第18話 人間嫌い
俺は真奈さんとの会話を思い出す。
「ダンジョン発生の時に大地震が起きて、多くの被害が出たそうです」
「なるほどな、それなら確かに俺も経験した」
「結構多かったみたいですよ、無名さんのようにダンジョン発生に巻き込まれた人」
「最初は異世界にでも飛ばされたのかと思ったよ」
「あはは、確かに私も最初は夢かと思いましたよ」
そう、俺は一年前。ダンジョンの発生に巻き込まれた。
そしてそれからずっと、俺はダンジョンの中にいた。
死んだと思われても仕方がない。おそらく、俺のように巻き込まれた人で実際に死んでしまった人も多くいるのだろう。魔物が現れるのだ、普通の人なら殺されてしまう。
また、生き残った人もいるだろう。俺がダンジョンで初めて地に足を付けた時、そこは第一階層だった。つまり、人によっては入り口がすぐ側にあるのだ。
「この年でまさかのホームレスとは……」
小鳥遊無名21歳。身寄りなし。相続人なし。
『認定死亡』につき、家、金、物、人権、全てを失う。
ホームレスを超えてオールレスである。
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とりあえず、服屋にやって来た。身なりがかなり酷く、悪目立ちしていたためだ。
所持金が少ないので、なるべく安いのを選んでいると店員が話しかけてきた。
「お兄さん、冒険者の方ですか?」
同じくらいの年齢の男性店員だった。肯定の返事を返し、なるべく安くて目立たたない服は無いかと尋ねると、笑顔で対応してくれた。
「最近はそういう格好をしてる人が増えましたねぇ」
「そうなんですか?」
「ほら、最近冒険者を始める若い人が増えたでしょう? ダンジョンで服が破けるなんて日常茶飯事ですから」
あの記事の影響かなぁ、と呟きながら店員はてきぱきと服を選んでいく。
服装が決まったので試着をした。そのまま着ていくと伝え、料金を払い店を後にする。
「さて、これからどうするか……」
俺が生存報告をしに行かないのには理由がある。
まず、持ち物は一年ですべて失ってしまったため本人証明ができない。
そして、仮に信じてもらえたとしても、必ず身分確認が行われる。
そうなると、俺のダンジョンランキングを公開しなければならない。
彼女の話から察するに、おそらく今の社会においてダンジョンランキングはかなり重要な役目を果たしている。
定期的にランキングデータを更新しているということは、それ即ち身分証明の役割も担っているという事。何億人というデータをリアルタイムで管理するのは難しくない。AIやインターネットを使って行えば割とできるものだ。
この推測が正しければ、俺がダンジョンランキングを公開した瞬間に――俺の自由は無くなる。
国の管理下に置かれる。……それだけは絶対に避けたい。
「かと言って、このまま生きていけるかといわれるとなぁ」
あー嫌になる。こんなことならあのままダンジョンにいれば良かった……ダンジョン?
そうだ! ダンジョンにいればいいじゃないか! それなら生きていける!
思い立ったが吉日、俺は早速ダンジョンの場所を調べようとしたのだが。
「そうだった、あそこもダンジョンランキングの確認を行っているんだった」
もうこれ詰んでないか? いや、身分なしで生きていこうとしているのがそもそも無理な話ではあるのだが……。
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炊き出しにやってきました。やっていることがガチのホームレスのそれで逆に笑えてくる。
いいじゃないか、自由に生きよう。考えたってしょうがないことも世の中にはあるさ。
「あのお兄さんも若いのに大変だねぇ……」
「ダンジョンのせいで、わしは仕事先を失ったよ……」
「冒険者になれるのは一握り。わしらがなってもすぐに死んで終わりさ」
列に並んでいると、後ろの方からそんな話し声が聞こえてきた。 そうか、ダンジョンが出来たからといって良いことばかりではないのか。
どこかに価値が生まれ、お金が流れれば、どこかにその埋め合わせがくる。ある意味当たり前のことだ。
順番が回ってきたので皿を受け取り、お礼を言ってからその場を離れる。
こういう炊き出しなどのボランティアを見ていると、思うのだ。
何故誰かを助けようと思うのだろう。
何故無償で善を振りまけるのだろう。
一体それに何の見返りがあるというんだ?
人を助ける事が好きなのだろうか。
誰かの喜ぶ顔が好きなのだろうか。
それはただの『自己満足』ではないのか?
「俺も、酷い奴になってしまったなぁ」
俺は人間不信だ。信用できないし、関わりたくもない。
人間なんて嫌いだ。
でも、――そんな自分が一番嫌いだ。
活動報告書いてみました。
興味のある方は覗いてみてください(^^)