第16話 出会いと現状確認
やっと主人公が人に出会いました
目が覚めると、そこは森林だった。――え?
まてまて、何故森林にいる。俺はダンジョン攻略を……は終わったんだった。
よく思い出せ。
カオスソルジャーを何とか倒して、魔法を手に入れて、それから、それから……飢え死に?
「あ、良かったです。目が覚めたんですね」
ん? 人?
「気分はどうですか? だいぶ顔色悪いですけど……」
そうだ、思い出した。腹が減りすぎて気絶したんだった。なんという無様な死に様、いや死んでないけど。
それはそうと、彼女が助けてくれたのだろうか。意識を失う直前に誰かの声を聞いた気がする。俺はそれを聞いてぶっ倒れたんだ。
「君が助けてくれたのですか?」
なんか喋りが変だったが気にしない。もともと会話は苦手な方だ。
「ええ、死んじゃったのかと思いましたよ」
軽く笑う彼女はそういいながら水筒を差し出してきた。
飲みます?、と言われたのでありがたく頂く。え、美味いんだけど何この水。
「ありがとう。それで、変なこと聞くようだけど、ここって何ていう国?」
とりあえず現状確認だ。ダンジョンを踏破してぶっ倒れて助けてもらったとこまでは理解した。
あとは、ここがどこなのかを知らなければ。ついでになんで言語が通じるのかも知りたい。
「えーと、ここは日本という国で、場所は富士樹海の奥地ですね」
少し不思議な顔をしつつ答えてくれた。というか日本? ここは異世界じゃないのか?
「ちなみに聞くが、今って西暦何年?」
「2030年の四月一日ですね」
「盛大なエイプリルフールという可能性は?」
「たぶんないですね」
え、ここマジで日本なの? やばいやつじゃんこれ。やばい奴じゃん俺。
彼女の話によると、どうやらここは本当に日本のようらしい。そして、俺は一年近くダンジョンで生活していたようだ。一年前に起こったというダンジョンの発生と大地震については、身に覚えがある。にわかには信じ難いが、そういうことらしい。
――ぐぎゅるるるぅ
「すまない、何か食べ物を頂けないだろうか。昨日から何も食べていない」
「おにぎりならありますけど、それでいいなら……」
了承すると、差し出されたのは普通のおにぎりだった。一口食べてみる。う、美味い!?
なんだこの子、さっきから出てくるものが美味しすぎるぞ。
「普通のおにぎりですので、不味かったらやめてもいいですよ?」
「そんなことはない、美味すぎて感動すらしている」
遠慮がちに言う彼女いわく普通のおにぎりらしいが、俺にとってはここ最近食べた中で一番おいしい料理だった。今までどれだけ自分が酷いものを食べていたのかが良く分かる。あれは食べ物じゃなかったな。
「その、お名前をお聞きしても?」
そう言う彼女の目は何故だか期待に満ち溢れていた。俺が自己紹介すると、顔には出さないがとても嬉しそうにしていた。
無名ってのはかなり珍しい名前だと自負しているが、それがお気に召したのだろうか。
「あの、すみません。もしかしなくても日本人ですよね?」
「あぁ、一応純日本人だが」
「あのっ! 軍とか興味ありませんかね!」
ぐ、軍? 俺の頭に浮かぶのはガッチガチのナイスガイたちがバリバリ働いている光景だった。
何故に軍? もしかして彼女はあれか? 軍オタなのか……?
俺が良い淀んでいると、彼女の方から補足が入った。
「私、ミリタリー第二部隊所属、如月真奈と言います。あなたに是非、ミリタリーへ入って頂きたいんです!」
そういう彼女の瞳は真剣だった。ミリタリーという単語を俺はよく知らないが、おそらくダンジョン攻略のチームかなんかなんだろうと予想がつく。
というのも、俺の見た目はボロボロだし、顔も悪くは無いがアイドルなんて向いている顔立ちじゃない。彼女が俺あいてに語ることは、ダンジョン関連くらいだろう。
確認すると、やはりそうらしかった。
「せっかくのお誘いには悪いが、沢山の人と行動するのは……」
とたんに彼女の表情がしょぼんとなる。
んー。年下の子にそんな顔されると精神的につらいなぁ。それにこの子は命の恩人とも言える。俺の本音的にはこれ以上交友を深めたくはないのだが、助けられた借りは返したいのも事実だ。
俺の中で、これ以上関わらないという意見と、借りを返さなければいけないという意見が対立する。俺が葛藤していると、断られたと思った彼女は凄く落ち込んでいった。
「そうですよね……いきなりすみません、変なこと言って」
うむ。
「とはいえ、君は命の恩人だ。何か俺にできそうなことがあったら言ってくれ。ちなみに勧誘系は禁止な?」
へこんでいた彼女の顔が急に輝きだしたので、一応釘はさしておく。悪いが俺は自由に生きたいんだ。下手に交友関係を築いて自分の生活を邪魔されるのは好きじゃない。
「ところで、なんで俺が戦えるって分かったんだ?」
いくらダンジョンで知り合ったからって、いきなり勧誘なんてするだろうか。ましてや彼女は年頃の女の子で俺は男だ。変な取引になったりとかは考えなかったのだろうか。
「なぜって、それを見れば分かりますよ」
そう言いながら、彼女は俺を……正確には俺の頭上を指さした。
「ダンジョンランキング一位……いまだに私も信じられないですよ」
だんじょん……らんきんぐ? 何それ知らないんだけど?
活動報告の存在に気づきました。