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第20話 再会

 魔法って本当に便利だ。科学の時代、現代日本社会で使用するとその異様さに改めて驚かされる。


 何もない所から火が噴き、水が現れ、風が発生する。魔法が使えるようになって一年ほど経つ。俺はその科学では証明できない不思議な現象を、科学が発達した世界で観察していた。


「慣れたもんだなぁ」


 俺の手のひらでは小さな土の上に、これまた小さなが川が流れていた。どこからか吹いてくる微風に水は揺れ、その少し上には火でできた小さな太陽が浮かぶ。

 そこにはミニチュアサイズの自然もどきが形成されていた。


 魔法の同時使用、規模や出力の調整、安定した持続。どれもこれも最初は何一つまともにできなかった。

 魔法の発動方法なんて分からないし、誰も教えてくれなかった。ただ、スキルと同じようになんとなく体が動き、結果が得られるような感じだった。

 技名を付けると少し安定するのに気づき、その時から俺は無詠唱の可能性を信じていた。


 その時の予想は正しかった。今の俺は呼吸をするように魔法を発動できる。きっかけは、24時間常に魔法の事を考え、実際に使用してたら次第に体が覚えるようになってきたことだ。

 気づけば、どうしたら発動し、どのように想像すれば思った現象を起こせるのか。そういったことが理解できるようになっていた。


「ただ、()()()()無理なんだよなぁ」


 体にそういう機能がないのか、それともまだ修練が足りないのか、そもそも魔法にも限界があるのか等、理由は不明だが、いくら魔法でも可能なことと不可能なことがある。


 何かを発生する、生み出す、起こす、というのは割とできる。物質やエネルギーに関するものも多少なら可能だ。

 だが、あらかじめ存在する物を操作したり、消したりすることはできない。また、基本的に獲得したスキルの属性以外は使えない。


 例えば時間を止めるだとか、重力を掛けるだとかは試してみたけど駄目だった。

 その辺の仕様、言うなれば「魔法システム」が結構曖昧なものなのは、なんとなく不自然に感じた。

 

 まるで、誰かが作ったかのように調整されている。


 まぁ全て憶測に過ぎないし、事実無根の内容だ。仮にそうだとしても、こんなことをできるのはそれこそ神様くらいだ。

 この世界の変化は既に神の領域とも言えるレベルだが……。



「そろそろ炊き出しの時間だ」


 俺は腰かけていたベンチから立ち上がり、既に行列ができ始めている配膳場所へと向かった。


 食事が無ければ人は生きていけない。俺の現在の生活は、炊き出しにかなり助けられていた。


 ダンジョンの中でも食糧問題は大きな課題だったが、現代社会に帰ってきてもいまだに解決していないとは、これ如何(いか)に。





 炊き出しの豚汁を食べ終え、ゴミを片付けに行こうとしたら誰かに声を掛けられた。


「あの、小鳥遊無名さんですか?」


「え?、はいそうですが……」


「良かった……あ、覚えていますか?、如月真奈です」


「え! ……何故ここに?」


 声の主は、全体的に地味な格好をした真奈さんだった。つばの深い帽子を被っていたので一瞬気づかなかった。

 彼女と会うのは五日ぶりだ。でもなぜこんなホームレスの沢山いる場所に?


「と、とりあえず場所を移しましょう。えーと確かこの辺に……」


 キョロキョロと辺りを見回す彼女の髪の先がさらさらと揺れていた。出会った時にはセミロングのゆるふわな髪型だったが、今日は髪を編み込んで、横側耳より前以外は帽子の中にしまっている。

 

 改めて見ると、彼女はなかなかの美少女だ。顔立ちは整っており、髪は明るいブラウンでさらさらだ。体型も健康的で出る所はしっかり出ており、記憶にある笑顔の彼女を思い出すと、美人というより可愛い系の印象が強かった。


 あんまりじろじろ見るのも失礼なので、彼女に質問をすることにした。


「どこに行くんだ?」


「えーと、この先に私の行きつけの喫茶店がありまして……」


 彼女がよく行く喫茶店はチェーン店だそうで、この付近に来る時に見かけたそうだ。

 程なくして店が見つかり、俺たちは二人掛けの机に向かい合うように座った。


「それで、要件はなんだ?」


「無名さんに連絡先を渡したでしょう? でも一向にメールが届いてこないのでもしかしたら携帯が使えない状況かもしれない、と思ったので直接会いに来ました」


「あぁ、確かに俺は今メールを送れない状況にいるが、直接会いに来るほど何か事情が迫っているのか?」


 彼女は一度深呼吸をすると、俺に事情を話し始めた。

 ダンジョンランキングを公開しない俺が一文無しになっているのではないか、そして生活するのにも苦労しているのではないか、と。

 要するに、俺の行動が読まれていたわけだ。


「よく俺が身寄りのいない天涯孤独だと分かったな」


「あー、それについても説明しますね」


 彼女は俺の事を自分の上司に伝えたそうだ。

 まぁ予想できたことだ。あんなに勧誘してくるくらいなのだから、俺の存在はやはり相当貴重らしい。


 本当は喋るなと口止めをしても良かったのだが、その時の俺はダンジョンランキングがこんなにも社会と結びついているとは思っていなかった。自分が死んでいることになっているのも知らなかったしな。


 つまり、彼女の言う上司が俺の所在をあらゆる方法を用いて調べ、彼女をそこに向かわせたってこった。

 良くやるよほんとに。今も()も国ってのは手段を選ばなくて好きじゃないね。

 

心理描写って難しい……。


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― 新着の感想 ―
[一言] うんうん。国って信用ならんよな。わかる。
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