第八話
家電量販店店内は、平日の昼間らしく客はまばらだ。店員はレジでごそごそやっていて、テレビコーナーには、誰もいない。ふん、楽な仕事だな、客が来てるのにいらっしゃいませも言わないのかよ。お客様を舐めた頭の悪い会社だ。こんな店は俺がすぐに潰すがな。
『これは!!これは現実です!!』
『ぅわあアアアアアアア!!!逃げろっ!!!』
人はいないが、テレビの声はずいぶん騒がしい。
ずらりと並ぶ大小さまざまなテレビには、俺の手下どもの活躍が映し出されている。どのチャンネルも緊急生中継してる…いや、アニメを流しているチャンネルと、園芸を流しているチャンネルがあるな。…おいおい、突然化け物が現れて惨殺しまくりなのにのんきにアニメかよ!園芸ってバカだろ!!頭の腐った平和脳乙!!
「なんか温度差があるね。」
パイがテレビの画面を見て呟く。その表情は…笑って、いる?
「ふん。みんな平和ボケしすぎてんだよ。」
外の騒ぎを知らない店員は…のんきにモップがけをしはじめた。俺の機嫌ひとつでその首が刈られるかもしれないのに、何も知らないやつってのは本当にどうしようもねえな。…ま、何か知ったところで、俺はそんなの関係なく首を落とすが。
『都市部では別の魔物が暴れているようです、中継の小田さん、どうぞ!…小田さん?!つながりが悪いようですね、いったんCMに入ります!』
『ご覧ください、この割れたガラス片、破壊活動は…きゃあ!!!』
…中途半端な中継をしているのが、気に食わないな。
ケーオスは破壊の限りを尽くしている。その姿の下には、破壊の限りを尽くした残骸があるはずなのだが。倒壊したビル、建物、つぶされた車…無残につぶれた人の滓。そういうものが、画面には映し出されていない。
破壊する未知の存在を映し出しているテレビ画面に、一切の残酷な現実が映し出されていないのだ。
割れたガラスや崩れている壁の一部、空に浮かんで闇と炎を吐くケーオスの姿は映っているものの、吐き出した炎に焼かれている人間や建物の下敷きになって弾けている肉片は映っていない。
…まだまだぬるいな。
画面に映し出す情報を選別している時点で、まだ状況は切迫していないって事だろ?選ぶ余地があるって事だろ?一旦CM?こんな混乱の真っ最中にコマーシャルとかさ!!!めでたい奴らがメディアを動かしてるんだな、笑っちまう。こんなバカげた中継なんかするから、頭の悪いクソどもが勘違いするんだよ。…テレビの向こうで起きていることは、結局他人事ってさ。
「ねえ、テレビの前で首刈りしたら面白そうじゃない?」
こういう事に気が付けるパイは…まあ、出来がいいと言ってやろうか。
「ハジメの武器は遠隔操作もできるよ。…練習ついでに、あのレポーターやっちゃおうよ。」
「遠隔操作?」
「ハジメの中にある事象すべてが、この世界に構築可能だといったわ。あなたの中に遠隔操作という情報があるならば、…できる。」
少し笑っているような、それでいて試しているような、少しバカにしているような…時折見せる、パイのこの表情。…気に入らねえな。
「あるに決まってるだろ?俺にできないことはない。ふざけた事ぬかすと首を切るといったはずだが。」
「…ごめんなさい、そういうつもりじゃなかったの。」
気に入らねえが、こいつは俺の知らない情報を持っているから…まだ、生かしておくか。いつだって殺せるからな、こんな奴。
「ゼロ。」
010 1
1010110100
001000110010100010011000010010111110101000101011101010001010101011101001000100001100001001010
―――テレビ中継の場に
111110101000101011101010001010101011101001000100001100001001010
011010100010101000101001000110010100010011000010010
―――デスサイスが飛ぶ
100010011000010010111110101000101011101010001010101011101001000100001100001001010
0101011110110101010101010101010101010
001000110010
―――マイクを持ち実況中の中年の男
10101000101011101010001010101011101001000100001100001001010
101010101011101010
0010001100101000100110000100101111
―――その首を。
10010100010011000010010111110101000101011101101001000100001100001001010
001000100000000
101000101010101
ザン―――――――――――ッ!!!!!
