすげなくそう答えると、部屋へと帰って行ってしまった。
「…………」
言葉を失ってしまったアリサや、呆然とする俺たちを残して。
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