第17話 変わる思いと発覚
ダンジョンランキングなるものが俺の頭上に表示されているらしい。
一年以上全く気付かなかったとは自分でも驚きだが、頭上の確認なんて普通はしないしな。
その後、彼女にダンジョンランキングについて教えてもらった。
ダンジョンランキングは世界中の人々全員のランキングらしい。どういった基準でランキングが決まっているか定かではないが、おそらくステータスの数値ではないか、とのこと。
他にも、スキルや称号で変わってくるとも言われており、どちらにせよステータスが全体的に高い人がランキング上位、ランカーと呼ばれる人達なのだそうだ。
「私も一応ランキングには自信があったつもりなんですが、無名さんの前ではなんの自慢にもなりませんね……」
苦笑する彼女にどう声をかけていいか分からず、とりあえずこちらも苦笑いを返しておいた。
てゆうか俺が世界で一位? 全然実感湧かないんだけど。
あれだよね、アメリカとかロシアとか中国とかの国家機関がランカーを囲ってそうだよね。
「無名さんはこれからどうします?」
「とりあえず家に帰るよ。あ、お金ないんだった」
「貸しましょうか? 私持ち合わせ結構ありますよ」
「何から何まですみません」
俺、この子にすごい迷惑かけてる気がする。死にそうな所を助けてもらって、ご飯も頂いて、お金まで貸してもらってる。――すごいでかい貸しでは?
とりあえず雑談をしながらバス停のあるところまで歩いて行く。その時にダンジョンランキングの消し方も教わった。
時刻は午前9時、時間的には丁度いい時間らしい。
「えーと、あと三十分くらいですね」
「俺、君にどうやって貸りを返したらいい?」
「へ? お金のことですか? いいですよ全然気にしなくて」
「ああいや、君は一応俺の命の恩人なわけだし……」
「じゃ、じゃぁ私たちの仲間に……」
「それは厳しいです」
バスの中で、外の景色を眺めている彼女を見ながら俺はふと思う。
どうにもこの子の事は嫌いになれない。いつもなら……といっても一年前の事だが、俺は誰も信用していなかったし、好きにはなれなかった。
いつか俺のことを裏切る、そう思えて仕方がなかった。たとえ優しくされても何か裏があるのではないかと勘繰ってしまっていた。
今だって俺の考えは変わらない。
そりゃ、ダンジョンで生きていくうちに多少は気楽に考えられる性格になったとは思う。
だが、人はいつだって裏切る時は裏切るし、嘘もつく。優しさは結局のところ優しくした側の自己満足だ。有難迷惑という言葉だって昔から存在している。
でもなぜだろう、彼女の事は少し、信用してもいい気がするのだ。
俺の『自由に生きる』という誓いは最優先だ。俺はどこまでも自己中心的に行動するとダンジョンに入った時に誓った。
だが、少しくらいは彼女の頼みも聞こうと思うのだ――貸しを返すという建前で。
これも俺の自己満足を満たすための行動だ。何もおかしい所は無い、うん。
「一体俺は誰に言い訳をしているのだろう……」
「なにか言いました?」
「いや、なんでもない」
「そうですか……あ、そろそろ着きますよ」
♦
富士見市についた後は、一旦お別れということになった。
俺がどう借りを返そうか悩んでいると、彼女がメモ帳の切り端だと思われるものを渡してきた。
「これ、私のメールアドレスです。 携帯が復帰したらここに連絡をください」
「何から何まですまないな、この借りは必ず返す」
「そんな重く考えないでください!? ほら、あの、ポーションも頂いちゃいましたし?」
彼女の言うポーションとは、俺があのダンジョンで放置していたポーションのことだ。
俺と出会う前に何個か拾っていたらしく、とても申し訳なさそうに本人が言い出した時には何事かと思った。
正直持て余していたので、気にするな、と言ってそのままあげた。
彼女いわくとても価値の高い物なのだそうが、彼女には大きな借りがあるので、ダンジョンに落ちているアイテムなら武器でも装備でもなんでも持って行ってくれて構わないと言うと、「これだけで良いです! 十分です!」とかなり遠慮された。
ただ、アイテムに関しては誰かに取られる恐れもあるので、近いうちに彼女の所属部隊……ミリタリーだったか? が引き取ってくれるそうだ。
買い取りを希望ならアイテムの支払い金が払われるそうで、すごい金額になるので口座とか大丈夫そうですか? と少し心配された。問題ないと伝え買い取りをお願いすると、彼女はどことなく嬉しそうだった。
「さて、久しぶりだな。我が家は」
この時、俺は気づいていなかった。
世間一般的にも法的にも俺は大人で、
ダンジョン発生から約一年間、所在が分からない状態であり、
勿論、身内もいないので行方不明届が出されることもない。
つまり俺は……
死んだことになっていた。