第十一話
―――無意味に地を這いずり回る虫けらども!!!
この世のすべての闇を纏い。
―――今から粛清してやろう!!!
この世のすべての炎を瞳に封じ込め。
―――命など意味がなかったのだ!!!
最強、最悪、この世の厄災をすべて担うために生まれた、唯一の、存在。
―――闇こそが尊いと知るがいい!!!
ケーオス=ディソーダー。
異世界に転生してきた、チート貰っただけの頭の悪いクソを次々に踏みつぶし、つまんねえミジンコみてえな生き方しかできねえ一般人を闇に塗り込め、生きてく価値のねえ星を闇で覆い、宇宙すら闇の彼方に追いやった、「1」を「0」にした、元凶。
俺が、引きこもって殴りつけるように記した、渾身のバトル小説の、裏主人公。
主人公の一人称で物語が進むと思わせておいて、いつの間にかケーオスが語り部になるという、華麗な物語の流れの転換は見所の一つだ。文字数にして10万字を超える大作を完結することができたのはケーオスあっての事。擬音が多くて臨場感あふれるバトルシーンを、実に華やかに演出してくれた最強のキャラクター。
頭が良いと思い込んでる頭の悪いクソニートのおっさん主人公と共に、一通り人助け、救世、改革を繰り広げたのち、すべてを闇にした、物語一番の功労竜。
クソニートと打ち解けたふりをして、油断したところを後ろからパクっと食って。口直しに、大好物のソーダ水を飲んだんだ。…この、一番の笑いどころは読者には受けなかったがな。
頭の悪い読者には、俺のユーモアが通じない、その事実にげんなりしたんだ。
頭の悪い読者しかいないから、俺の書いた小説は理解されなかったんだ。
頭の悪い奴らしかいないクソみてえな世界に、俺の小説はふさわしくないと分かったのさ。
まあ、大手出版社が頭を下げて大金積んできたら、対応ぐらいしてやろうと思ってたがな。
俺は優しいんだ、クソみてえなやつでも、俺の小説をほめるなら相手ぐらいはしてやるつもりだったんだ。だが、いつまでたっても俺にオファーが来ない。満を持して発表してやったのに、誰一人として俺の小説を褒め称えない。それどころか、一向に既読が付かない。ネットにおかしな毒電波でも流れているのか、俺の作品だけが話題に上らない。クソみてえなつまんねえ小説が持て囃されて、世間を賑わせていた。世間を賑わすはずのケーオスの活躍は、いつまでたっても世間を賑わせなかった。
不憫なケーオス。俺はケーオスが不憫でならなかった。俺がせっかく書いてやったのに、誰からも持て囃されない気の毒なキャラクター。
ご都合主義展開が許せずに、ハードボイルドを貫いたのも開く影響したらしい。世界を震え上がらせるはずの俺の小説を、誰も見つけることができない日々が続いた。俺の才能がいつまでたっても世界に羽ばたいていかない。俺の書いたケーオスの物語を理解することができない、頭の悪い奴らが多すぎる。俺の小説を理解できない未熟で愚かなクソ虫どものあふれた世界に、俺は情けをかけてやることにした。
ネットの掲示板に、小説を載せてやったのさ。
探し出すこともできないやつらに、わざわざ教えてやることにしたのさ。こんな素晴らしい小説があるぞ、小説界の神作品だ、アニメ化、映画化、ハリウッド、引く手あまたとなる作品にいち早く出会わせてやるよ、褒め称えるべき存在がここにある、異能力バトルってのはこういうのを言うんだぞ!
