第六話
久々にマンション外に出た俺の目に映るのは、ネオン輝く看板、豪華な階段に大きな自動ドア。俺のマンションの前には、ド派手なパチンコ店がある。羽振りの良い店舗の様子から、貧乏人から金を搾取し続けているであろうことがバレバレだ。
小銭を求めてなけなしの金を貢ぐ、ね。…ふん。みじめったらしい話だ。胸糞悪いな。…潰すか。
「おい!邪魔だ、邪魔!!」
どかっ!!!
「ッ…!!!」
同じマンションの住人か?くたびれた薄汚ねぇおやじが俺をどつきやがった。たばこの煙が俺に纏わりつく。クソおやじはこちらをふり返ることなくまっすぐパチンコ店へと向かって行く。
「ゼロ」
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ゼロが俺の足元からあふれだし、あたりを囲む。
俺は、デスサイスを構え。
ザン―――――――――――ッ!!!!!
クソ親父の首を刎ねた。
ゴッ!!
クソおやじの伏し目がちの目が開かれたまま、穴ぼこだらけのアスファルトの上に転がった。首の断面から流れるどす黒い血が、じわりじわりとアスファルトに染み込んでいく。その横で頭を無くしてバランスを崩したクソの首から、勢いよく赤い飛沫が上がっている。
ば…ばたっ…!!!
鈍い音をたてて真っ赤な血を噴き出すクソの体が崩れ落ちた。ちょうど首がアスファルトの穴にはまって、そこに赤い血だまりができ始めた。はは!!リアル血の池地獄かよ!!しょぼっ!!!
大ウケしていると…俺の中に、クソのすべてがずるりと、ぬるりと、入り込んで、きた。
…「0」と「1」で構築された記憶のすべて、感情のすべて。
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――今日こそ6万は行くはず010101
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――やった!昇進だ!0110
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――なんでお母さんは僕を殴るの?010011
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―――俺が好きなら渡すもんがあるんじゃね?001010010
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――僕のバイト代、どこ行ったの01100
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――いつか殺してやる0001001100001001
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001010――宝くじ当たんねえかな111
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0…
・・・ふん。
クソは所詮クソとしてしか存在できなかったのさ。こんなクソを刈る羽目になって・・・俺のデスサイスが気の毒だ。
流れ込んでくるクソの記録とともに俺を囲んでいた「0」も消えていく。
なんだよ…。「0」が消えるの早くね?いちいち「0」を纏うのもめんどくせえな。早くこんな小細工無しで堂々と無双ができるような世の中になってほしいもんだ。ケーオスたちの活躍が世の中に知れ渡るまでの…辛抱か。ああ、めんどくせえ。
俺が吹き出す血の勢いが弱まった首のないクソの残骸を踏みつけると、その姿は薄くなってふわりと消えた。…ああ、クソの中の記録が俺に吸収されて、最後にクソの器である体が「0」になったという事か。これはいい、始末をしなくて済む。
…時間差があるのがネックだな。刈る最中はもちろん、刈ってしばらくたっても体が残るという事は、見られる可能性があるという事だ。見られて面倒なことになるのはごめんだ。クソつまんねえいちゃもん付けられて拘束とか・・・ありえねえ展開だ。
俺はクソ忌々しい気分で、クソがあふれるパチンコ店内部へと向かった。
久々に入店するパチンコ店は、かなり様相が変わっていた。
明るく清潔でかわいいスタッフ。だが…無表情にパチンコ台に向かうクソどもは変わんねえなあ…。干からびたじじいが多くなったか?煌びやかで楽し気なパチンコ台の前に無気力なじじい。一攫千金を狙う?こんな辛気臭い奴らに大金なんか落ちてくるはずねえだろ。せいぜい大切な大切な生活資金を盛大にパチンコ台に飲み込ませて喜んでろよ。
「すみません、あなた高校生ですよね?!入場できませんので、退場願います!!」
…ああ、そうか。俺はいま高校生の姿をしてたんだった。はは、うっかりしていた。俺の目の前に立ちはだかる、中年女。ババアが化粧してお疲れ様なことだな。かわいすぎるコスチュームが似合わな過ぎて笑いも出てこねえ。女は30超えたらミニスカートなんかはくなよ。キモいもん見せやがって…慰謝料よこせっての。
「聞いてます?こっちです。」
ばばあが俺の手を取った。
・・・はあ?!
・・・何勝手に俺に触れてんだよ?!
くたびれたババアが若い男子に触れていいわけ…ねえだろ?!
「…ゼロ」
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ゼロが俺の足元からあふれだし、あたりを囲む。俺は、デスサイスを構え。
ザン―――――――――――ッ!!!!!
ババアの首を刎ねた。
無礼者は刈る。
いいや、気に入らないやつは全員刈る。
目についたやつは全員刈る。
基本、この世に俺以外必要ないからな。有能な召使いは、俺の中の『1』から呼び出せばいい。従順で空気を読める優秀な奴だったらまあ、生かしておいてやらんでもない。ま、俺の気に入らない一言を発したらその瞬間刈るけど。
ババアの首から勢いよく赤い飛沫が上がっている。若干さっきのクソじじいより勢いが弱いな。女だから仕方ないか。…首はどこに行ったんだ?
