第二話
「―――あなたの頭の中のすべては、0と1で構築し、この世界に呼び出すことが可能となりました。」
「キイワードは、「ゼロ」。」
「キイワードで、あなたの中にあるすべての事象がこの世界に構築を開始します。」
「事象を極めて明確に正確に情報化しなければなりません。」
「0と1は、構築するまで時間がかかります。」
淡々と話をするパイの表情は、とても明るい。
・・・見届け人?俺が何か悪いことをするのを止めるためにここにいるのか?俺の頭の中の事象?俺が願った俺の持つ俺だけの世界を自由にこの世界に放てるという事か?極めて明確に正確にとは、どのように?構築する時間?
・・・だめだ、わからないことが多すぎる。
…まずは、キイワードを、確かめてみようか。
「ゼロ」
01011
010110100
010010
10011
00010101000100000010100101001011001001011001100101000100110000100101111101010001010111010100010101010111010010001000011000010010101100010010000001010011010010100110001010100010000001010010100101100100101100110010100010011000010010111110101000101011101010001010101011101001
0110101000101010001010101110001110101000001010101100011101011100001010000011110101010
010101111011010101
0101010101010101010
俺の足元から、0と1があふれだした。
01001010011000101010001000000101001010010110010010110011001010001001100001001011111010100010101110101000101010101110100100010000110000100101011000100100000010100110100101001100010101000100000010100101001011001001011001 1001010001001100001001011111011011110100100001010000001010100010100101000001111010101010101110
01000101011101010001010101011
101001 101010101011101010
00010101 0000
000000
11000101010
101010101
頭の上で、0と1が揮発していく。
010
101010
1010
10
…完全に、消えた。
「何も考えずに構築した0と1は、そのまま消えます。」
・・・構築の練習をすべきだろう。俺はこの能力について、まだ何もわかっちゃいない。何ができて、何ができないのか。疑問点をすべて解決しなければ、能力は使いこなせない。恐ろしく自由度の高い能力だ。どこかに落とし穴があるに違いない。
情報化?頭の中で考えるという事か…?思い浮かべたらそれで完了する?まさか、そんな曖昧な感覚で二進数を使いこなせというのか?馬鹿な。二進数はそもそも0と1という二つの数字を使って全数字を表すものだ。そこに曖昧さは存在しない。
俺の背中に、汗が流れた。これは、いやな汗だ。この無双には、何かがある。すべての事象という、曖昧な表現。極めて明確に、正確に?明確とはどの程度なのか。正確とはどの程度なのか。
・・・見本のない、曖昧な物言い。
計算式に、曖昧な答えはない。
割り切れない、余りがある、そういう事例はあるが、答えは、出るもの。
曖昧な答えがあるとするならば。
8÷2 ( 2+2 ) =?
この簡単な数式の、曖昧な答え。
8÷2 ( 2+2 ) =8÷2× ( 2+2 ) =4× ( 4 ) =16
8÷2 ( 2+2 ) =8÷2 ( 4 ) =8÷8=1
数式として成り立つのがおかしい出題に対して答えが二つ存在してしまう。
いや、それは答なのか。そもそも出題が間違っているのではないか。
だとすれば。
・・・俺の無双は、初めから間違っているのではないか。
0と1ですべてを表す?どう表すんだ。俺の中で何かが警鐘を鳴らす。おかしい。何かが、おかしい。自分があれほど二進数に可能性を見出し、憑りつかれたというのに、いざこうして手に入れるとこんなにも・・・狼狽えて、居る。
「難しく、考えないで。私がいる。私は、あなたの世界を、完全に構築することができるの。そのためにここにいる。ハジメが構築できないものは、私が構築する。だから安心して。」
「信用が、できない。」
パイの表情が曇る。しかし、その表情すら、俺は信用していない。
・・・何かある、俺の直感が、そういっている。
ベッドに、腰を下ろす。少し疲れてしまった。ベッドの上も、ずいぶんきれいになっているから…今日は久しぶりに、手足を伸ばして眠ることができそうだ。
…もう、寝てしまおう。久しぶりにいろいろ考えて、頭がおかしくなったようだ。
「眠るの?」
俺は何も言わず、目を閉じた。
・・・夢を、見た。
・・・手を、伸ばす、夢。
・・・俺は何かに、手を伸ばし。
・・・手を、伸ばし。
・・・手を、伸ばした、先には。
「目、醒めた?」
パイが、俺をのぞき込んでいる。
ッ!至近距離!!
