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第9話 つ、強い……。

 

 名古屋ダンジョンに挑むこと数日、俺達は今第38層にいる。


「そっち行ったぞ!」


 赤い炎を纏ったゴリラのような魔物が真奈へ攻撃しにかかるが、彼女は剣で攻撃をいなし、隙があればカウンターを叩き込んでいた。


 ぶっちゃけ元々戦士であった俺の目から見ても、彼女の戦い方は完成している。人それぞれ自分に合った攻め方、守り方があるのだが、彼女は既に自分の型を確立しているようだ。

 

 薄々気づいていたが、彼女には戦いの才能がある……。


 粒子となって消えていく魔物を見つめる彼女に、俺は気になってことを聞いてみた。


「誰かに戦闘を教わったことがあるのか? 随分と安定して動けているな」


「そうですか? これといって教えてもらった経験はないし、強いて言えば無名君との訓練くらいでしょうか」


 俺と初めて会った時と今で、彼女の戦い方はほとんど変わっていない。

 俺は教えるのがそんなに上手くない、いわゆる感覚派というやつで、彼女との訓練でもこれといって何かを教えたことはなく、ただただ戦って覚えるみたいな感じだった。


 つまり、彼女はここまで自力で強くなったということだ。


「剣道とか古武術とかしてたりは?」


「ないですよ、部活ならやってましたけどバスケとかテニスとかですし……ていうか、そういう無名君はどうなんですか? 私より断然洗練された動きしてますけど」


「帰宅部歴イコール年齢だな」


「他に何かしてたとかは?」


「前世で勇者を少しばかり……」


「……」


 冷たい目で見られましたとさ。

 







 今日のダンジョン探索を終えた俺たちは、泊まっているそこそこお高いホテルへと向かっていた。


「たまに出る無名さんの前世ネタって何なんですか? 流行ってるんですか?」


「いやこれが実は本当の事でして……」


「へぇー」


「ダンジョンができるくらいなんだから、前世の記憶が出てきたっておかしくないだろ?」


「ソデスネー」


 これは全然信じる気がないな?

 最初に話した時に冗談で言ったと思われたのが失敗だったか、あれ以降何回か話題に出してみても冷たい反応が返ってくるだけだ。


「それはそうと、夜はどうする? どっかで食べてくか?」


 ホテルの宿泊内容に夕食も入っているのだが、豪華な部屋でコースメニューか、泊っている部屋に運ばれてくるスタイルというどちらも落ち着かないものだった。そのため、事前に食事は別で食べようという話をしていたのだ。


「実はもう予約をしてあります。ホテル近くの店に七時からで」


「おぉ、どんな店なんだ?」


「居酒屋みたいな品揃えでしたね、勿論個室です」


 丁寧な味付けというのも良いのだが、どちらかと言うと濃いめの、少々雑な料理の方が好きな俺としては有難い。その辺も考慮して店選びをしてくれたのだろう彼女に感謝を伝え、心の中で支払いは自分が行おうと考えていると、


「今、支払いは俺が……とか思ってますね?」


「な、何故分かった」


「お見通しです。割り勘ですからね」


 有無を言わせない目つきで言い切る彼女の圧に負け、俺は渋々了承する。

 貸し借りとかの話じゃなく、こういう時は男が払うべきなんじゃないのか? これまでもなんやかんやで外食の時は割り勘にされてたし……うーむ。



 

 店に着き、席に着いたところで店員からおしぼりと水を貰う。注文をして料理が運ばれてくる間、俺は一つのアイデアを思い付いた。


「なぁ、パーティで使えるお金を作らないか?」


 パーティで使う共有の資金があれば、二人で行動する時に発生する金銭問題は解決する。

 良い考えだと思った俺に対して、真奈の方はやれやれと言わんばかりの顔をしていた。


「そのお金は誰が用意するんですか?」


「そこは……まぁ、パーティリーダーとして俺が……」


「却下です。意味ないじゃないですか」


 俺の思惑は見ぬかれているようで、他にもあれこれ付け足して提案してみたが、どれも許可されなかった。

 だんだんと眉間にしわが寄っていく彼女は溜息を一つつくと、食事の手を止めて真面目に語り掛けてきた。


「前にも言いましたけど、別に貸し借りが嫌で断っているんじゃないですからね? もう少し分別を付けて欲しいだけです」


「俺だって何でもはやっていないぞ?」


 食事だったり買い物だったり、二人の時はパーティーとしての行動がほとんどなので、リーダーとして俺が支出を請け負っているに過ぎない。個人の買い物には一切介入してないぞ。


 そう反論してみると、真奈は再度……今度は深いため息をついた。


「普通のパーティーリーダーはメンバーに奢ったりしません。あったとしてもお祝いとかでたまに奢るくらいで、毎回毎回奢ってたらリーダーへの負担が大きすぎるじゃないですか……」


「そのためにパーティー用の資金があるんじゃないのか?」


「パーティー用のお金は有事の際に使う貯金、という認識が一般的です。食事や買い物に使うようなお金ではありません」


「そうなのか……」


 言われてみればそうなのかもしれない。つい最近見た『パーティー運営の基礎』という本を元に提案してみたパーティー資金案だが、よくよく思い出せば真奈が言った内容と同じ説明が書かれていた気がする。


 思い悩む俺を見かねてか、彼女は妥協案を出してくれた。


「分かりました、パーティー資金は認めます。資金はドロップアイテムの売却金から捻出しましょう。ただし、使い方はお互いの了承がある場合のみとします」


 俺の提案を多少だが受け入れてもらえたことに喜んでいると、彼女はしっかりと釘を刺してきた。


「食費と買い物は認めません。これからも割り勘です」


「いちいち割り勘って面倒くさくないか?」


「嫌なら私が全額払いますが?」


「すみませんでした」


 か、勝てねぇ……。ていうか、もうこれ俺じゃなくて真奈がパーティーリーダーを務めた方がいいんじゃないか?



 後日、パーティー用の口座が作られたが、案の定名義は彼女になった。

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2020/10/26 00:26 退会済み
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