11000101101010101010001010101011101001000100001100001001010
101010
00100011001010001001100001001011111010100010101110101
001000110010100010011000010010111110101000101011101010001010101011101001000100001100001001010
飛沫をあげる首なし人間
0010001100101000100101000101011101010001010101011101001000100001100001001010
01010100010101110101000101010101110100100010000110
01100001001011111
111100001001010
101010
0010001100101000100110000100101
中継画面がぶつりと切れ、黒い画面が映し出された。顔面蒼白のアナウンサーが、ものを言わずに固まっている
ハッ!衝撃映像を映したところで結局すぐに倫理的指導が入るってことかよ!指導が入ってるから衝撃展開を伝えることもできないって?言えばいいだろう、目の前でクソ人間が首ちょんぱされたってさ!!!
…つまんねえ。
…実につまんねえのな。
結局こうやって一般人に届く事実ってのが捻じ曲げられるんだよ!どうせ届ける情報ってのは、都合のいい偽物の現実ばかりってなぁ!!!
すぐに情報を捻じ曲げるんだったら…捻じ曲げる隙を与えなければいい。俺は各テレビ局の中継先に、デスサイスを飛ばし、カメラの前に映るやつらを、刈っていこうと…
「ゼ、っ…くっ…。」
俺の中に、実況していた男の記憶がずるり、ぬるりと、入り込んでっ…!!!
00
0001110
10001
0010001100101000100110000101010001010101011101001000100001100001001010
00111
10010111110101000101011
――なぜ真実を伝えないんだ0110
00110010100010011000010010111110101000100010001100101000100110000100101111101010001010111010100010101010111010010001000011000010010101011101010001010101011101001000100001100001001010
――すみません、すみません!0100110010
0011101010001010101011101001000100001100001001010
000101010001000100011001010001001100
―――金を積まれたところで001010010
100001001011111010100010101110101000101010101
1101001000100001100001001010001000110010100010011001
――うそつき011000010010111110101000101
100101100110000100011001010001000110000111000010010111110101000101011101010001010101011101001000100001100001001010
0010100010001100101000100
――使えねえ奴だな0001001100001001
001100001001011111010100010101110101000101010101110100100010
01111101010001000110010100010011000010010111110101000101011101010001010101011101001000100001100001001010
――俺に虚偽情報を流せと?!11
0111110101000101011101010001010101011101001000100001100001001010
01001000010
――マスゴミ上等!!010101
110010001100101000100101 1100
001000110010100010011000010010111110101000101011101010001010101011101001000100001100001001010
――おい、お前黙れ0110
001000110010100010011000010101000101011101010001010101011101001000100001100001001010
100001011111
――この番組があったから立ち直れたんです010011
1000110010100010011000010010111110101000101011101010001010101011101001000100001100001001010
00010101000100
―――お前が責任取るって言っただろ?001010010
110010100010011000010010111110101000101011101010001010101011101001000100001100001001010
001000110010100001000100001100001001010 1001
――俺が上に立てば現場は変わる01100
010011000010010111110101000101011101010001010101011101
01001 01011000
1001 00
01 0101 00
「ゼロっ!」
ザンッ!!!!!
テレビに映る女子高生の首を刎ねた。
ザンッ!!!!!
テレビに映る白髪のじじいの首を刎ねた。
ザンッ!!!!!
テレビに映る腰の曲がったばあさんの首を刎ねた。
ザンッ!!!!!
テレビに映るヤンキーの首を刎ねた。
ザンッ!!!!!
テレビに映るおばさんの首を刎ねた。
…ははっ!!
次々と赤い血しぶきを画面に映して!!
