第十七話
0、ゼロ、ない。
1、イチ、ある。
ないもの、あるもの。
ないものは、ない。
あるものは、ある。
…あるものを、しりたい。
あるものが、どれほどあるのか、知りたい。
あるものが、どれほどあるのか、表すためには。
数を、使えばいい。
数字という、考え方を、使えばいい。
1、2、3、4、5、6、7、8、9…
数字に、0がつけば、桁が変わる。
9の次は、10だ。
0は、ないものなのに、数字と結合することで、あるものに変わる。
0123456789、十の数字の組み合わせで、永遠に続いてゆく莫大な値。
数字が並んでいくほどに、増えてゆく値。
世界にあふれる、力を表す、値。
力は、すべて、数字を使って表すことができる。
力は、数字がなければその威力を表すことができない。
どれほどの力が生まれるのか、計算式で求めることができる。
力など、数字でしか表せない、ただの値。
力など、数式によって出されただけの、ただの値。
力など、数式がなければ予測する事すらできない、ただの値。
力など、数式がなければ何も証明できない、ただのつまらない存在。
どれほどの力であったとしても、0か1かで表すならば、1でしかない。
力など、ただの1でしかない。
力のない存在は、ただの0でしかない。
0と1、それだけあれば、それでいい。
123456789。
結局1でしかない、ただの数字など、必要ないと、気が付いた。
普通の数字を使わずとも、0と1だけで数字を表すことはできるのだ。
二進法、二進数。
0と1、それだけあれば、それでいい。
0と1、それだけあれば、それでいい。
0と1、それだけあれば、それでいい。
0と1、それだけあれば、それでいい?
―――0と1、それだけあれば、それでいい?
何故。
なぜ俺は。
―――なぜ、お前は、そう、思った?
―――数字があるのに、0と1だけにこだわった?
―――数字があるのに、0と1だけで表現する二進数にこだわった?
数字があるのに、数字を見ようとしない?
―――数字の表す、力を見ようとしない?
―――数字に表される、力の大きさを、1にしたがる?
何故。
なぜ俺は。
0 、ゼロ、ない。
1 、イチ、ある。
ないもの、あるもの。
ないものは、ない。
あるものは、ある。
―――0と1、そこに力はあるというのか?
―――0と1、そこに力があると、なぜ思う?
0には力はない。
1には力はない。
数字に力はない。
力の値を見せつけるためだけに存在する数列。
力の値を見せつけるためだけに並んでゆく数字。
並ぶ数字が示すのは、力の、値。
1の力を持つ者と、10の力を持つ者が並ぶ。
1の力を持つ者と、1698の力を持つ者が並ぶ。
0と1しかなければ。
1の力を持つ者と、10の力を持つ者は、共に1。
1の力を持つ者と、1698の力を持つ者は、共に1。
0と1しかなければ。
力を持たないものは、ただの0。
力を持たないものは、ただの0。
力を持たないものは、ただの0。
力を持たないものは、ただの0。
力を持たないものは、ただの0。
力を持たないものは、ただの0。
力を持たないものは、ただの0。
力を持たないものは、ただの0。
力を持たないものは、ただの0。
力を持たないものは、ただの0。
0000000000
力のない0が十、並んでも、0でしかない。
だが。
ここに。
1が、並べば。
10000000000
二進数で10000000000は、1024。
1が、一つあるだけで、0の数列が1024の値に変わる。
0と1が、あればいい。
0と1だけ、あればいい。
0と1だけあれば、数字などなくてもいい。
0と1だけあれば、数字などなくても、値が示せる。
0と1だけあれば、数字などなくても、力の値は表すことができる。
―――表すことができるのは、力の値であって、力そのものではない。
あるものとないものが組み合わされば、力を表すことができる。
あるものとないものが組み合わされば、ないものも力になれる。
―――憐れな1。
値を表す数字が存在しているのに、0と1にこだわり使うことを拒んだ。
値を表す数字の存在から目を背けて、0と1が並ぶ二進法を選んだ。
己の値の低さに、0と1の世界に逃げた。
