第33話 一位
真奈ちゃんが一人でダンジョンに取り残されている。
それを知ったベテラン冒険者達は動き出した。
エントリーオーブやエスケープオーブを使用したものは再使用に丸一日のインターバルを要する。つまり、今行けるのは今回の攻略に参加していない私たち、補欠組しかいないのだ。
「俺はいくぞ! エントリーオーブならまだあるんだろ!」
「俺も行くぞ……こんな状況で、黙って待っているなんてできない」
「もちろん俺も行く。彼女を見捨てるなんて選択肢、考えられない」
ベテラン冒険者たちはそういってテレポートオーブを取りに行こうとした。
しかし、そこに現れたのはいかにも重要なアイテムが入っていそうな頑丈なケースを持った――大杉隊長だった。
「隊長……」
「君たちが求めているエントリーオーブはここにある……しかし、私はこれを使わせることはできない」
「何故です隊長! このままでは彼女が死んでしまいます!」
「君達が行って何になる……私は戦闘についてはからっきしだが、今回の攻略に参加できないような実力の君達が行ったところでボスを倒せないくらいは分かる」
「では隊長は、このまま見殺しにしろとおっしゃるんですか!!!」
ベテラン冒険者達はとても悔しそうな、今にも泣きそうな顔をして訴える。
「世の中には、時に冷酷な決断をしなければならない時がある……」
隊長の顔は変わらない。だがその目には、ベテラン冒険者と同じくらい悲しみの色があった。
「確かに、彼女はミリタリーにとって重要な人物だ……しかし! 命の価値はみな平等である! 私は君達を死にに行かせるのを止め、彼女を見捨てるという決断をとる!」
いつもの優しい大杉隊長ではなかった。
そこにいるのはミリタリー第二部隊隊長、大杉泰造。いくつもの修羅場を潜り抜けてきたであろうその威厳に、私たちは言葉を失った。
結局分かっていたのだ。彼女は助からない。それこそ、世界に散らばるランカーを集めない限りは。
「くそ……くそっ!!!」
「あの子はまだ若いんだぞ! 俺らなんかより……もっと……ずっと……」
「ちくしょうが……」
「真奈ちゃん……」
私たちが、諦めかけていた――その時
「おっさん、それ、借りるわ」
一人の男性が現れた。
♦ ♦ ♦ ♦
「おっさん、それ、借りるわ」
俺はそう言い残し、ケースを奪うとその中身を魔法で無理やり取り出して、ダンジョンの入口へと向かった。
なぜ知らなかったのだろう……彼女があの、戦場の女神だということに。
なぜ俺は今ダンジョンへ挑もうとしているのだろう……彼女を救うために。
俺はダンジョンの入口に立っていた男に話しかけた。
「おい、ダンジョンのテレポートはどうやって起動する」
「は、はいぃ! 頭に行きたい階層の数字を思い浮かべれば行けますうぅ!」
そんなに恐れることは無いだろう。たしかに俺は今、酷い顔をしていると思うが。
俺がテレポートゾーンらしき場所へ向かおうとすると、さっきとは別の……やや堅苦しいスーツを着た男性役員が、俺の行く道を手で塞いできた。
「あの、ダンジョンの中へ入るには……その、ランキングの確認が」
「急いでいる、そこを退け」
「こっ、これは世界会議で決められたことでして……。い、一応法律に定められていることでもあってですね……」
はぁ。
俺は頭上を意識した。
「ダンジョンランキング一位、小鳥遊無名だ。これで文句はないだろ」