第34話 何故……
第50層は一本道だった。
この前見た、世界の攻略済みダンジョンの情報サイトに書いてある通りで助かった。
時間がない急げ。
――また救うのか?
ああ
――あんなに裏切られたじゃないか
また裏切られるかもな
――やめたほうがいい、人助けなんて
誰かが語り掛けてくるように、俺の思考に介入してくる
――人間なんて嫌いだろう?
そうだな
――人間なんて信じられないだろう?
まあな
これはきっと、前世の記憶……昔の俺だ
――思い出せ、お前は何人も救ってきた
――救いを求める声、助けを呼ぶ声
――救われる側にとって、救ってくれるお前の存在は有難い
――だがどうだ? お前が救ってほしい時、いったい誰が救ってくれた?
昔の俺が、今の俺を唆す
――余裕のある奴が余裕のない奴を救う
――お前の余裕がない時、何故他に誰も余裕がなかったのだろうなぁ?
――お前は裏切られたんだよ
――都合のいい救世主、それがお前だったんだ
そうだな。彼らは誰一人、俺を救ってくれなかった
――だろ? 余裕がない時はお前に助けを求めるくせに、自分は助けようとしない
――強き者は弱き者を助ける義務がある?
――勇者? 救世主? ヒーロー?
――可哀そうにな。彼らは自分がピンチの時に、誰も救ってくれない
救われる奴もいるだろう?
――それは、救った奴に余裕があったからだ
――だからこそ、お前は死んだ
――なぜならお前が一番上にいる救世主だったからだ
――お前に余裕がなければ、他に誰が余裕を持てるんだ?
極端だな、時と場合によるだろう
――悪いことは言わん、人助けなんてやめてしまえ
――誰かと関わって、損をするのはお前だ
――誰かを信じて、損をするのはお前だ
――俺はお前のために言っている
思うのだ
結局この世界はどうしようもなく理不尽で
優しい人が「善」とされているのに
優しい人は「損」をするようにできてる
――あぁ、生きにくい。生きにくい
何故、人間不信になる?
この感情は、この思考は、この経験は、どこからくる?
なぜ、俺は生きにくい思いをしている?
ようやく気付いたよ。何で今の俺が、人を信用できないのか
――――――――――――――
彼女と初めて会った時、俺は何故か信用してしまっていた
同じだった。誰かを救おうとして、自分が犠牲になった俺と
シンパシーのようなものを感じたのだろう
今の俺は
だからこそ、歩み寄った だからこそ、救いたい
俺のように歪まないように
俺のように屑にならないように
――偽善だな、お前は彼女を自分に重ねている
――救われて欲しいと思っている
――優しくしてくれたことを「損」にしたくないと思っている
――最後の忠告だ、誰かと関わるのはやめろ。最後に損をするのは、お前だ
はは
――何が可笑しい
決めたよな、俺は自由に生きるって
――そうだ、自由に生きるには、一人でいる方が良いのだ
悪いが、俺は自由に生きることにするよ
昔の俺から、俺は『自由』になる
――何を言っている?
お前の価値観を、俺に押し付けるな
そもそも、今を生きているのは今の俺だ
なぜ昔の俺に、今を決められなければならない
――まて、少し前のお前は理解していたはずだ
――孤独の方が良いことを
――またお前は騙される
――他人を信じるな! 俺を信じろ!
お前よりも、信じようと思える人がいるんだ
もしかしたらそれは、もうただの共感だけではないのかもしれない……
――何故だ! 間違っている!
――どうしてそこまで否定する!
――俺は俺のために……
――何故、俺の言う事を聞かない?
分かってるだろ?俺は……
人 間 嫌いなんだよ