第3話 暴走と決断
真奈さんからの電話で伝えられた内容は、端的に言うとおじいさんが暴走したらしい。
とりあえず何かしらの事件ではなかったことに安心する。いや、一応事件か。
電話を終え、既にこちらに向かっているという彼女に、住所は分かるのだろうか? と思ったのだが、そういえば家が決まった時にメッセージで送ったのだった。
荷物が運び終わったのを見届けながら、さてどうしたものかと思っていると、インターホンが鳴った。おそらく真奈さんだろう。
「お邪魔します……本当に、お邪魔します……」
「ああ、うん」
何とも言えない表情でやってきた彼女をとりあえず椅子に座らせて、俺も向かい側に座る。
内容が内容だけに現実味がなかったが、当事者が来たことによって冷静に考えられるようになってきた。
「一応確認なんだけど……マジ?」
「まじ……です」
「何があったのか、聞いても良いか?」
「はい。それが……ですね」
今朝、真奈さんの自宅に一本の電話があったそうだ。
それは、真奈さんのミリタリー除隊を認めるという知らせだった。どうやら、俺が訪問した日から、真奈さんとおじいさんは話し合いをしてミリタリーを抜けること決めたらしい。
そして、今まで住んでいたマンションから正式に引っ越しをお願いしますと言われたのだそうだ。
というのも、ミリタリーの重役である大杉さんに、もうマンションには住まない方が良いと言われていた俺たちは、それぞれ真奈さんは実家、俺はセキュリティのしっかりしたホテルでここ一週間を過ごしていたのだ。
大杉さんは、どうやらメディアが嗅ぎつけたようで、見つかれば大変になるだろうと言っていた。
孫と暮らせるとおじいさんはとても喜んだのだが、その後に家のセキュリティについて問われると、お世辞にも大丈夫とは言えない状況だった。
おじいさんの家はただの民家だ。セキュリティなんてないに等しい。そこで、彼女はセキュリティについておじいさんと相談したのだが。
彼女が必要なセキュリティについて、俺の新しい住居を例に出したのがいけなかった。
おじいさんは嬉々としてこんなことを言い出したのだ――無名君と住めばいいじゃないか、と。
おじいさんはすぐに行動を起こしたらしい。
既にあらかたの荷物はマンションから届いていたので、後はそれを俺の新居に送るだけ。住所は俺が彼女に教えた時におじいさんも知ったらしく、引っ越しの準備は一瞬だったようだ。
「その、止められなかったのか?」
「勢いに負けてしまって……」
先日、少し彼女の家族の事を聞いた。幼くして事故で両親を失った彼女はずっと祖父に育てられたきたのだそうだ。
おじいさんに感謝してもしきれない彼女は、おじいさんの行動を否定しずらいのだろう。それは、この前訪問した時になんとなく気づいていた。
彼女が俺の家に来たのも、おじいさんに急かされたらしく、「もう無名君にメッセージを送ったからな」と言われ、諦めて俺に電話をかけたそうだ。
「すみません。私がもう少し強く拒否できていれば、無名さんにご迷惑をお掛けしないで済んだのに……」
申し訳なさそうに頭を下げる彼女を、俺はどうにも見ていられなかった。
彼女の言う事は間違ってはいない。ただ、友人というひいき目なしに、今回の件については俺はおじいさんが悪いと思う。
何故彼女が責任を感じて俺に謝罪をしているのか、俺は納得ができない。
色々考えること数秒、俺は腹をくくった。
「わかった」
「……?」
「シェアハウスだっ!」
おじいさんには少々腹が立つが、ダンジョン探索やセキュリティについて等々、悪いようにはなっていないと個人的に思った。
俺としても別に迷惑だとは感じないし、同じパーティとして活動するなら今よりも接しやすい環境の方が、色々と都合が良いだろう。
俺が彼女の言葉を否定し同情したところで、何の救いにもならないしな……。
要は、俺が受け入れてしまえばいいのだ。それに、迷惑だと思っていないのは本心だ。きっと、彼女は俺のことを思いはかってくれたのだろう。
後は、彼女の気持ち次第だ。
「おじいさんの暴走に少し驚きはしたが、結果的には良い判断だと思う。真奈さんはどう思う?」
「えーと、そうですね。シェアハウス……いいと思います」
少し思うところがあるのか返事までに少し間が空いたが、自分の中で納得したような様子があったので、俺の方も安堵する。
「今回の事は気にするな。俺は迷惑だとは思っていないし、もし俺に迷惑を掛けたと思うなら好都合。返しきれない借りが少し返せて嬉しいくらいだ」
「……」
何か言いたげな表情をした真奈さんだが、このやりとりはいつもの事だ。こうやってお互いの貸し借りをうやむやにした方が、都合がいい事もある。
それから、真奈さんのおじいさんに諸々決まったことを連絡すると、了承とお礼の返事、そして謝罪が長々と送られてきた。
一人になって少し落ち着いたのか、おじいさんも度を越してやりすぎたことを反省しており、それでも孫娘を大事にしたいという気持ちが文面から伝わってくる。
文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、やめた。
急な引っ越しの決定については謝罪も貰ったし、あくまで俺は部外者だ。突っ込みすぎるのは良くないだろう。
「まぁ突然ではあったが、一件落着。 これからよろしくな?」
「お騒がせしました。それと、これからよろしくお願いします」