次々に黒い画面が映し出されて!
画面が切り替わると引き攣った顔のアナウンサーが映し出されていく!
まるでドミノだ!
画面が変わっていくのが愉快で愉快で仕方がねえな!!
ああ、そうだ、アナウンサーの首も刎ねよう。
ザンッ!!!!!
弱そうなアナウンサーの首を刎ねた。
ザンッ!!!!!
ベテラン中年女性アナウンサーの首を刎ねた。
ザンッ!!!!!
定年間際のじじいアナウンサーの首を刎ねた。
画面がどんどん切り替わる。夢中になって首をはねる俺の中に、首を刎ねたやつらの記憶がずるり、ぬるりと。
010111110
101
00100011
0010100010011000010000101011101010001010101011101001000100001100001001010
――明日のテストがんばろう010101
010000100011001010001001100001001011111011010101011101001000100001100001001010
01000101011101010001100 001010
――最近の若者は狂っとる!0110
1001010010001000011000010010100010001100101000100111101010001010101011101001000100001100001001010
00001001011111010100010101
――おじいさん長生きしてね010011
010010111110101000101011101010001010101011101001000100001100001001010
00100011110101000101011101010001010001010111
―――万引き成功!!001010010
00010101000100001000110010100010011000
1100101000100110000100101
――晩御飯何にしようかな01100
1001011001100
10010010001100101000001010101011101001000100001100001001010
――明日はあいつ無視して気晴らししてやろっと…0001001100001001
1001001100001001011111010100010101110101
01111101010 001010
――俺以外全員死ねばいいのに11
00010011000010010101010001010101011101001000100001100001001010
11110101000010001100101010101110100
――もう、死なせた方がいいよね010101
11000010010111110101000101011101010001010101011101001010001000001100001001010
10001000100011001100 001010
――次はあいつにしよう0110
1001001000110010100010011000010010111110101000101011101010001010101011101001000100001100001001010
00100011001010001001100001001011111001000100001100001001010
――生きるのメンドクサイ010011
00010101000100 00
1010100010101110101000101010101110
――緊急速報なんて初めてだ001010010
10010010001100101000100111101010001010101011101001000100001100001001010
10000100101111101010001010
――わたしが伝えなきゃ01100
01001001000001001010
110010100010011000010010111110101000101011101010001010101011101001000100001100
――俺の最後の仕事になるかもしれない01011000
1001 00
01 0101 00
1001 00
…入り込んでくるが。
「ふ、フフフ、は、ははは!!キモイんだよ!クソどもの記憶ってのは!!つまんねえ人生生きてきた記憶を、この俺に擦り付けんじゃねえよっ!!!」
ずるずると入り込んできやがる、他人の持つ、俺には関係のない不愉快な記憶を、怒りで振り払おうと叫び声をあげた。…あげて、しまった。
「お客さんっ?!どうかしましたかっ?!」
モップを持った家電量販店の店員が飛んできやがった。…ああ、めんどくせえ。本当に、めんどくせえ。
遠慮なしに雪崩れ込んでくる他人の記憶に…頭をおもわず抱え込んだ俺を見た店員は、ずらりと並ぶテレビ画面を見て口を押えた。画面には、夥しい血の色…が…。
赤い、いや、どす黒い、それでいて目に留まる、鮮やかな、紅。
ずらりと並ぶテレビに映し出される、赤、紅、赤、紅、赤、紅、赤、紅…!
その、赤が。
その、紅が。
俺の目に、染みて。
思わず、手で目を、覆った。
他人の記憶は、止まることなくぬるぬると入り込んできている。
ああ。気分が悪い。
気分が悪すぎる、吐きそうだ。
俺の横には、パイがいる。
パイは、何も言わない。
目を覆っている俺には、今、パイがどんな表情をしているのか…見ることが、できない。
もし。
パイが笑っていたら。
俺は、その、首を。
…刎ねてやろうと思いながら。
気を、失ってしまった。