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不愛想女神と転生と

それはいつもの帰り道の途中だった。


家に帰るのはただ、風呂と短い睡眠のため。


暑くなれば薄着をし、寒くなれば着古したコートを羽織って仕事へ。


それが何年続いたんだろう。


それすらもう、よく分からない。


あちこち痛み出した身体を引きずって暮らす日々。


最後に笑ったのはいつだったか。そんなの覚えてない。


どうしてこんなに、世界は理不尽なんだろう。


誰かと楽しく話をしたのだって、もう、いつのことだったかなぁ。


まともな思考力なんて、とっくにどっか行ってしまっていて。


だからかな。


12時間ぶりの食事。その買い出しの途中。


道路に飛び出した猫を、助けようとなんてしてしまったのは。


目の前に迫る車と、目がくらむ強烈なライト。


路肩に放り投げた黒猫が、驚いたようにこっちを振り返る。


俺は、笑っていたと思う。


きっと俺より、あの黒猫の方が生きる価値がある。


もはや時間や季節の移ろいすら感じられなくなっていた俺なんかより、いるだけで皆を癒せる猫の方がよっぽど。


だから、これでいいんだ。



   ◆



「ここは……?」


 目を覚ますと、見知らぬ場所にいた。

 神秘的な輝きに照らされた、白い部屋。そして。



「――――志田悠貴さんですね」



 俺を呼んだのは、白く優雅なローブ姿の女性だった。

 長い白金色の髪に青い目をした、とんでもない美人だ。

 まるで聖女の様な彼女は、ただ真正面から俺を見据える。


「あなたは先ほど亡くなられました。つきましては今後について、お話しさせていただきます」


 美術品みたいな椅子に腰かけたまま、その美人は淡々とそう告げた。


「死んだ? 俺が死んだ?」

「はい。それではあなたの今後についてですが、異世界に向かい、魔王と戦っていただきます」

「……はい?」


 な、何を唐突に言い出すんだこの人は。

 確か俺は……仕事からの帰り道に車にひかれそうな猫を見つけて。

 それで身代わりになって……。


「あれ、ちょっと待て。これ知ってるぞ。死んだ人間を異世界に転生させる物語は何度も読んだことがある。ということは、あなたは女神……?」

「話が早くて助かります。日本人はとりわけ理解が迅速ですね。ではお好きなギフトスキルをお選びください」


 そう言って女神が、束になったタロットカードみたいなものを突き出してきた。


「いやちょっと待ってくださいよ」


 なんだこれ、話の展開がすげー早いぞ。


「そもそも行く行かないの話もまだですし、スキルって選ばせてもらえないんですか?」

「スキルは各種能力の向上はもちろん、幻覚を見せたり、天変地異を起こしたりと、その数は多岐に及びます。全てから選ぶとなると時間がかかってしまいますので」


 しかもすげえ淡々としてる……。役所の受付だって今時もう少し愛想いいぞ。


「でも、向き不向きだってあるでしょう?」


 食い下がる俺。

 すると女神は「次がつかえてるのに」と、小さくため息をついた。

 な、なんて態度だ……。


「ギフトスキルは分かりやすく、そして使いやすく我々の手によって調整されています。誰でも即座に英雄のごとき活躍が出来ますのでご安心を。向かう世界はアルテンシア。剣と魔法の世界であり、あなたたちの感覚で言えば、異世界ファンタジーというところでしょう。もちろん、『ここ』を通った時点で言葉も通じます」

「アルテンシアってなんだよ」

「スキルについては、向こうに到着次第スキルオープンと唱えていただければ確認できますので――」

「だからちょっと待ってくださいよ。死んだばかりの人間に、今度は命かけて戦えって酷くないですか?」

「……ちょっと何をおっしゃっているのか分かりません」

「いや分かるだろ」


 難しいこと何も言ってないぞ俺。


「とにかく、魔王討伐が責務となりますので、くれぐれもSランクギフトに恥じないご活躍を」


 そう言って女神が立ち上がる。


「だからちょっと待ってくださいって! そもそも行かない場合の話とかをまだ聞いてないし」

「早く受け取らないと、ギフトスキルなしのままになりますよ?」

「はいっ!? 何だよそれ冗談じゃないっ!」


 突き付けられたカードを、俺は思わず一枚引いてしまう。

 すると女神は、これで契約完了とばかりに頭を下げた。


「期待しております。それでは――」

「だからちょっと待ってくれって! だから話はまだ」

「――――ご武運を」


 最後まで淡々とした女神の言葉。

 次の瞬間、俺は意識を失った。

未熟者ですが、よろしくお願い致します。

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