第四話
ド、ドド―――――――!!
ド―――――――――――――ン!!
ズ、ズッグゥワッシャ――――――ン!!!
ガ、ガ、ガ、ガ、ガ…
・・・ああ、ケーオスの無双が始まったな。
俺は、心地いい破壊のオーケストラを聞いているうちに、ケーオスの活躍を、少しばかり思い出した。
現代日本とはかけ離れた、魔法と精霊が当たり前にある世界に、突如ニートのおっさんが移転した。お決まりの、トラックに突っ込まれるパターンだ。
俺は中途半端に衝突シーンをごまかすクソみてえな小説書きとは違うから、事細かに肉の飛び散る様子を描写してやった。衝突で骨の砕け散る音、肉が爆ぜて飛び散る様子、気を失うような痛みに悶える中年のキモイうめき声。リアリティのない描写なんてつまんねえだろ?そこらへんはきっちり書かせてもらった。
苦しみぬいて移転した後は、お決まりの言語チートで精霊やモンスターと話ができる展開がまってたわけだ。たいしたこともしてねえのに持て囃されて、いつの間にか嫁が5人もいて、めんどくせえからやったらすぐに殺してさ。初体験だけすませたら女なんて用済みだからな、一人エロい嫁残したらそれでオッケーだろ。女同士の争いなんざめんどくせえし書く必要もねえし。仲の良い女どものイチャイチャなんざ現実味がねえからつまんねえんだよ。
頭の悪すぎる異世界人ってのは実に簡単に手懐けることができて、とんとん拍子でクソ主人公はのし上がっていく。やることなすことうまくいって、強いと思っていた敵はつまんねえ弱点があって、苦労する事もなくやっつけることができて。まさかアレルギーで死ぬとかさ、あんな神展開誰にも書けなかったってね。まあ、俺だからこそかけたんだ、あの流れはさ。
調子に乗ったクソ主人公をどうにか闇落ちさせたくて、いっそ闇を敵にしたらいいと思ったその時に、ケーオスは生まれた。
ただの闇じゃつまらないから、混沌と混乱から名前を付けてやった。実に響きがカッコよく仕上がって大満足したものの、なかなかクソ主人公とうまいこと嚙み合ってくれず面倒なことになった。そもそもでっかい竜と小さい人間が仲良く言葉をかわすのは、実に難しいことだったのだ。いちいち描写が面倒になった。見上げるだの声を張り上げるだの、つまらない状況説明に文字を書くのがだるくなってしまったのだ。
俺の書きたいのはチート無双、チート無双を叩きのめす、チート潰し。画面なんてのは読む方が頭の中で勝手に状況を作り上げて脳内補完するべきだ。いちいち俺が書く事じゃない。俺の書いたハートを振動させる擬音だらけのバトルシーン、スピード感あふれる戦闘、ここぞというときに決めるセリフ。
シュ、シュ、シュ、シュ!!!
バ、バ、バ、バ・・・!!!
キーン、キーン、キーン…!!!
―――これほどまでに呪文が効くとは!!!
ドドド、ドドド、ドドド、ドドド…
うわあああああああああああああ!!!!
ごお―――――――――――――――!!!
―――俺は、お前の事、許すぜ。
―――死なないで!アルス!!!
―――あっ、あっあっあ!!!!