己の値の低さは、0と1しかない世界で1として並ぶことができる。
己の値の低さが、0と1しかない世界で際立つことはないと安堵した。
―――お前は、限りなく0に近い1だ。
―――お前は、限りなく0に近い1だ。
―――お前は、限りなく0に近い1だ。
だが、1である以上、1だ。
値を表す数字が莫大であろうとも、1は1。
値を表す数字が極小であろうとも、1は1。
0と1が並ぶ二進法に、莫大な数値も極小の数値も実に巧妙に紛れ込む。
0と1の中に、自分の1を放り込んだら、莫大な値になれると思い込んだ。
数字を放り出して、0と1に紛れ込ませて、自分の値を隠そうとした。
数字を放り出して、0と1に紛れ込ませて、自分の値を増幅しようとした。
―――だが。
―――所詮。
―――0も、1も、2も3も4も5も6も7も8も9も。
―――ただの、数。
――ただの、数字だ。
―ただの、数字でしか。
ただの数字でしかないのだ。
ただの数字には、何の力もない。
ただの数字には、力の大きさを表す事しかできない。
それすら使おうとしない、愚かな二進法。
0と1が並んでゆく、二進数の世界。
1を0にすることはできるのか。
0を1にすることはできるのか。
俺の1は、どこに存在しているのか。
俺の1は、どこに存在していたのか。
俺の0は、どこにも存在していないのか。
俺の0は、どこにも存在していなかったのか。
俺にないものは何だ。
俺にあるものは何だ。
俺は1なのか、それとも。
俺は0なのか、それとも。
二進数はただの数値表現法に基づいた、ただの値に過ぎない。
そこに、何一つ問題は存在していない。
そこに、何一つ疑問点は存在していない。
そこに、何一つ計算されなければならない数値は存在していない。
二進数に解などない。
二進法はただの数値表現法に過ぎない。
そこに、何一つ力は存在していない。
そこに、何一つ振り翳す力は存在していない。
そこに、何一つ何かを握りつぶす力は存在していない。
二進法を操る悪魔などいない。
俺は。
俺、は。
俺、は、…。
―――お前は、1だ。
―――お前は、1を手放してはいけない。
―――お前の1を、0にして は、 ダ メ だ
力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。力を持たないものは、ただの0。
「やだ、これ…あんたの卒アル、すっごい黒歴史ね。なんかいっぱい落書きしてあるし…。」
姉ちゃんの声にはっと我にかえった。ぼんやりと椅子に座る俺の目の前で、姉ちゃんが立ったまま、古ぼけた卒業アルバムをめくっている。辞典並みに分厚いそれは俺の小学校の時のもので、前半部分はクラス写真や思い出の写真集、後半部分は生徒たちの文集となっている。所々に落書きがしてあるのは…当時俺が絵を描くことにハマっていた名残だ。卒業式の後、クラスで文集にサインを入れるための時間が設けられたのだが、俺は友達がいなかったから…その時間、暇つぶしに絵を描き込まざるを得なくて…クソ、いやな思い出だ。
「クラスで一番強そうなやつねえ…HP999とか…一番強いのがあんた?わりと辛口なのに自分には甘いというか。うわ、何これ…。」
ぱらぱらと卒業アルバムをめくる姉ちゃんを見て、やけに俺の喉が、乾く。つばすら出ないというのに、俺はごくりとのどを鳴らした。
俺のアルバムを見たやつは…姉ちゃんが、初、だ。卒業アルバムのクラスのページを企画した俺は、クラスメイト達から卒業式の日に文句を言われてさんざんもめて…その記憶を封印するために、自分の机の一番奥にしまい込んだ。そのまま時は流れたため、親にも上の姉ちゃんにも見せることはなかったのだ。
正直、見られたく、なかった。なんであんなところにアルバムが落ちているんだ。いつ、あんなところに出てきたというんだ。クソ、大昔の自分の恥を見られて、正常な判断ができそうにない。下手なことを言われて恥の上塗りをするわけにもいかない。一刻も早く姉ちゃんを追い出したい。だが…叩き出そうにも、俺は姉ちゃんに強くものをいう事ができない。下の姉ちゃんはやけに口がうまくて、いつも言い負かされてばかりで、非常にめんどくさい事になりかねない。アルバムから気を逸らせて…さっさとここから追い出すためには…。