「ひゃ、ひゃあああああああああああ!!!!!!!」
突然聞こえてきた声に驚いて目を向けると…銀玉を積んでいるヤンキーの横に、ババアの首が転がっている。
クソっ、ゼロの領域が狭すぎたのか、勢い良く首が吹っ飛んで行ったのが悪いのか…ばっちり見える位置に転がってやがる。それに気が付いたヤンキーがみっともねえ声をあげたわけだ。
ゼロの領域の中では、ババアの首のない体から血が噴き出して、ずらりと並ぶパチンコ台の間の通路を赤く染めている。
俺の中に、ババアの記憶がずるり、ぬるりと、入り込んできやがった。・・・まずいな、全部入ると俺の纏っている「0」が消える。
タイミングを見計らって…「0」を纏いなおすしかない。
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――どうして子供を殴るの010101
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――ね、この子の事大切に育てようね0110
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――別れてください0100110010010010111110
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―――この女誰?!001010010
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――ママがいるから大丈夫だよ01100
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――やっと職場が見つかったの0001001100001001
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――制服が若いけど頑張ってる111
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ゼロが俺の足元からあふれだし、あたりを囲む。俺は、デスサイスを構え。
ザン―――――――――――ッ!!!!!
ヤンキーの首を刎ねた。
ヤンキーの首断面から勢いよく赤い飛沫が上がる。首は…はは、ババアの首と並んでる。仲の良いことだ。パチンコ台の前の椅子にもたれかかるような形になったヤンキーの首からドバドバと血が流れ出ている。時折血の塊が勢いよく飛び出しているのは、心臓の鼓動のおかげか?ま、間もなく止まるだろうけど。…ああ、ババアの体が消えてきた。やっぱりタイムラグがあるのがなあ…。
噎せ返るような血の匂いが、ヤニ臭えホール内に充満し始めた。
パチンコ台に夢中になっている冴えねえおっさんの足元まで、ゼロの領域から噴き出した血しぶきが派手にかかっている。
ああ、おっさん確変入ってるし気付かないといいんだけど。
「…へ?!ぅわああああああ、ぎゃああああああああああああああ?!」
ああ、ダメだったか。
おっさんは足元の血しぶきに気が付いて、叫び声をあげちまった。
せっかくのフィーバータイムだというのに、もったいねえことだな。
カウンター近くで叫んだからか、スタッフが駆け寄ってきやがった。
…っ!!
く…っ!!
俺の中に、ヤンキーの記憶がずるりぬるりと、入り込む。
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――クズしかいない世の中010101
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――なんで僕のこといじめるの0110
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――やられたことはやり返す010011
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―――写真撮らないで001010010
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――いじめられる方にも原因があるんだよ01100
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――自分で何とかしなさい0001001100001001
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――全部僕が悪い111
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・・・あーあ。
あー!!!
いちいち「0」を纏うのがめんどくせえ。
・・・もういいか、どうせここにいるやつは全員刈る。
逃げ出すやつは俺の顔なんかまじまじと見ねーよな。
防犯カメラの画像はあとで消せばいいし…めんどくせえ事になったらすべて刈ればいい。
・・・そうだな、いちいち身を隠してこそこそやるよりも、堂々と刈って、全員殺せばいいんだよ!!!
ザンッ!!!!!
若い姉ちゃんの首を刎ねた。
ザンッ!!!!!
白髪のばあさんの首を刎ねた。
ああ、ヤンキーの体が消えた。消えると血痕も消えるけど…どんどん首刈ってるから血の匂いが消えていかない。むしろ首の数が増えるにしたがってその臭いがより濃厚でグロテスクなものになっている。
ザンッ!!!!!
つるっぱげの爺さんの首を刎ねた。
ザンッ!!!!!
若い兄ちゃんの首を刎ねた。
ザンッ!!!!!
若い姉ちゃんの首を刎ねた。
ザンッ!!!!!
弱そうなサラリーマンの首を刎ねた。
ザンッ!!!!!
ぶよぶよしてキモいおっさんの首を刎ねた。
首のなくなった体から吹き出した血が、煌びやかなパチンコ台にびっしゃびっしゃと叩きつけられていく。天下のLEDライトも血液のべったりした濃厚な成分には負けるんだな。俺が首をはねるたび、どんどんホール内の明度が下がっていく。血気盛んなやつが多いからか?天井からつり下がっているシーリングライトにまで血しぶきがかかってるじゃないか。血圧が高いとこういうところで差が出るのか。・・・ウケる!!!
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――毎日つまんない010101
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――毎日ぶらぶら遊んでばかりで!0110
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――早くくたばれよじじい010011
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―――年金よこせって言ってんだろ001010010
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――まずい飯しか作れねえのな01100
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――うわ、キモ…0001001100001001
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――今日もサービス残業か111
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――いつもお金ありがとね010101
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――いいから脱げよ0110
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――つかやる気ない癖に働くな010011
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―――老害は自覚持てっての001010010
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――ずっと、ずっと好きだから01100
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――あーあ、惨殺してみてえな0001001100001001
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――頭の悪い奴ばっかだな111
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――クズしかいない世の中010101
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――これだから若い奴は0110
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――もっと年上を敬えと010011
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―――くたばるタイミング逃してるだけじゃね001010010
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――かわいいね、天使みたいだ01100
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――愛してる0001001100001001
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――存在する資格ねえし111
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一気に記憶がなだれ込んできやがった。クソの記憶は本当にどうしようもねえな。俺の中に入り込むなんざ図々しすぎんだよ。いつかまとめてどこかのヘドロに塗れたくっせえ汚染水の中に沈めてやろう。
・・・ああ、うぜえ。
・・・吐き気が、しやがる。
ふっと、ホールの音が止んだ。あたりがいきなり静まり返る。
…少しだけ冷静になった。パチンコ台の音が止んで、静寂が訪れている。
時折水音がするのは、俺の周りのクソどもの残骸から噴き出した血液がしたたり落ちる音か。
その音も、クソの残骸が消えるころにはしなくなった。立つ鳥跡を濁さずってね。クソにしてはいい消えっぷりだ、俺のおかげだな。