第13話 辺境のダンジョンと唖然
「それよりも、ちょっと面白い噂があるわよ」
「面白い噂……ですか?」
恵美さんの話によると、富士山の近くに新しいダンジョンがあるらしい。あそこには既に富士ダンジョンがある。攻略は第三部隊と一般人が主に行っているので、私は行ったことがない。
「国のダンジョン調査が一年を節目に再度行われたでしょ? その時に、前回の調査結果の数値にミス……というか勘違い? があったらしいのよ」
ダンジョンの発生時に起きる地震の震源をもとにダンジョンの場所や規模は特定されるのだが、今回発覚したミスはそこにあるという。
「ダンジョンが2つ?」
「えぇ、富士山にはダンジョンが2つ存在する可能性が出てきたのよ」
そんなことあるのかな……。
今まで発見されたダンジョンはどれも都会が震源の場合が多く、札幌、名古屋、大阪、その他政令指定都市等にダンジョンは存在している。でも、各都道府県すべてにおいて一つずつしかダンジョンは確認されていない。
「行って来たら? どうせ今週はお休みでしょ?」
確かに今週はずっとお休みだ。ダンジョンに階層ごとのテレポートなんて便利機能はなく、最前線への攻略にはそれ相応の準備と期間を要する。
昨日、その最前線攻略を行ったので、次の攻略までしばらくかかる。うっ、また思い出しただけで罪悪感が……。
その後、「中に入らずともダンジョンを見つけるだけで皆喜ぶだろうなー」という恵美の言葉に後押しされ、明日は富士ダンジョン――正確には富士山のある富士見市へ行くことになった。
なんか乗せられたような気がする……
当日、富士見市に到着した。
富士ダンジョンへやってきたのだが、とくに変化は見受けられなかった。
そうえば富士山といったら樹海も有名よね……幽霊が出るとか謎の力を感じるとか聞くし、もしかしたらダンジョンが原因かもしれない。
幸い、富士樹海行きのバスがあったので、それに乗っていこうと思う。
富士樹海へ向かうバスに乗りながらふと気づく。
って、よく考えたらその話ってダンジョン発生以前からも聞くやつじゃない!
気づくのが遅かった。もうバスの中なので後戻りはできない。
富士樹海まで行って、少し見たら帰ろう……
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私が下りると、バスは来た道を引き返していった。
「うぅ……首が痛い」
舗装されていない道でのバス車内は揺れに揺れ、首を痛めてしまった。
「えーと、次のバスは……六時間後!?」
途中から景色が田舎に変わり、自然豊かになってなってきた頃には対向車もほとんど見かけなくなっていた。
結構奥まで行こうと思ってバスを選んだので、かなり辺境まで来てしまった。
時刻は午前10時、午後4時までどうしよう……
「うわぁ、ホントに不気味」
落ち込んでてもしょうがないので、とりあえず樹海の中に入ってみた。木々が生えているだけなのにおどろおどろしい雰囲気を醸し出している。ぶっちゃけ帰りたい。
幽霊とかお化けとかは割と大丈夫な方なのだが、ここはなんというか本能的に不気味に感じる。どうりで自殺者が毎年何人も訪れるわけだ。ここにはあまり近づきたくない。
「あれ?」
なんだろう、遠くに見える一部分だけ木々が薄くなっている場所がある。目算でだいたいここから1キロくらいだろうか。
まともな道もないし、急ぐほど時間に迫られている訳でもないのでゆっくりとそこへ向かう。
一時間くらい歩いたところで、私の目に信じられない光景が映し出される。
「ダンジョンだ……本当にあった」
新しいダンジョンの発見に興奮が収まらない。
どうしよう……と、とりあえず誰かに連絡を……圏外っ!
そうだった、ここは辺境も辺境の富士樹海の奥地。電波なんか届くはずがないんだった。こんなことなら支給された衛星電話を持ってくればよかった……でもしょうがないじゃない! ホントに見つかるなんて思ってなかったんだから!
誰に向けるでもなく言い訳をする。
少し落ち着こう、本当にダンジョンかどうかもまだ確定していない。とりあえず中を確認してみよう。
「うわー入口があるー」
驚きと興奮で喋り方がだいぶ幼稚になってる気がする……。でもやった、これで日本のダンジョンにおける地位は向上する。隊長や中村さんが悩んでいたことにも少しは役立つかもしれない。
「入ってみよう……かな?」
これでも一介の冒険者。新しいダンジョンとあれば俄然興味が沸く。
恵美さんには入らなくてもいいって言われたけど、やっぱり見たい。ここでどんな魔物が現れ、どんなアイテムを落とすのかを確認したい。
新アイテムの価値は物によるが、大抵は希少価値が付くので高く売れる。
私の場合、別にお金には困ってないけど、この情報をくれた恵美さんには何かお礼がしたいな。
「よし、行こう!」
事前情報なしのダンジョン攻略だ。やばいと思ったらすぐ逃げよう。できれば魔物を倒して一つでも新アイテムが欲しいけど……命には代えられないからね。