第29話 リベンジと師匠
「前回はよくもやってくれたな」
さんざん俺の事をあしらいやがって。
「今回の俺は一味違うぜ?」
周囲に魔法を展開――対象をロックオン。
「お前の味は変えていないがね!」
勝負だ、お好み焼き。
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負けた。
何故こうも上手くひっくり返らないのか。材料に接着剤入ってたっけ?
フライパンに引っ付いてしまう原因が分からない。
「なるほど、タイミングの問題か……」
インターネットの力を借りて、自分の何がいけなかったのかを分析した。火加減が一定ならば、調整すべきはひっくり返すまでの時間だ。
そうと分かれば話は早い。
俺はダッシュでストップウォッチを買いに行った。
そして携帯のタイマー機能に気づく。
俺はダッシュで部屋に戻った。
今回は風魔法を使う事でフライ返しのフライをアシストしてみたのだが、残念ながら綺麗にひっくり返すことはできなかった。
そもそも俺の料理スキルが低いので、手でやろうが魔法でやろうが変わりなかった。
その時、部屋にインターホンの音が響いた。
真奈さんかな。
モニターに映る人物は予想通り真奈さんだったので、どうぞ、と声を掛けた。
「おじゃましまーす……うわっ! なんですこのたこ焼きを集めて潰して無理やり固めたみたいなお好み焼きは」
「ねぇ、それ前の説明部分いらないよね。お好み焼きって分かってるもんね」
最近この子、容赦なくなってきてるよね。
「へー、無名さん趣味で料理してるんですか」
「前はドライブが趣味だったんだが、免許がないからな」
「なるほど」
彼女に趣味で料理をしていると言うと、彼女は意外そうな顔をした。
そんなに意外だろうか……最近は男も料理をすると思うのだが。
彼女は俺の作ったお好み焼き……もとい、たこ焼キメラを薄目で見る。
「あんまりうまくいってないみたいですね」
「ああ、なかなか上達しなくてな」
これでも結構料理を勉強している方なのだが、まだ足りないのだろうか。本や動画、時にはラジオまで、様々な情報源を頼りに勉強をしているがどうにも上手く行かない。
「私、教えましょうか? 自炊とか前までしてたので」
真奈先生……
二人でキッチンに並ぶ。
彼女のエプロン姿は何故か妙に似合っていた。これが最強職『主婦』の貫禄か。
いや、彼女はまだ結婚していないのだけれど。
俺が今日作った時と同じ手順で、新しいお好み焼きのネタを用意した。
彼女は慣れた手つきでそれをフライパンに流し入れ、蓋をした。
「あの……先生、時間は測らなくていいのですか?」
「いいんです、こういうのは見て、そして必要なら箸でつついて状態を確認するんです」
「な、なるほどぉ」
やはり言葉では伝わらないコツみたいなものがあるのだろう。
言った通り、菜箸でつつきながら様子を見る真奈先生。
「本格的なものになると、途中で肉をのせたりするんですよ?」
「へぇ、テレビで見るあれはそういう手順で作ってたのか」
十分かからないくらいだろうか。いよいよ鍋の蓋が開けられ、彼女の右手にはフライ返しが握られていた。
「じゃあ、見ていてくださいね……よっと」
お好み焼きが宙を舞う。実際にはそんなに浮いていないのだが、俺にはそう見える程、軽やかな動きをしていた。
「はい、後は蓋をして待つだけですね。もう一回ひっくり返してもいいかもしれません」
「真奈先生……いや、真奈師匠!」
「し、ししょう?」
「どうか俺にその技術を伝授してください! この通りです!」
俺は頭を下げる。
ぶっちゃけ少し甘く見ていた。所詮は年下の女の子、自炊をしていると言ってもいう程の技術はないだろう、と。
だが、俺は感動していた。目の前で起きた事実に。
彼女は紛れもなく料理人だ。
「いや、これほんとに誰でもできますからね? ……あ、すいません。誰でもではないかもです」
そんな可哀そうなものを見る目で俺を見ないでくれ。分かってるから、料理下手なの。
「でも、そうですね……分かりました! 料理をお教えしましょう! 無名さんには魔法を教えてもらいましたからね」
ギブアンドテイクです! という彼女に俺はありがとう、と礼を言う。
日程については俺は基本暇なので、彼女に合わせるということになった。
♦
「ほんとに同じ材料か?」
俺は彼女が作ったお好み焼きと、自分のお好み焼きを食べ比べしていた。
ネタは俺が作ったし、焼き加減もそれほど差があった感じはしなかったのだがな……。
「うーむ、美味い」
彼女の作ったお好み焼きは、一瞬で俺の腹へと収まった。