―――ご褒美の時間だ。
・・・私はそれを受け入れるしか・・・ないようだ。
やけに聞き分けのいいケーオスが俺はお気に入りだった。クソ人間どもをバックバックと食らいつくし、全てを闇にする。実に都合のいい登場人物だった。勝手に動き始めて収拾のつかなくなったモブたちを一掃するのにうってつけだった。つまらない展開になったらごくりと飲み込めばそれで物語はうまい具合に収束した。
いつしかクソニートの主人公に代わって物語をすすめるようになった。
俺はケーオスを擬人化させ、クソニートの友人の位置に置いた。闇から生まれたことを嘆くふりをして、安いクソニートの涙を搾り取ってやった。簡単に流れる涙の安っぽさってのは実に物語を盛り上げてくれて驚いた。探し物を見つけてやってはうれし涙、病気が治ってはうれし涙、思わぬ金が手に入ってはうれし涙、ケーオスが闇を制御できたらうれし涙、ケーオスが人を好きになったらうれし涙、ケーオスが間違って人を殺したらボロボロ泣いて、ケーオスが怒りで我を忘れたらボロボロ泣いて。
実に主人公のクソニートがめんどくさくなった。もういなくていいなと見切りをつけて、物語から排除した。
元々気に入らない主人公だったんだ。クソつまんねえ人生しか生きることができなかったくせに、つまんねえことで人の上に立ちたがって、すぐに人の絶賛を浴びたがってさ。身の程を知れってさ、いつもいつも不愉快だったんだよ。物語の冒頭で散々痛めつけたみたいに消すときも苦しめまくってやるつもりっだったんだけど、ギャグに走ってしまって…少しばかり後悔した。
とはいえ、俺は一度書いた文字は男らしく改稿しない主義だったから、物語の流れを変えることなく、淡々と続いていった。
邪魔者のクソニートがいなくなった後は、とにかく如何にリアリティある闇を描くかに固執した。闇に染まっていく心理描写を書くのは楽しくて、ついつい同じ文字を羅列させてしまう事が多かった。
―――闇が私を染めてゆくの。
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
文字で画面を塗りつぶしていくことにハマった。見て楽しい物語なんて、俺ぐらいしか書けるやつはいない。つまらない、意味不明の難しすぎる単語が何の脈絡もなく恥知らずにつながれているクソ駄文の中で、俺の書いた物語は格段に目立っていた。
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
―――染まれ、染まれぇ、あハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハははは!!!
・・・私はそれを受け入れるしか・・・ないようだ。
ケーオスの闇に狂わされて、どんどんおかしくなっていく登場人物。頭のおかしくなったクソ人間さえも、ケーオスは温かく受け入れてくれるのだ。全てを飲み込み、全てを闇にし、すべてを解決し、全てを許す、実に破壊的で器の大きな、最強最悪の竜。
―――ねえお願い、私を飲み込んで。
―――我に力を!
―――お願いします、助けてください!
―――どうせ死ぬのさ。
―――お前何が楽しいの?
―――わしを誰だと思うとるのじゃ!
―――この勇者たる俺が来たからには!!
―――聖女の私があなたを封印します。
―――神を何だと心得ているのかな?
・・・私はそれを受け入れるしか・・・ないようだ。
ケーオスはすべての登場人物を、全て同じように狂わせて、全て同じように食らい続けた。
身分も、性別も、年齢も、種族も、強いものも弱いものも、すべて平等に食らいつくした。
誰が一番うまい、誰が一番まずい、そんなことは一言も口にせず、ただ食らい続けて登場人物をどんどん減らしていった。好き嫌いしないできた優等生ってな!!!!!!!
実に痛快活劇だった。
実にすっきりした。
実に書きがいがあった。
実に愉快だった。
ケーオスの破壊行動が俺に活力を生んだ。俺の生み出したキャラクターがこんなにも俺を生き生きさせるとは思いもしなかった。ケーオスの活躍を書くために、いろんなネット情報を漁り、人気のドラゴンの技を取り入れた。使えそうな武器や呪文、必殺技をケーオスが会得していくたびに俺は誇らしくなった。ネットで拾ったイラストをケーオスの肖像画として採用してやった。めんどくさい書き込みが来たが全部速攻削除してやった。ドンドン魅力が増してゆく俺のケーオス。最強の竜は、俺の最高傑作となったのだ。
そして最後は星を飲み込み、宇宙すら飲み込み、己すらも飲み込んで何もなくなったところで物語が終わるのだ。終わりの文字すら飲み込んだ衝撃のラスト。こんなにできの良い小説は未だかつて一度も見たことがない。…まあ、俺は人の書いた小説なんざ読まねえけどな。
つまんねえんだよ、人の書いた世界なんてのはさ。結局自己中心的な自己満足丸出しの物語なんか読んだって面白くもなんともない。俺の物語はこんなにも面白いのに、世の中ってやつは本当に救いようがない。つまんねえ自己主張ばかり横行して情けないことこの上ない。しかも全部どこかで聞いたことがあるような内容ばかりでまるで個性が感じられない。どこに読む価値があるのかさっぱりわからない。そもそもおかしな文章を見て、俺の唯一無二の完成が影響されておかしな文章しか書けなくなったらどうするんだ。つまらないものを見て俺の個性が消えてケーオスの物語までもが穢されるようなことになったら…俺はこの世界を許さない。
むろん、今、俺はこの世界を牛耳るつもりだからな。
クソどもはすべて排除し、使えそうなヌルい馬鹿どもを従えて・・・やりたいようにやらせてもらうさ。
いずれにせよ、最強最悪唯一無二のケーオスがいる限り、俺は何一つ心配する必要がないってことだ!!!