「初めて知ったよ!この感動をぜひライトノベル愛読者の人に教えたい!」
「すごい作品だ、みんな読んでみて!」
俺はいつだって賛辞の言葉を受け入れる準備はできていたんだ。
「こんな小説読んだことない、出会わせてくれてありがとう!」
「続編お願いします!いつまでも待ってます!」
「文学賞総なめですね!」
俺はいつだって突然終わった世界の続きを書けると思っていたんだ。
――自作自演乙
――ツマンネ
――IPwww
――受精卵からやり直してこい
――つか受精すんな
――頭わるー
――中二病も限度を超えた
――こんなんで小説名乗るな駄文
――拝読しましたが少々表現力に偏りがあるようです誤字も多く見直しすらできないのかと驚愕しました
頭の悪い書き込みを見て、いよいよこの世はどうしようもないと俺は悲観した。
俺の世界を理解できない低能どもが多すぎる。
俺の世界を褒め称える事すらできない愚か者どもしかいない。
俺の世界が間抜けな奴らに穢されてしまう。
もう、この世界はどうにもならない。
俺はこの世界を見限った。
俺の中にある、俺の知識、教養、知恵、英知。創造は無限に広がり、可能性しか存在していない。俺の中にある存在こそがこの世界に存在すべきだ。俺の中にある物こそが、世界に必要なものだ。なぜ、俺の中の世界は、このクソまみれの世界に存在していないんだ。
俺の頭の中の世界こそが、世界として存在すべきだというのに!!!!!!!!!!
…そうだ、俺は。
俺の中にある、『1』をクソまみれのつまんねえ世界に持ち出そうとして。
ゲームの中に、可能性を見たんだ。
モニタに映る煌びやかで美しいゲームプレイ画面には、自由な世界が広がっている。魔法を使い、駆逐すべき存在を蹴散らすことができる空間。ゲームの世界は現実世界にないものだが、確かに存在していた。存在しているからこそ、無双も暴虐もできた。俺の望む展開が広がってゆく世界。ゲームの中に、俺の望む俺の頭の中に広がる世界に類似したものを見つけたのだ。
金を積めば、何だってできた。増えてゆく課金アイテム、膨大な魔力、強い武器、もてはやされるエフェクトに見た目。誰もが俺を褒め称え、アイテムをばらまけば仲間はどんどん増えていった。
つまんねえ暴言を吐く奴は徹底的に排除した。頭の悪いプレイヤーは徹底的に叩きのめした。運営がごちゃごちゃと頭の悪いことを言ってきたが、すべて論破した。頭の悪い奴を知力でねじ伏せるのは相変わらず気持ちが良かった。クソどもを叩きのめす高揚感。時間を忘れて没頭した。増えてゆく満足感と、心地の良いメッセージをくれるまあまあ使える仲間。
複数のキャラクターを作り、時には残虐非道な悪役を演じ、自らが討伐に乗り出し、制圧し、信頼を得て使える仲間を増やした。俺を褒め称える者には褒美を与えて、つまらねえことを言う奴は濡れ衣を着せて徹底的に潰してやった。
トップの座を守るため、新作アイテムはすべてゲットした。お目当てのレアが出るまでガチャを回したせいでクソアイテムも増えていったがな。そんなのはクレクレ乞食に恵んでやればいい。俺を崇めるやつらはどんどん増えていった。現実から消えていくのは、つまんねえ課金システムに貪られた万札だけだ。俺はゲームの世界で無双を極めた。
だが。
頭の悪い奴が、頭の悪いことを言い出した。
ガチャが不正だと、重大な不正があると言い出し、言いがかりに近い理論でゲーム会社を追い込んだのだ。当選確率?そんなのは運だろうが。課金システムの依存性?金を積んでほしいものを得るのがどうしていけないんだ。マナーの悪いプレイヤーによる精神的苦痛?ああ、確かに失礼な物言いの頭の悪いプレイヤーは溢れていたな、すべて俺が叩き潰したが。
俺が無双を極めたゲームが世界から消えた。
俺に残ったのは、無双を極めた称号の数々が映し出された、ただのパソコン画面のスクリーンショットだけだった。スクリーンショットですら、現実の俺の手のひらの上に存在していなかった。画面に映る、目に見えるが存在していない…ただの映像。
俺の無双した世界は消えた。
ログインすらできなくなった、俺の世界。俺がいるのにふさわしい世界がやっと見つかったというのに。クソしかいないクソ現実世界は俺をどうしてこんなにも苦しめるんだ。俺の世界を返せ。俺にふさわしい世界を返せ。画面の向こうに広がる俺の世界を今すぐ返せ!!!!!!!!!!!
