第五話
…ずいぶんぶりの外出だ。外の空気を吸うことが、こんなにも心地いいとはね。狭い部屋の中とは違う、世界の空気。別に美味いと感じた訳じゃないが…思いっきり深呼吸してやるか。ふん、都会の汚染しきった空気でも、俺の中に取り込まれればそれなりに浄化するってね。
世界の覇者、星の支配者になる俺だ。こんな狭い部屋にはもう二度と戻らないさ。
俺の頭の中の『1』がある限り、俺はこの世界で無双できる。すべてを奪って、俺は世界の覇者になる!!そして…
「あ!こんにちは!!」
「・・・。」
…となりの部屋の子供だ。
・・・ああ、ちょうどいいな。
鎌の、切れ味を、試すのに。
あたりを、見渡す。
・・・誰もいない。
しかし、どこで誰の目が光っているのか、分からないからな。
気をつけるに越したことはない。
「ゼロ」
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ゼロが俺の足元からあふれだし、あたりを囲む。これで外からは何も見えない。この「0」の領域の中で、何が起こっても「1」の世界の住人はそれを知ることはできなくなった。
「えっ?!な、何この…え…!!!」
0の領域の中で、子供が狼狽え始めた。
俺のデスサイスは「0」を纏っているから「1」の世界の住人であるこの子供には見ることができない。
俺は、デスサイスを構え、おろおろする子供をまじまじと、見た。けっ、しけた顔してやがる。どうせ将来はニートだよ。
「お、おかあさん・・・!!!」
…そんな不安そうな声を、上げた、ところで。
…お前は、ただの、獲物に、すぎないわけだがな!!!!
ザン―――――――――――ッ!!!!!
子供の首を刎ねた。
頭が鎌の勢いで吹っ飛び、「0」の領域から飛び出した。
頭部をなくした子供の体からは勢いよく赤い飛沫が上がった。
初めて刈り取った首の様子を、嬉々として観察する。
へえ、こんなに勢い良く噴き出すもんなんだな、血液ってさ。
まるで安物のアニメみたいだ!!!
古臭いアニメの、みっともない演出、あれって案外、実際の映像を忠実に再現されてたんだな!!
・・・見るも無残?
はは!!
見ろよ!!!
デスサイスで刈ったものはゼロを纏って、「1」の世界から消える。
飛んでった頭部も、噴出す赤い血液も!!すべて瞬時に「0」を纏って消えていく!!
…消えて、行く…?
いや…俺の中に、何かがずるりと、ぬるりと、入り込んでくるっ…!!
「0」と「1」で構築された、子供の記憶のすべてが!!!感情のすべてが!!!
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――おかあさんだいすき010101
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――明日誕生日だね0110
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――お仕事いつもお疲れ様010011
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―――お熱が下がらないの001010010
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――神様お願い01100
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――よかった0001001100001001
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――いつもありがとう111
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0…
夥しい「0」と「1」が、ものすごい勢いで俺の中に吸収された。
・・・正直、吐き気がする。
他人の感情が、俺に入り込む事がこれほどまでにダメージを食らう事になるとは…。
クソッ!!
「…なんだ、これは。」
「デスサイスで仕留めた存在のすべてが、ハジメの中に吸収されるって、言ったでしょう。」
ああ、そういえばそんなことを言っていたな。いつの間にか後ろに立っていたパイが、偉そうな口調で俺に説明する。
…いらねえな、こんなものは。クソつまんねえ、一般人の生きた記憶なんて・・・覇者には不必要なものだろう?
ま、偉人と呼ばれる出来のいい奴らの記憶ぐらいだったら…もらってやってもいいけどな!!!
ただ生まれて何もできずに燃やされる凡人どもの記憶なんざゴミなんだよ!!ゴミ!!
「これからどれだけの存在をハジメのものにできるか、楽しみだね。」
「・・・つまんねえもんは刈りたくねえな。」
無駄なもんは取り込む必要ねえだろ?
余計なクソ記憶が、覇者たる俺の『1』の中に入り込む?
・・・ふざけるな、覇者の『1』を…穢すつもりか?
・・・そんなことは・・・許さんぞ…?
「何言ってるの?無双するんだったらすべて刈らないと。…力を見せ付けるチャンスでしょ?」
パイが挑戦的な表情で俺の顔を覗き込む。
・・・なんだ、その顔は。
「それとも何?世界の覇者たるハジメが、ただの一般人の記憶如きで怯んじゃうの?」
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
バシッ…グァシッ…!!!!!!!
俺はパイの胸倉を掴んで、大きく見開いた青緑色のつり目を至近距離で睨みつける。
…パイの両足が爪先立ちになっている。
・・・ああ、怒りに任せてひどいことをしたな。だが、パイはこうされても仕方がないことを言ったんだ。
「おい。口のきき方には気をつけろ。今度俺を侮辱するようなことぬかしたら・・・お前が俺の中に吸収されることになるぞ。」
「っぐ、ご、ごめぇんっ!!なッ…さいっ…!!!」
どさっ・・・
パイから手を離すと、苦しそうに胸に手を当て、座り込んでしまった。
えらそうなことを言っても、所詮女だ。
…ふん、いらん口を叩くからこういうことになるんだよ!
弱いな。
…使えねえ。
俺は座り込むパイを置いてマンションエレベーターに乗り込んだ。