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まさかの再会

 陽光まぶしいエミナの砂浜。


「はいっ! エリーナ!」


 俺たちはビーチバレーに興じていた。


「いいわよアリサ! ユーキ後は任せたわ!」


 エミナの青い空に、ボールがポーンと高く上がる。


「任せろ!」


 俺は踏ん張りのきかない砂に気を付けながらジャンプして、そのまま全力でボールを打ちつける!


「クロウ!」


 マリアンヌの声に、黒猫モードのクロウがボールを額で跳ね上げた。

 さすがにうまい!

 ボールは弧を描き、そのままネットの直前へ。

 助走を付けたマリアンヌが跳び上がる。その跳躍力は見事の一言だ。だが!


「させるか! クラフトォ!」


 スキルの発動と同時に、足元の砂が隆起し石壁に変わる。

 放たれるマリアンヌの強烈なアタックも、壁を打ち抜くことはできない。

 弾かれたボールはそのまま、相手側の陣地に落ちていく。

 クロウのバックアップも間一髪届かない!


「よーし、俺たちの勝ちだ!」

「やったあ!」


 歓喜のアリサが抱き着いてくる。


「ッ!!」


 ……い、いや、アリサさん。

 思わず硬直する俺。

 水着姿のアリサが抱き着けば当然、その大きめな胸もほぼほぼダイレクトに当たるわけで……。

 こういう時の「気づいてない」顔、なかなか難しいんでそろそろ離れて……いや離れないで。


「なーにヘラヘラしてんのよ」

「痛たたたた」


 そんな俺の脇腹を、エリーナが不機嫌そうな顔でつねってくる。

 いや、多少のヘラヘラは許してくれよ。

 それじゃなくても、胸を揺らしまくるマリアンヌに翻弄されながらやってたんだからさ……。

 そう。思い付きでビーチバレーをやろうと言い出したところまでは良かった。

 ボロの網を親父さんにもらって【クラフト】でネットを作り、それを木で作った杭に張る。

 ボールも古布を皮に【変換】して、あとはクラフト一つ。

 ただ……。

 アリサやエリーナのビキニ姿に慣れたせいか、マリアンヌまで水着を着てみたいと言い出して……。

 これがまずかった。

 大き目なアリサをさらに上回るボリュームを誇ることが発覚したマリアンヌ。

 それが紺色のビキニ一枚で飛び跳ねる姿はもう……凶器だぞ。


「またヘラヘラしてるけど?」

「あっいや、エリーナもすっかり慣れたよな。よく似合ってるよ」

「ちょっと、こんな流れであらためて見返さないでよ。恥ずかしいでしょ……」


 そう言ってエリーナは、俺の頬を明後日の方に向けようとぐいぐい押して来る。


「ですがこの競技、なかなか楽しいものですね」

「うん、楽しい! こんな風に皆で遊べるって最高だよ!」


 興味深そうにするマリアンヌと、はしゃぐアリサ。


「夜はゲーム、昼もこうやってみんなで遊べるっていいね」


 そう言って、屈託のない笑顔を向けてくる。

 アリサは毎朝俺のコテージやって来て、遅くまで一緒にいる。

 俺もすっかりエミナの日々に馴染んできた。

 ……毎日がこんなに楽しくなるなんて、思わなかったなぁ。

 ――ビクッ。

 エメラルドの海を眺めながら、しみじみとそんなことを考えていると、突然クロウが身体を硬直させた。

 なんだ? 毛並みが……逆立ってるぞ。


「クロウ? どうした?」

「何か……恐ろしい気配を感じる」


 恐ろしい気配? なんだ、急にどうしたって言うんだ?


