表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こっちの世界の超能力は異世界でも最強でした  作者: ナナシノナガレヤマ
9/11

火遊び

「う……ん……ん?」


 眠りから覚めると、見覚えのない天井が目に入ってきた。

 ちょっとした火遊びでもしちまったか、なんて一瞬考えたが、火遊びどころではなかった。昨日、森燃やしてたんだ俺。

 そう、いつもと同じような感覚で目覚めたが、ここは異世界。

 そしてここは……あれ? そういや俺どこで寝たんだっけ? 消火活動で疲れ果ててあんまりその後の記憶がない。帰ってくるなり倒れ込むように寝た気がするんだが、そもそもどこに帰ったのか。

 その答えは右隣を見てわかった。 


「むにゃむにゃ……もう食べられないよぅ」

「なんてベタな寝言だ」


 すぐ横で、俺の腕を枕にしながらソフィアが寝ていた。つまりここはメリー・ルー……ソフィアの家のベッドの上だ。

 なんで俺達一緒に寝てるんだろう。顔が近いし、ちょっと心臓に悪いこの状況。


「ソフィア、起きろー」

「ん? んん……ああヤゴ、おはよ……ってうわぁあああ!」


 すぐ今の状態に気が付いたのか、ソフィアは飛び上がった挙句にベッドから転がり落ちる。


「いてて……」

「大丈夫か?」

「大丈夫じゃない! なんであんな事になってたの私達!」

「それに関してはそっちの方が覚えてるんじゃないのか?」

「え? ……そうだ! ヤゴがいけないんだよ! 帰ってくるなり私のベッドに寝転がり始めて、ぜんぜんどいてくれなかったんだから! 私だって床で寝たくなかったし、しょうがなく同じベッドで寝たの!」

「なるほど、それで俺の腕を枕替わりにしてたのか」

「わーわー! 何の事だかわかんないなー!」


 さて、ソフィアいじりはこれぐらいにしておこう。

 俺はベッドから下り、出かける準備を始めた。


「あれ? ヤゴ出かけるの?」

「何言ってんだ、薬草採取だろ?」

「え、でも昨日取ったのがあるし、私は薬の調合をしようと思ってるんだけど」

「ああ、だから俺が取ってくる。ついでにオークとか出たらラッキーだな」


 なんせ昨日いろいろと買い物をしたので、既に所持金が底をつきそうだった。庶民がしばらく遊んで暮らせるぐらいの褒賞額だったのに……あの魔導書が高すぎた。また稼がなきゃならない。


「いやいや、なんでナチュラルに手伝い続けようとしてるの?」

「え? だめなの?」

「いや、ありがたいよ? でもヤゴの強さなら絶対にもっと効率良く稼げるし、私なんかの手伝いしてる場合じゃ……」

「いいんだよ。一人じゃ寂しいじゃん。気の合うやつとノラリクラリやってたいんだ俺は」

「……そっか」

「っていうわけで行ってくるわ」

「待って、ヤゴ。どの草が薬に使えるとか知ってるの?」

「全然わからん。とりあえずありったけ刈ってくればいいかなって」

「やめて! これ以上、森を荒らさないで!」


 結局二人で行く事になった。


 ※


「よかったのか? 薬の調合は」

「大丈夫。素材はあればあるだけありがたいし」


 今日はさらに冒険してみようという事で、森のさらに奥の方までやってきた。

 昨日購入した鞄の中に、ソフィアが厳選した薬草を詰め込んでいく。


「あっ! これレッドクローバーだ! こんな所に生えてたんだ!」


 森の奥には珍しい植物が叢生していたようで、彼女は先ほどから上機嫌であった。

 今だったらなんでも答えてくれそうなので、なんとなく気になっていた事を尋ねてみる。


「ソフィアはいわゆる魔法使いの事、どう思ってるんだ?」

「ん? 魔法使いって……いわゆる宮廷魔導士とか治癒魔法師の事?」

「そうだな、特に後者の方」

「んー……あんまり良いイメージはないかな」

「やっぱり?」


 魔法適性を鑑定した時からあまり良い反応してなかったから、そうじゃないかとは思っていた。


「治癒魔法ってね、すごい魔力を消費する代わりに本当になんでも治せちゃうの。死んでなければ大概の事はなんとかなる。でも知ってる通り、使い手が少なくて……しかも治癒魔法は一人ずつしか掛ける事ができないから」

