第36話 戦いと圧倒
数十メートル先に倒れていたボスが起き上がる。体長は10m程度、全身が木で覆われた人型の巨人だ。
鑑定を行い、結果を確認する。
リバース・ノーム Lv95
HP 97200/108000
MP 9500/15000
攻撃力 6000
防御力 8800
知力 5300
抵抗力 4900
素早さ 4500
運 1000
【スキル】
武装Lv40 危機察知Lv40 物理耐性 Lv60 魔法耐性 Lv30 回復魔法Lv30 自然体Lv5
【称号】
生命の賢者
おそらく物理特化の耐久系だ。HPと防御力の数値がかなり高い。
「魔法主体でいくか」
俺が戦闘スタイルを決め終えると、それに合わせたかのように奴は突っ込んできた。スピード的にはそう速くはないが、図体がでかいのでかなりの迫力だ。
止めるか……
後ろにはまだ真奈さんがいる。ここで避けようものなら一大事だ。
身体の魔法を司る部分に意識を向ける。属性は土、奴を受け止められるほどの大きさの壁を作りあげる。
衝突した奴はまさか止められるとは思っていなかったのか、驚いたような声をあげた。
「Gwooo!!!」
ここ最近は真奈さんに負けじと魔法の練習をしていたので、魔法の質は衰えていないどころか、ダンジョンに挑んでいたころよりも上がっている。
奴はすぐに壁から離れると、何やら不思議な『構え』をとりだした。
「あの状態に入っている時がボスの回復時間です。私たちはあれを見て、撤退の判断をしました」
後ろから聞こえてくる真奈さんの助言のとおり、奴に残っていた僅かな傷が癒えていく。ステータスにあった自然体とはあれの事か。
……ふむ。
「面倒なので、一気にいくか」
奴のステータス的に、魔法攻撃による短期決着が望ましいだろう。
イメージするのは火属性と風属性の魔法。弓の弦を引き絞るかのように魔力を凝縮していく。
魔法は魔力を込めれば込める程威力は上がっていく。カオスソルジャーが相手だった時にはなかった時間的余裕を、奴が用意してくれている。
まずは一つ目だ。
「切り刻んでやるよ」
俺の前方に出来上がった巨大な竜巻が奴の体を覆っていく。その暴風の中に囚われたが最後、そう簡単には抜け出せないだろう。――さらに
「Oooo!?」
竜巻の内部では、鎌鼬のごとく強烈な風の斬撃が絶えず発生している。
HP回復と俺の魔法攻撃が拮抗し、奴のHPは今の数値で停滞していた。
続けざまに発動するのが大本命。
俺の身長の優に10倍はあろうかという火球が、奴めがけて発射される。
――耐えれるもんなら耐えてみやがれ
風魔法で身動きが取れず、咄嗟に防御姿勢を取った奴に、俺の火球が直撃した。
「う、うわぁ……」
後ろにいる真奈さんの視線が痛い。
奴の方を見ると、それはもう酷い有様だった。
風魔法でボロボロにされつつ、火魔法の直撃で大ダメージを負った奴のHPは残り一割だ。
実は風魔法で酸素を送り込んでいるので、炎も継続して燃え広がっている。
「……オーバーキルだな」
戦いにおいて、時にはごり押しという戦法も必要なのだ。
「Woooo!」
最後の抵抗なのか、俺の魔法を振り切り突進してくる奴に向かって、俺は魔法を展開する。
俺の手から勢いよく飛び出したのは、まるでレーザーような青色の光線。
その正体は、――高圧の水だ。
「Gwo……」
体をぶち抜かれたボス――リバース・ノームは、その姿を光の粒子へと変え、砕け散っていった。
♦
ボスのドロップアイテムは気になる所だが、とりあえず彼女に何か言った方が良いと思い振り向くと、何故か頭を深く下げていた。
「助けていただき本当にありがとうございました……正直もう無理かと思っていました」
「礼ならいらないよ……お互い様だ」
俺も一度、彼女に命を救われている。いや、救われている回数なら一回どころではないな……。
俺の言い分をなんとなく理解したのか、彼女は薄っすらと笑みを浮かべるとその場に座り込んだ。
「はぁーもう死ぬかと思いましたよ! とくに最後の魔法も、余波だけでヤバすぎです!」
「いや悪い悪い……でも助けられてよかったよ」
俺の言葉に照れ臭くなったのか、何か話題を探す素振りをした彼女は、思いついたかのように起き上がった。
「そ、そうだ! ドロップアイテムを確認しに行きましょう!」
「おう」
俺たちは、ボスが消えた場所に向かって歩き出した。