「……はい、何か来そうな感じがします」


 見ればマリアンヌも、緊迫した顔をしている。


「おい、これはいったいなんだ?」


 それから間もなく、風が強まり、エミナの海が妙な荒れ方をし始めた。

 荒れる海、強烈な風に巻き上がる砂ぼこり。

 まさかの異常気象。その中心に、自然と視線が集まっていく。

 すると、そこにいたのは――。


「ウソだろ……あれって……」


 うなりをあげながらやって来るのは、長い白金色の髪に青い目をした、とんでもない美人。

 その姿には覚えがあった。

 そうだ、間違いない。あれは――。



「女神さま……っ」



 相も変わらず神々しいその姿。

 俺は久しぶりに再会した『以前の俺』を知る存在に、思わず走り出す。


「女神様っ! 俺、俺どうにかこの世界で生きてます!」


 歓喜の心に任せて真っすぐに。

 砂を跳ね上げ、勢いのままに突っ走る。


「女神さまあっ!!」


 そして白のローブをまとった女神さまに抱き着くと、俺はそのまま――――大外刈りでぶん投げた。


「ぷぎぇっ」


 女神はエミナの白い砂浜に、頭から突き刺さった。

 ローブが捲れて、開いた脚が木の枝みたいに天に向かってそそり立つ。

 純白のレースが凄いパンツも丸見えだ。


「……ぷはっ! あ、あなた、何をするのですか!?」

「黙れこのボケ女神! お前が雑な派遣をしたせいで、俺はこの世界にたどり着くや否や死にかけたんだぞ!」


 俺は今でもはっきり覚えてる。

 ロクに説明もせず、適当にスキルを押し付けて、そのうえ送り先は見知らぬ離島の砂浜だ。

 どう考えたって、死んだばかりの相手にするような仕打ちじゃねえ。

 そんなロクでなし女神のことを、忘れるはずねえんだよ!


「今さら、何をしに来たんですか?」


 そう問いかけると、女神は顔についた砂を払って得意の不愛想面で俺を見た。


「戦いなさい」

「戦う? 何と?」

「魔王です」

「…………ま、おう?」

「な、なぜそんな初耳みたいな顔ができるの……?」


 あ、ああ。まおうってあの魔王か。

 言われてみれば、死んだ直後にそんな話をされた気がする。

 ギフトスキルを与えるから、異世界で魔王と戦えって。

 確かに言われたよ……でも。


「断ります」

「……そんなことが認められると思っているのですか?」


 俺の返答に、突然女神はその眼を鋭く細めてそう言った。

 ――空気が、変わる。


「我々によって調整されたスキルは本来『過ぎたる』力。そして転生転移やスキルはこの世界を良くするためのものなのです。あなたはそれを私的に使っている。ギフトスキルで遊ばれては困るのです」


 それは、あまりに唐突な言葉。


「あなたには今すぐここを出て魔王討伐に向かうか、もう一度天界に戻って『選択』するかを……選んでもらいます」

「…………え?」


 まさかの要求に足を止めたのは、俺を追いかけて来たアリサだった。

 アリサは俺の腕を強く抱きしめる。


「ユーキ、どこかに行っちゃうの? そんなのイヤだよ……っ」

「アリサ……」


 ずっと笑みと共にあったアリサの表情が、不安に曇っていく。

 なくなろうとしていたこの村を、惜しんでいた時のように。


「だってユーキは皆を助けてくれた。たくさん笑わせてくれた。これからも……一緒にいたいよ」


 …………そうだ。

 俺と、エミナと、手にしたギフトスキル。

 そして出会った皆。その全てがつながって今がある。

 抱えた状況は皆、決して良くなかった。

 でも今はたくさんのものを取り戻して、こうして一緒に笑えるようになったんだ。

 それは、そんな日々は。


「遊びなんかじゃない」


 俺は、女神に向かって告げる。


「俺がこれまでしてきたことは、決して大きな仕事とは言えないかもしれません」


 もちろん魔王や魔族と戦ったりもしていない。でも。


「この世界の人たちと一緒に、前向きに日々を送ることができるのなら、それも『いいこと』だって言えるはずでしょう?」


 それはこれから出会う人にだって変わらない。

 傷つくばかりの日常から離れて、休んで、自分を取り戻す。

 そんな場所を作る。

 そのためなら俺はこの『力』を惜しまず使うし……使いたい。

 俺がここに来たばかりの頃に、アリサや村の皆にしてもらったように。だから。


「俺はここを出て行くつもりはありません」

「わたしたちには、ユーキがいるこの場所が大切なんです……っ」


 俺たちのそんな言葉に、女神は少し考えるようにした後。


「――――いいでしょう」


 そう言って、ため息をついた。


「……ならば見極めます。あなたが、あなたたちが『力』を無駄にしていないかどうかを」


 そしてそのまま一人、コテージの方へと歩いていく。

 こうなればもう、するべきことはただ一つ。

 俺がここエミナに来てからの全てを、ぶつける。

 だから、その前に。



「アリサ、エリーナ、マリアンヌ、そしてクロウ――――聞いて欲しいことがある」

お読みいただきありがとうございました!

もしよろしければ、ご評価いただければ幸いです。

何卒よろしくお願いいたします!

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