「需要と供給が吊り合ってないんだな」

「そう。だから治癒魔法師に治療してもらうには、とんでもない額の料金がかかるの。ここまではいいんだよ。相応の事してるんだからそれなりにふんだくったっていいの。でもね、どうもこう、治癒魔法師の人って尊大な印象があるというか……今まで会った人だけかもしれないけど、他の人達を虫ケラとしか思ってないというか……」

「だからソフィアは治癒魔法を使いたくない、と」

「それもあるし、そもそも私の目標には必要ないんだよね」

「メリー・ルーを世界一の薬屋にするって事か?」

「それもあくまで手段の一つなの。本当の目標はね」


 その時だった。

 遠くの方で爆発音がした。


「……なんだ? 今の音」

「こんな森の奥の方まで聞こえるなんて、かなり大きい音だよね?」


 なんだろう、この胸騒ぎ。

 まだ薬草採取を始めてからそう時間も経ってないし、せっかくこんな所まで来たんだ。ここで切り上げるのはもったいない気がするが……。

 やはりどうしても気になる。


「戻ってみるか」

「う、うん」


 ソフィアとともに、来た道を引き返す。


 ※


 街へと戻ってきてみると、とんでもない事が起こっていた。


「なんだ、あれ」


 街の中心部……ちょうどギルドやハローアークのあった辺りから黒煙が吹き上げている。そして逃げ惑う住人達。これがただの火災ならばまだよかったかもしれない。しかし看過できない問題がもう一つあった。


「あの煙の周りを飛んでるのって……魔物?」


 距離が遠いので詳細にはわからないが、黒い翼の生物が無数に飛び交っているのだ。


「ごめんヤゴ。煙が上がってるのを見て、真っ先にまたヤゴがなんかやらかしたんだって思っちゃった」

「信用なさ過ぎて笑える。ってかそんな事、言ってる場合じゃないよ。なんだよあれ。結界が張ってあるから魔物は街に近づけないんじゃないのか?」

「そのはず……だけど」

「それなら、結界とかそんなの無視できるぐらい上位の魔物が現れた、って説が濃厚かな」

「そんな! じゃあ街は……」

「とりあえず俺は近づいてみようと思う。ソフィアは」


 ソフィアはメリー・ルーに戻っていてくれ。そう言いかけたが、やめておいた。いつ街の外れの方に魔物の手が及ぶかわからない。

 だったら、今のこの街で一番安全な場所はどこか。


「ソフィアは俺の横でパンでもかじってるといい」

「ええ! パンあるの? ちょーだい!」

 

 パンに食いつきすぎだろ。こう考えるとソフィアもたいがい暢気な気がする。


「ものの例えだよ。横でボーっとしててくれって意味」

「なんだ……」


 露骨に肩を落とすソフィアを連れ、煙の上がっている方へと急ぐ。パニックになっている街の住人達の波をかき分けながら、少しずつ前へ進んだ。

 中心部に近づくと、騎士達のものであろう怒号、魔物の鳴き声、そしてその両者の闘争する音が耳に入ってくる。魔法による衝撃音、剣が打ち鳴らす甲高い金属音……戦いは苛烈を極めているようだ。どれほどの被害が出ているのだろう。


「ところでさ、ソフィア。俺の事どう思う?」

「え! な、ななな何をいきなり!」

「俺わりと人から『お前はネジが外れた人間だ』って言われるんだ」

「ん? ああ、そういう話ね……まあそうだと思うよ。普通の人とは違うよね」

「そして俺は不謹慎という言葉が死ぬほど嫌いなんだ。それをわかっていてほしい」

「話が見えないけど、つまり?」

「今、俺めっちゃワクワクしてる!」

「ダメだこの人……って、え……?」


 そう、だから、


「ヤゴ? ヤゴ! いやぁあああああああ!」


 たとえ、背後から何者かに首を跳ね飛ばされたって、あーミスッたなぁ、くらいしか思わない。痛みもそんなになかった。

 ゴロゴロと視界が回転する。回っているのは俺の頭部だが。

 そして最後、俺の目に映ったのは……いつの間にか胴体を分断されていた、ソフィアの絶望に歪む表情だった。

 視界は暗転する。


 あー、よかった。

 間に合って。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