返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ
モニタを割って、入り込んでやろうか、ふいに思いついて、モニタをがしりと掴んだ。頭の悪い奴が設計したからか、コードが半分抜けて、パソコン画面が青くなった。おかしな不協和音が鳴り響き、画面に白い文字が‥‥数字が流れるのを見た。
010000101000110011111111110001111111111111111111101010100010001000010000000111111001010000100101000011011101010001010101111111111111101001000011000010101111010010010101010010100101000001110001110101011011010000111000・・・
…なんだ、これは。
00101000110011111111111010101000100010000111111000111111000000001010001010001010101111111001101111111111010010000110000101011110100100101010100101001010000011100011101010110・・・
…そうだ、これは。
01010001010101111111001101111111111010010000110000101011110100100101010100101001010000011100011101010110・・・
パソコンの世界は、0と1で構築されていると言っていたな。そうか、パソコンの中では、0と1で俺の世界を作り上げていたんだ。たった二つの数字で、あれほどまでに偉大な世界を作り出せるのか。俺の世界すべてが、0と1で。
0はないもの。1はあるもの。ないものとあるものが複雑に絡んで、無限の世界を構築する。
そうだ、この世界は、まさに。
0と。
1と。
ないものと。
あるものと。
この世界に、俺の頭の中の世界はない。
この世界にあるのは、クソだけだ。
ないものを、あるようにするには。
ないものを、存在させれば。
0と1で、ゲームの世界ができているというのであれば。
俺の世界も、0と1で構築できるはずだ。
俺の世界が今「0」であるとするならば。
このクソ忌々しい「1」の世界に。
俺の中に確かに存在している気高き世界を「1」として存在させることができるはずだ。
頭の悪い奴らがうんうん唸って、ゲームのシステム、パソコンのシステムを作り上げたんだ。頭の出来が違う俺だったら、ちょっと考えればできるはずだ。
どこにある、俺の世界。
どこにある、俺の活躍できる世界。
この1と0の中に、必ずあるはずなんだ。
それを見つけ出せば俺は無双できる、無双を取り戻せる、無双を今度こそ永遠のものに!!!!!
そして俺はついに!!!!!!
「ゼロ」を手に入れ!無双をするためにクソまみれの世界に踏み出したというのにィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイいイイイイイ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「許さん…許さんぞぉおおおおおおお!!!!!!!!あのクソガキがああああああアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
ゆらり、俺の体がふいに、よろめいた。
…ああ、怒りのあまり、武者震いってやつか?
「…計画変更だ。あのクソガキ、刈るぞ。」
「了解。」
世界の救世主として君臨?
はッ!!!救うべき存在ですらないクソどもの事を考える必要なんてなかったんだ。
俺としたことがミスったな。
初めから無双して粛清しとけばよかったんだ。
クソから感謝されたところでつまんねえだけだったんだ。
どうせクソどもはまた頭の悪いことを言い出して俺様に頭の悪い理論を吐くんだろ?
あーあー!!大失敗だよ!!
はじめっからぶっ殺しときゃあよかったんだ!
手始めにクソ忌々しい真っ白のクソガキからだ。
テレビ中継のド真ん前でその腹掻っ捌いてやるよ!
真っ白の腹からきたねえもんが飛び出す所をばっちり映してやるよ!!
一番見られたくない秘密の部分を思いっきりさらしてやるよ!!!
クソみてえな思考回路しか詰まってねえその頭かち割って豆腐みてえな脳みそぶちまけてやるよ!
「ゼロっ!!!!!!!!」
01010
0010
101011110000101011110100100101010100101001010000011100011101010110
0110クソガキのもとに0100010
11100110111111111101001000011
101 110000100010101110
0飛ぶ0011010
01001010011000101010001000000110110010010110011001011101001
010101101101010101010101
0デスサイス01001100010
010101001010011000101010001000000110110010010110011001011101001
101000刈るために10000
010101010101
01001010011000101010001000000110110010010110011001011101001
101011011010101010101 000
00ブチのめす1010010
1010011000101010001000000110110010010110011001011101001
0101011011010101010101
10血祭0100100
101011011 1100
01001010011000101010001000000110110010010110011001011101001
10010俺は覇王となる1100
0101011011010101010101
0101011011010101010101
110クソは殲滅させる010
01001010011000101010001000000110110010010110011001011101001
0110000100101
11110101000101011101010000101000
100010
00
俺は、0と1に包まれて、誰もいない家電量販店のテレビ売り場から…姿を、消した。




