第24話 魔法と先生
「魔法を教えてほしい?」
俺がここに引っ越してきてから二週間経った。
彼女は昨日が攻略日だったので、今日はお休みをもらったらしい。
その説明をしている時の顔がなんとも形容しがたいもので、落ち込んでいるのか彼女の笑いはどことなく力がなかった。
何かあったのか? と聞くと、ダンジョン攻略があまり上手く行かなかったらしい。とくに自分の力不足に悩んでおり、責任を感じているという。
俺に何かできることはないか? と聞いてみると、彼女は俺に魔法が使えるかどうか聞いてきた。
使えるぞ、というと、閃いたかのように顔をこっちに向け、先程の発言をしたのだった。
「はい、無名さん以上に講師として頼りになる方はいないと思います」
「俺、あんまり教えるの上手くないと思うぞ?」
「聞いて駄目だったら見て学びます!」
やる気に満ち溢れる彼女に、やっぱ無理だなんて言えるはずもない。
「分かった……あんまり期待しないでくれよ?」
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彼女と一緒にマンションの地下にある訓練場へとやってきた。他の住居者は今日も仕事なので、訓練場は貸し切り状態だ。
「とりあえず確認だが、魔法は何の属性が使える?」
それによって俺が教えられることは限られてくる。俺がまともに使えるのは火、水、土、風の4つだ。
光と闇魔法はまだ慣れていないので、教えるには技術が足りないと思う。
「えーと、風魔法と水魔法ですね」
「なら安心だ。両方とも使える」
「おぉー、さすがですね」
良かった。これで俺の使えない魔法がでてきたらどうしようかと少し不安だった。
「まずは君の魔法を見せてくれ」
「わかりました!」
はい先生! とでも続きそうに真面目に従う彼女に、こちらも真面目に教えなければと姿勢を正す。
そうだ。彼女は真剣に悩んでいるのだ。まだ若いだろうに、ミリタリーの一員としての義務をしっかり果たそうとしている。そのためには努力を惜しまない、というその覚悟に、俺は尊敬すら覚える。
彼女には沢山の借りがある。全力で講師を務めようじゃないか。
「水の攻撃!」
「……え?」
「え?」
詠唱、ダサくない?
「わぁ、すごい……」
彼女の詠唱のセンスの無さには少しばかり驚かされたが、魔法自体は問題なく発動した。彼女に魔法の詠唱について聞いてみると、「割とみんなこんな感じですよ?」と返ってきた。
ほ、ほんとかなぁ……
今のは決して人間不信がどうのとかではないぞ!? ただちょっとあの詠唱について、ほんとにちょっとだけだが個人的に無いなと思っただけだ。
そんな彼女に俺は無詠唱で魔法を発動して見せた。
やり方を教えてもこればっかりは自分も慣れの部分が強かったので、上手く説明できるとは思っていない。
一応説明してみたのだが、やっぱりいきなり無詠唱は無理だった。最初は頭の中で起きる現象をしっかりイメージすること、そして発動した時の感覚を覚えておくことが大事だと伝えた。
とくに、体で覚えるという表現が一番しっくりくると思う。とにかく魔法の準備から発動までの過程を意識して感じられるようになると、上達が早くなると教えた。
「無名さんは、無詠唱ができるようになるまでどれくらいかかったんですか?」
「うーん、大体練習し始めてから半年くらいだったかなぁ」
「そんな前から魔法を使えたんですか?」
「ん? そうだな、かれこれ半年以上使っている」
どうやら世間一般的に魔法は新しいスキルのようだ。そういえば、ステータスの不思議の著者が執筆したスキルの不思議でも、魔法の内容はあまり書かれていなかったな。
その後も彼女の魔法をしばらく見ていたのだが、一時間ほど経ったあたりで彼女の方から休憩の声がかかった。
「すみません、魔力切れです」
「おう、お疲れさん」
だいぶ集中してやっていたのか、彼女の疲労の原因は魔力切れだけではないだろう。
俺は近くにあった自動販売機で飲み物を購入し、彼女に渡す。
「あ、ありがとうございます」
「コツは掴めたか?」
「なんとなく……わかったような気がする」
俺から見ても彼女の上達具合は早い方だと思う。無詠唱こそ初っ端では無理だったが、魔法の質――威力や規模、安定性は少し良くなっていると感じる。
才能があるのだろう。若いうちからミリタリーとして第一線で活躍するのだから、おそらく実力推薦だ。最初は戦いのたの字も知らなかっただろう。凄いなと思う。
「凄いですね、無名さんは」
「俺が?」
「ダンジョンランキング一位というのは知っていましたが、実力を見たのは初めてです」
そういえばそうだったな。ダンジョンに入れないので見せる機会もなかったか。
「とても洗練されていて、今まで見た誰の魔法よりも綺麗でした」
「大袈裟だよ……でも、ありがとうな」
「いえ、お礼を言うのはこちらの方です! 今日はありがとうございました」
その後、最近は何をしているのか等、軽い雑談をして今日は解散となった。
彼女の上達スピードに、近いうち追い抜かれるのでは? と少し冷や汗をかいたのは内緒だ。
耐えろぉぉぉ俺のストックぅうう!
せめて……毎日投稿……だけは……。