第9話 新たな趣味
飛竜のブレスを水魔法で作った壁で防ぎ、それによって生まれた水蒸気を利用して死角に移動する。ダッシュで飛竜の懐に潜り込み、腹部を横に一閃。続けざまに縦に一閃を加えると、十字の切り傷が出来上がる。
「Gwooooo!!!」
悲鳴の唸り越えは大気を揺るがし、肌にピリピリと感じさせる。一般人なら聞いただけで気絶してしまうだろう咆哮に怯える素振りすらない男――無名は、ダンッ と飛び上がり、飛竜の頭上を越えていく。
「はっ!」
天井を足場に、飛竜へ垂直に刺突を繰り出すと同時に風魔法を発動。スピードが乗った攻撃は飛竜の首を捉えかけるが、あと少しの所で飛竜が首をずらし、かすり傷ができた程度だった。
着地した瞬間を狙った爪による切り裂きを剣でいなしながら距離を取る無名に、再びブレスが襲い掛かる。
「その溜めが、命取りだ」
縮地を使用し一瞬で目の前に現れた無名に、飛竜の目は驚きに満ちていたが、首を両断された後は徐々に光を失っていった。
体長5mにも及ぶ飛竜の死体がだんだんと光の粒子に変わっていく。消えていく死体の代わりに現れたのは、不思議な光を放つオーブだった。
「念願の火魔法、やっと手に入れたぜ」
第40階層のボス、フレアドラゴンが落としたアイテムは、無名の待ちに待った火魔法のオーブだった。
第41階層へと続く階段を進みながら、ふと考える。
このダンジョンは全何階層で構成されているのだろうか。もし50でも終わらない場合、100階層の可能性もある。そうだ、鑑定で分からないものか。
「鑑定」
『ダンジョンの階段』
ダンジョン№0の内部にある40層と41層を繋ぐ階段。素材は夜光石でできており、暗闇でも仄かに光る。
レベルが上がって内容が濃くなった鑑定によると、階層数は分からなかったが、どうやらここは0番目のダンジョンらしい。となると、他にもダンジョンが存在する可能性があるな。このダンジョンを踏破したら是非他のダンジョンにも挑戦したいものだ。
第41階層は自然を舞台とした構成で、出現する魔物は植物系が多かった。
これ幸いとばかりに火魔法を使用し、火魔法の発動に慣れた所で、早速料理をしようと思う。
「ここに、木からとれた謎の葉っぱと、本当に謎だけど木から取れた肉があります」
鑑定結果はトレントリーフとトレントミートなのだが、俺には理解ができない代物だった。木が肉を落とす、植物と動物を隔てる壁を超えるどころかぶっ壊しに行くその食肉、もとい植肉を今回はメインで使っていこうと思う。
土魔法で器具を用意し、風魔法で食材を切り、火魔法と水魔法で調理する。なんという手際だ、3秒クッキングも夢じゃない。
「うーむ」
良く考えたら俺は凝った料理の作り方なんて分からないんだった。そもそも食べ物にこだわったことが無いので、いつも出来合いの者や簡単な物しか食べていなかった。
つまるところ、蒸したり揚げたり燻ったりというやり方を俺は知らない。
「男なら煮る一択よ」
とりあえず加熱すれば美味しくなる理論の賛同者である無名は、煮るという選択を選んだ。
ぐつぐつの煮える鍋の中では謎肉がだんだん変色し、赤から茶色へとその姿を変えていく。
「おいしくなーれ」
さらに先程取れた謎スパイスを加え、味を調える。
「完成だ!」
名付けて、『謎肉と謎野菜煮込み~謎スパイスを添えて』
器に料理を移し替え、土魔法で作ったスプーンですくう。
「いただきます」
少し息で冷まして……パクリ――こ、これはっ!?
まるで道端の雑草をすりおろしたかのような異国の風味。肉は味がない代わりに、柔らかいのに筋があり、噛めそうで噛めないという楽しさを味わわせてくれる。そんな口の中の楽しいひと時に雷が落ちたかのようにピリッと、まるで爆発したかのような刺激が走る。
美味しくない。確かに味は美味しくないのだが、美味しかった。
久しぶりのまともな食事だったからだろうか。それとも、初めて自分で料理らしい料理をしたからだろうか。
「違う、これは」
自分で作ったから、美味しいんだ……
♦
料理の楽しさを知ることができたので良かったが、食材はもう少し選ばないといけなかったな。
それと、最近だんだん気楽になっている自分が少し嬉しい。心から自由になっているという自覚がある。
「さて、行きますか」
目指すは第50階層、さらなるスキルと食材を求めて。
小鳥遊 無名 Lv82
HP 43200/43200
MP 3500/3500
攻撃力 4638
防御力 4225
知力 3720
抵抗力 3500
素早さ 4895
運 643
【スキル】
剛 Lv23 縮地 Lv23 物理耐性 Lv15 魔法耐性 Lv15 MP消費減少 Lv18 危機察知 Lv15 HP自動回復 Lv3 MP自動回復 Lv3 鑑定 Lv6 土魔法 Lv20 風魔法 Lv20 水魔法 Lv15 火魔法 Lv12
【称号】
なし