第10話 強敵と回想
第45階層から急激に敵の強さが上がった。スキルや魔法を使ってくる魔物がほとんどで、1対1なら勝てるのだが、複数同時になってくるとどうしても手数の差で押し負けてしまう。
とくに、魔法戦での多対一はほぼ無理と言っていい。これまではなるべく安全マージンを確保しながら進んでいたので多少の無茶はなんとかなったが、ここにきて流れが止まる。
武器や装備の性能は悪くない。最近手に入ったアストラルソードは攻撃力と運に補正がかかるし、竜の羽衣という防具は防御力と素早さに補正がかかる。
他にもいくつか装備品を装着しているが、どれもステータスをしっかりと上昇してくれている。
足りないのは単純に基礎ステータス、つまりレベルだ。
スキルのレベルだって今のままで十分とはいえない。
「強くならなければ」
――それしか方法はなかった。
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強くならなければ
同じ言葉を口にしたことがある。
ただただ強さだけが求められ
強くなってもまだ足りないと言われ
さらに強くなっても足りないと知り
結局俺は勝つことが出来なかった
とある場所で――
「勇者様ー!!!」
「我々の希望、勇者アイン様っー!」
「我々に救いを!」
とある場所で――
「我々の村が魔物に襲われましてなぁ」
「この村はじき滅びてしまう……」
「魔物に勝つには強い人が必要でなぁ……」
とある場所で――
「街に魔物の大群がっ!!!」
「このままでは防衛は不可能だ、増援を!」
「勇者様が来てくれたわ! これでもう大丈夫よ!」
とある場所で――
「弱きを助け強きを挫く」
「強き者は弱きものを守る義務がある」
「君こそがこの世界の救世主だ、勇者アイン・ザームカイト」
♦
「久しぶりに見たな……前世の夢」
ここ最近はあまり見ていなかった前世の夢。ダンジョン探索に夢中になっていたからか、文字通り夢の内容もダンジョン絡みが多かった。
嫌な感情を頭から切り離し、戦う準備をする。万全を期して挑むは第50階層のボスだ。
「今度こそは勝つ……」
第50階層のボス、『カオスソルジャー』に、俺は何度も敗北していた。
通常はボス部屋に入ると扉が閉まり、一度入ると外に出ることはできなくなる。ボスを倒すか自分が死ぬまで扉は開かないので、ボスに挑むには入念に準備をする必要がある。
しかし、ここであるアイテムの存在が重要になる。それはエスケープオーブと呼ばれるアイテムだ。使用すると入り口の扉が10秒間開き、ボス部屋から脱出することができるのだ。
どの階層でもごく稀に魔物が落とすそれは、ボスに挑む際に必ず必要になるアイテムだ。
俺の持つ残りオーブは後1個。そろそろ決着を付けなければならない。
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とてつもない速さで繰り出される斬撃を、極限まで集中し、全て打ち返す。黒と白に発光する球状の魔力弾が、俺の死角から容赦なく降りかかる。
危機察知でそれを避けると、今度は今までとは比べ物にならない剣圧が俺を襲う。間一髪ガードを間に合わせたが、俺の体は凄い勢いで吹っ飛んでいく。
風魔法でクッションを作り衝撃を吸収するが、ガードした剣から伝わった衝撃は俺の手のひらを震わせる。
強すぎる……今までよりも、圧倒的に。
カオスソルジャー Lv95
HP 53200/83200
MP 8500/10500
攻撃力 8000
防御力 5000
知力 7500
抵抗力 5500
素早さ 8500
運 1000
【スキル】
剣戟Lv50 危機察知Lv50 物理耐性 Lv40 魔法耐性 Lv40 光魔法 Lv30 闇魔法 Lv30
【称号】
剣豪
混沌を操る者
恐ろしいステータスだ……
こんな化け物がいていいのか? 今までのボスが可愛く見えてくるぞ……。
スキルの数は俺の方が多いが、その質がやばい。効果が謎である称号も2つあるし、魔物としてここまでステータスが高いのはこいつ以外見たことがない。
一度目はそうそうに逃げ出した。鑑定結果が信じられないくらいやばかったからだ。
二度目は魔法にやられ、逃げる選択を取った。対処の分からない光魔法と闇魔法に流れを持っていかれたためだ。
三度目は単純にやられた。あと少し逃げるのが遅ければ、俺の命は無かっただろう。
その後は、理由はどうあれ全て実力負けだ。ステータスは50階層までで上げられる限界まで成長させたつもりだが、それでも勝つことはできなかった。
カオスソルジャーの最大の武器は、巧みな剣裁きだ。攻めも守りも隙がなく、完璧な戦いをする。剣戟Lv50の数字は伊達じゃない。
さらに、称号の混沌の操る者が厄介で、放たれる魔法はどれもこれも絶妙なタイミングで当てに来る。危機察知が無ければすぐにやられていただろう。
ここまで苦戦する相手は前世の時以来だ。
「ふっ」
ただ、今の俺はあの時とは違う。俺は俺のために戦っているのだ。
敵を見据え、剣を構える。
――守るべき物がないと、戦いに集中できていい
俺は命を、自分自身の全てをこの戦いに掛ける。