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第11話 ダンジョン発生から1年後

 

 ダンジョンが出来て1年、人々の生活は一変した。



 ダンジョンから得られる資源は摩訶不思議なものが多く、どれもが科学では証明できない夢のような効果を持っていた。

 傷を急速に治すポーションを始め、永遠に消える事がない光源、切れ味の衰えない包丁、綺麗な水が無限に沸く壺、といったアイテムは、ダンジョンの攻略が進むにつれて次々と登場した。


 科学より生まれた製品よりも圧倒的に効率が良く、能力も高いダンジョン産アイテムの市場規模が広がるのは、ある意味予想通りの結果だった。



 冒険者とはダンジョン攻略をする人たちの呼び名で、一つの職業として認められている。

 大航海時代にちなんで大冒険時代なんて言われるようになった今、多くの人は冒険家になり、一獲千金を夢見るようになっていた。

 それもそのはずで、この流れを主導しているのは国なのだ。これは日本に限った話ではなく、世界各国全ての国がダンジョン攻略を推進している。


 たった一年で、驚くほどダンジョンの存在は大きなものとなっていた。





 ダンジョン協会が提供する冒険者セミナーには毎日多くの人が訪れていた。


「いいか、君たちが思うよりダンジョンはもっとずっと危険なものだ」


 指導員の言葉に頷く者やメモを取る者がいた。老若男女問わず、全ての人が真剣な表情で話を聞いている。


「国として安全は確保したい。しかし、ダンジョン攻略は安全とは対極に位置する存在だ。ダンジョンに関する全ての責任の一切が自己にあると決められた以上、我々にできる事は必要な知識を出来る限り多く与える事のみだ」


 今までのように生易しくはないぞ、という指導員の言葉には重みがあった。担当員の右目は閉じており、片足には義足が装着されていた。


「意識を持て。今までとは全く違うという意識をな。常識がことごとく覆されるダンジョンのルールに耐えられるようでなければ、魔物を倒すどころか奥に進むこともできないと思え」


 軍人のような強い口調であるが、事実彼は元自衛隊員で、数少ない戦闘訓練を行っているバリバリの軍人だった。


「これから教えることは嘘でも冗談でもなく真実だ。少しでも甘く見るようなら自分に返ってくるぞ」




 そんな説教じみた講義を聞き流しながら、私――如月 真奈は会場を後にする。


 あのおじさんの言っていることは確かだ。でも、実際聞くのと体験するのではやっぱり違う。アメリカみたいにダンジョンの中で教えたら一発なんだけどな。


「先輩! どこにいたんですか!」


「先輩はやめてっていってるでしょ……貴方の方が年上じゃない」


「でも、あそこでは真奈さんの方が先輩ですから」


 一見すると私よりも年下に見えるこの男性は、私の勤務……所属するといったほうがいいかもしれない『ミリタリー』の新人だ。


「とりあえず私は支部に戻ります、明日も攻略なので準備とかしないと」


「頑張ってください! 応援してます!」


 





 「副隊長っ! いったん引きましょう!」


 「分かりました! 私が引き付けますので、皆さんは退却の準備をお願いします!」


 東京、新宿に発生したダンジョンの中で、魔物を相手にしながら私は後ろ振り返る。隊員達が全員後方へ退却し終えたのを確認し、自分も後に続く。


 ここまでかぁ……


 攻略失敗を報告しに行くのやだなぁ。隊長優しいから怒りはしないけど、あの静かなため息を聞くのが精神的にくる。


 なんで私なんかが攻略の指揮を任せられてるんだろう。指揮なんて上手く執れてる自信がないし、仲間とはいえみんな年上だから気まずいし……




「すみません、俺が食い止めきれなかったばかりに……」


「自分の方もすみません、副隊長へ負担を掛けてしまいました……」


「全然気にしないでください! 私の方こそ、やりきれなかったですし」


 うぅ、皆が優しいから余計にしんどい。いっそのこと「お前に指揮は務まらん!」っていってもらえた方が楽なんだけどなぁ。





 東京都新宿に位置しているミリタリーの支部――私の所属する第二部隊の実質的な活動拠点であるここ『新宿支部』で、私は今回の報告をしていた。


「そうか……まだボス部屋にはたどり着けんか……」


「すみません……次の攻略では絶対に成功させます」


「あんまり無茶はしないでくれよ?」


 隊長の心配をありがたく受け取り、会議室を後にする。


 んー苦しいー。


 隊長の顔、だいぶやつれていたなぁ……。本当にすみません、すみません。


 私たちの所属するミリタリーは一応国家機関のひとつなのだが、その立場は割と自由なものになっている。上から強制されたりもしないし、政治争いに巻き込まれることもない。


 ただ、ダンジョン庁のお偉いさんにたびたびお願いをされるので、それを遂行するくらいだ。そのお願いも、「この階層のボスを倒してほしい」とか、「このダンジョンのボス部屋までを攻略してほしい」とかで、私たちにとって苦ではないものばかりである。

 

 

 ダンジョン庁に連絡するのはうちのトップである大林 泰造(おおばやし たいぞう)、つまり隊長だ。今回の攻略失敗もダンジョン庁に報告するのは隊長である。


 関係は良好だと仰っていたので、悪い方向にはならないと思うけど……ダンジョン庁も大変なんだろうなぁ。


 ダンジョン攻略の世界競争で一番遅れているのはここ、日本だ。ランカーの人数が一番少ないのもあり、他国からは少し見下されている節がある。


「弱気になったら駄目だよね」


 ミリタリーの皆も頑張っているのだ。私がこんな意気地なしではいけない。


 これでも私は、副隊長を任されているのだから。


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― 新着の感想 ―
[一言] 7カ国あって、日本の状況で7位と9位がいるって相当凄いのに下に見られてるのか...
[一言] 二話投稿ありがとうございます!! なるほど。ヒロインは悩んでるんだね。 ここから主人公とどのように関わり合っていくのか気になる!! 今日もお疲れ様です(* > <)⁾⁾
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