人と話すことに慣れていない俺には、姉ちゃんを追い出すような会話技術を持ち合わせていない。姉ちゃんの家族について聞くか?いやそれは悪手だ、ここぞとばかりにいろいろと話を始めるに違いない。天気の話?クソ、カーテンはしまっている、パソコンは切ってしまったし、部屋の中の話をしてもめんどくさい事になりそうだ。何か、姉ちゃんが俺と話すとめんどくさいから早く出ていこうと思えるような話題はないか。
…そうだ、姉ちゃんはあんまり頭が良くなくて、数学の点数が取れずに受験をあきらめた、はず。数学、数字にトラウマがあるに違いない。俺は文系だったが、理系に行っても十分通じるくらい数学の成績は良かった。実際数学のテストは満点しかとったことがない。難しい問題を出したら、めんどくさがって帰ってはくれないだろうか。方程式の問題を出すか?…いや、いい問題が浮かばない。もっと抽象的で、めんどくさそうで、間違った答えを俺が言っても突っ込まれないような有利な問題…。
絞り出すように…声を、出す。
「姉ちゃん…数字は、何が一番、強いと、思う…?」
「…何言ってんの?数字に強いも何も…数字なんか強いわけないじゃないの。」
…クソ、困らせて追い出すどころか、バカにされた。これだから気の強い女は嫌いなんだ。難しい問題にすればよかった、そう考えた、俺だったが。
呆れた顔を俺に向ける姉ちゃんを見て、ふと、気付く。
・・・そういわれてみれば、数字に強いも弱いもない、か。
「数字は、計算するのに使うものであって、数字自体に力なんかあるわけないでしょ。物体の大きさを示すときに使うだけで、数字が人間をどうこう出来るわけないじゃない。」
ただの数字に、数字に力はない。…確かに、そうだな。
「ま、一億とかさ、ゼロがずらっと並ぶと強そうに見えないこともないけどね、所詮ただの数字じゃない?おなかも膨らまないし…ある意味メンドクサイ存在だと思うけどね、数学とか難しかったし。」
数字を使って計算はできるが、計算はただの計算であって、何かを生み出したりなんかしない。
…ゲームと同じだ。1になれない、0の世界。ゲームの世界を現実世界に引っ張ってきたところで、それはただのレプリカでしかなく、現実世界に現れたゲームの世界のアイテムは全くの別物だ。
数字は1になれない、ただの0。現実に新たな1を生み出すために、力の値を計算し、現実世界の中で値を示す…数字という記号に過ぎない。あるかないか、あったらそれはどれくらい違いがあるのか、それを視覚的に表すためのただの方法。ただの数値を表すだけの…数字に意味はない。
「一番強いのはね、人間よ、人間!!歩きたいと思うときに歩き出せる人間が一番強いの!!家に引きこもって難しいことばっか考えてる人間なんて大したことない!!ほら!!たまには外に出て運動でもしなさいよ!!!・・・おいしいご飯、奢ってあげるからさ!ね、今からいこうよ!!」
追い出そうと思ったら、一緒に連れ出されることになりそうだ。だが、部屋に居座られるより何百倍もましだ。エレベーターに乗ったあたりで気が変わったとでも言って逃げればいい。俺はババアと一緒に飯を食う気はない。
・・・とはいえ。
数字に囚われ、0と1に捕らわれた俺は、姉ちゃんという…第三者の意見を聞いて、少し冷静さを取り戻した。
力を持たないものはただの0?
力があるものは1?
0123456789、ただの数字じゃないか、ばかばかしい。
気難しく考えすぎておかしくなったんだな、俺は。最近無理をし過ぎたんだ、ストレスが溜まってたんだな、きっと。ただの数字に、何をビビっているんだ。はは、俺も年をとったもんだ、つまんねえこと考えて、おかしな妄想に囚われるとか。
・・・俺は気を取り直して、立ち上がろうと。
―――私はあなたの中に存在しない…0。
―――あなたに存在していないもの、それは何だと思う?
―――1の世界で、1であることを放棄したら・・・だ・・・め・・・。
お
前
は
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お 前 は 0
お
前
は
0