がばと、起き上がる。
「ねえ、無双、しないの?」
無双っていきなり言われても…そんなすぐに気持ちの切り替えができるもんじゃないだろう…。
そもそも、俺には、今すぐやりたいと思えるような何かが…見当たらない。
一心不乱に、俺の頭の中を具現化することを目指した俺は、結局やりたいことなど、なかったらしい。現にこうして、無双する能力を得たというのに、何もせずにぐうたらしているじゃないか。
・・・俺は結局、ただの無気力な男だったってわけだ。つまらない人生だよ、まったく。
「しない。するつもりがない。する意味がない。メンドクサイ。どうでも、いい。」
ごく普通に生きていけたら、それでいいってわかったよ。普通の人間に、無双は必要ない。そんなもの手に入れたところで、何もできないのが人間ってものなんだ。
「…ハジメ、若返ろう。年老いたあなたは、無気力になり過ぎた。」
パイの目が、光った、ような・・・?
「・・・え?」
パイが、俺の中から、「0」と「1」を、引きずり出すっ…!!!
「ゼロ」
101000
01001010011000101010001000000110110010010110011001011101001
0101011 0110101010101010
100010101110100
やめろ!!!10101000101001
010010100101100100 0001010000011110101011011111010000000100001011100001010000011110 10110011001010001001100001001011111010
00000やめろ101010101011101010
010100010101010111010010001000011000010010101100010010000000000101001
0001010100000000001010101011000101010001010000010111101001000010100000010101010111
01001010011000101010 0010100 1101001010
1010101俺を110001010101010101010000101000000101110000101000001111010101010111101001010111000010
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0と1が!0010101010100000111101010101011110100100001010000001010100010100001010111000
01100010101000100000010100101001011001001011001100101011101001
101000クルリクルリと11010101001000010000000000011111110000000001010010101000010000101000000101010001
001001100001001011111010100010101110101000101010101110100100
包み込んで!!!101000101010101011111010100001010000001010100010100010101111010010000101000000101
0101000100110000100101111101010001010111010100010101
101000うわぁあ!0101010101110101010010001010101110000101001111010101010010111000010100000111101010101
01 010001001100001001011000101011110100100001010000001010101110000101001011110000101010001000001
101000ああ!10101010000
1 11010100010101110101111010101010111101001000010100000010101000101010001011111010111000
1111101ああ…
001010011010010100110010001
消え…010
01010
101010る…
101010
010
「ああ、ハジメ、かっこいいね。」
0と1が周りから消え去った時、俺の心は、嘘のように晴れ渡った。
ああ…これは、俺が高校生だった時の、学生服。クリーム色のセーターに、浅葱色のネクタイ、ネイビー×グリーンのスラックス。体が、軽い。頭もすっきりしている。髪もすっきりしている。
無気力…?笑わせるな!!
俺が、俺がこの世界を手に入れてやる!!
俺は世界を手にする男!!
俺に歯向かう奴はすべて消す。
・・・すべての人間は、俺に跪けばいいんだよ!!
「ふん。当たり前だ。俺を誰だと思っている…?」
「世界の、覇者。」
ニコニコと俺を見上げている、パイ。
…なんだ、かわいいじゃねえか。
「正解。」
俺は0と1を構築し始める。
「ゼロ」
010010101010001010101011101001
10101 01010武器がいる10
0 1100010101100001001011111011100101000101110000101000001111010101010111101001000010
00無敵の武器0000000000
01000100000010100101001011000010
一撃必殺の11000101010101011100000010101000101000111101010101011110100100001
001011 00110010100010011000010010111110101001
0010101010命を刈り取る010
010 1011101010001010101011101001000100101
…鎌110101010010000100000010101000101010010000101010111000010100
001000011000010010101100010010000
10100付与すべきは0101
0000001010011010010100011110101010101111010010000101000000101010
…ゼロ0101010101110101010
11000101010001000010100000010101000101
010出てこい10101010000
10010010110011001010
俺の1111101
1010001010
010 武器
1010010
101010
101
010
0と1が激しく俺の足元から噴き出し、消えていく。
すべての0と1が消え去った時、俺の手には、闇を纏った、大きな鎌があった。
・・・これは、命を刈る、鎌。
「クッ、ククク…!!!」
俺が、刈るのさ。
刈り取り、「1」を「0」に変える。
「さあて。自作自演から、やっていこうか…?」
俺の無双が、今、始まる。