「く、くくくく…あ、あはははははははははははははは!!!」
笑いしか出てこねえ。
完全なる悪の塊が出現し!!
この上ない恐怖が猛威を振るい!!
逃げ惑う人々が救いを求めて、手を伸ばす!!
その手を…俺が握ってやろうってんだよ!!!
今から俺が全人類の救世主として崇められる訳だ!!!
何も知らない、クソみてえな人間どもが、俺の活躍を崇め、感謝し、平伏す!!!
裏で諸悪の根源を操ってるとも知らずになああああああああ!!!
「ケーオスだけじゃぬるいな。他にもモンスターを出すか。適当に人殺せる奴。そうだな…。」
110
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010――ベヘモット1110100
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110001
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100101――リリト011000
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0010――バエル10111
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01010001010101000100001100
10――バール・ペオル101000100000010
101111101010001010111010100010101010111
100101001011
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001001――モーロック011001100101
101001010011000101010001000000101
00 0100110000100
01010001001100001000000001010010010100
1011――アスタルテ1110101
010010100110001101000100101100100101100110010100010011000010010111110101000101011101010001010101011101001
00101011101010
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001――ガーゴイル010101011101001000
01010001000000101001010010010100110100101001100010
1000011000010010101100010010000…10100110100
010101100010010000
10100110001――メフィストフェレス010100
1100100101100110010100010100010000110000100
010100010101110101000101111010
10――スクブス00000101001
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01100
1 00101100
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9体の手下を呼び出してやった。狭い部屋の中に悪魔が立ち並ぶ。
頭のいい奴、狡賢い奴、力自慢に義理堅い人情派、イケメンに美女にキモい奴に無口な奴にノリのいい奴。みんな俺の物語に出てくる、大切な仲間。
「お前たち。適当に散って人を食らい尽くして来い。遊んでもいいぞ?ただし俺を攻撃した場合は消滅だ。あとは…そうだな、呼んだら来い。じゃあ、行け。」
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心得た000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
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000000畏まりました000000000000000
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00000000がおっ、がぉおおおお!!!000
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0行ってくる!00000000000000
0000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
0000000000000・・・00000000000000000000000
0000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
00000000任せとけって!0000000
0000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
000 0000000000000へへへ0000000000000000000
0000000000 0000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
0000000000000YES!マスター!0000000000000000
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0000000000000000俺はやるぜ!00000000
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9人の手下どもは、0を纏って姿を消した。俺の部屋には、パイしかいない。
「なんかエッチな悪魔もいたね。そういう興味、あるの?」
・・・なんだ?パイがやけに睨み付けてくる。
「ああ…サクブスか。別に、そういうつもりで出したんじゃないんだけどな。気になるのか。あいつはインクブスにもなるからパイさえ良ければ渡してもいいぞ。」
「そういうことじゃ、ない。」
パイは少しすねたように下を向いてむくれている。
…めんどくせえな。これだから女は嫌いなんだ。いいたいことははっきり言えよ。
「何が言いたいんだ。そろそろ刈りに行くけど。俺ひとりで行くのか?行かせて、いいのか?」
「ついて行くよ!!」
俺はパイの方を振り返りもせず、靴を履いて、この部屋を、出た。