第14話 ダンジョンとゴミ拾い
ダンジョンの入り口は狭く、他のダンジョンと比べても半分くらいの大きさしかなかった。遠くから見た感じだと1層ごとはそんなに広くない。かと言って狭くもないわけで、これくらいの規模なら1層の攻略に一週間あれば行けるかな? という感じだ。
頭上を意識して、ダンジョンランキングを出す
「あっ、確認はしなくてもいいんだった」
普通、ダンジョンに入る時にはダンジョンランキングを確認してもらってから中に入る。そうしないと、身分確認ができないからだ。ダンジョンランキングの更新も同時に行っているが、もし中で死んでしまっていても気づかれないという危険を防ぐための措置でもある。
余談だが、ダンジョンランキングは非表示にできる事が発覚した。ダンジョン発生から半年後、突然そんな報告が増え始め、国も理由を解明しようとしたが、なぜ突然そんな機能が追加されたのか分からなかった。
当時は皆、頭上に数字があるという違和感に悩まされており、消えてほしいと願っていた人々にはありがたい出来事だった。
ダンジョンランキングを非表示にして、いよいよダンジョンの中に入る。
「ちょっと暗いなぁ、見えないこともないけど」
ダンジョンの中は薄暗く、5、6m先までしか見えない。この中での戦闘は厳しそうだ。
少し進むと段々と目が慣れてきたのか、だいぶ見えるようになってきた。それで分かったのだが、どうやらこのダンジョンは『踏破タイプ』のダンジョンのようだ。
『踏破タイプ』とは、ダンジョン自体の構造が割と単純な代わりに多種多様な魔物が現れ、攻略では戦闘がメインになるダンジョンのことだ。
もう一つは探索がメインの『迷宮タイプ』で、このタイプのダンジョンは戦闘が少ない代わりに構造が複雑で、マッピングに時間がかかるという特徴がある。
これといって基準は無いのだが、傾向としては『踏破タイプ』はスキルオーブが手に入りやすく、『迷宮タイプ』はアイテムが手に入りやすい。とくに後者のダンジョンには宝箱なるものが出現するため、レアなアイテムや新アイテムはほとんどこっちから発見されている。
それにしても、さっきから魔物一匹でてこないのが気味が悪い。
普通だったらそろそろ出てきてもいい頃合いだ。それも『踏破タイプ』のダンジョンならなおさらだ。
もしかしたらダンジョンに見せかけた壮大な洞窟だったりして……
そんなことを思いつつ進むこと10分、開けた空間にたどり着いた。
「もしかして、ボス部屋……なのかな」
入り口付近には扉があってもおかしくないような不自然な窪みもあった。
やっぱりここはダンジョンなんだ。でも、おかしい……ここまで魔物を一体も見かけていない。
不安を覚えながらも、ボス部屋を後にする。
「階段だ……少し不安だけど、大丈夫だよね」
これでもランカーなんだから、と自分に言い聞かせ、第2層へと降りていった。
♦
「ほんとに出てこないなぁ」
かれこれ一時間、いまだに戦闘は一回も発生していない。
もうすぐ第10層だ。一応気を付けていかないと。
ダンジョンは、10層刻みで通常より強いボスが出るという傾向がある。その分アイテムドロップも豪華だったりするのだが、攻略の際は細心の注意と準備をもって挑むのが当たり前だ。
事前にボスの情報をある程度調べるのが定石で、数少ないエスケープオーブもこの時には惜しみなく使われる。
「あいてるもんなー」
これまでと変わらず通り抜けできるボス部屋に拍子抜けする。
ダンジョン攻略って、本当はもっと大変なものなのになぁ……
唖然と同時に、悪い予想に落胆する。もしかして、このダンジョンはなんの資源もないのでは……?
そんなことを考えていると、不思議なものが目に入る。
「石の……柱?」
所々に謎のオブジェが建てられており、材質は土のようなものだと思う。
何故こんなところにこんなものが……でも待って? よく考えたらこれ、ボスの部屋に向かってない?
予想は当たっていたらしく、石の柱を道しるべに私はどんどん下層へと降りていった。
「これは……ドロップアイテムなの?……」
ダンジョンに入ってから2時間以上過ぎた。魔物がいないダンジョンという未知への興味で大分奥深くまで来てしまった。
今まで見落としていたのか、よく見てみるといたるところに剣やら斧やらが置いてある。捨てられたように雑に散らばっている場所もあった。
なんなんだろう……?
♦
「いったいどこまで続くんだろ……」
現在は私の数え間違えが無ければ49階層。考えなしにここまで来てしまった。
いまだに散らばる武器防具、謎のアイテムやおそらくポーションだと思われる物もあった。ポーションはこっそりバッグに入れてしまったけど、捨ててあるんだから問題ない……よね?
カタン……カタン……
「っ!」
物音がする。硬いもので地面をつついたような音だ。
どんどん近づいてくる。完全に気を抜いてた。
武器は今回持ってきていないので、その辺にあった剣を拝借している。いつでも戦える準備をし、最悪全速力で逃げるということも頭においておく。
カタン……カタン……
先ほどの音に加え、足音と布の擦れる音も同時に聞こえてきた。
「人……?」
姿を現したのは、ボロボロの服を着た人間だった。