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こっちの世界の超能力は異世界でも最強でした  作者: ナナシノナガレヤマ
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初めての魔法

 街を出てやってきたのは、薬草採取で足を運んだあの森。オークを討伐したあの場所だった。


「しかし、やっちまったなぁ」

「もうあそこ行けないね」


 せっかくギルドの件が許されたばっかりだったのに、また罪を重ねてしまった。いや悪くないんだけどね俺。

 

「まあ切り替えていこう。せっかくいいもの手に入れたしな」


 俺は肩に掛けていた皮製の鞄から一冊の本を取り出した。この鞄も本も、逃げてる途中ふらっと立ち寄った店で購入したものだ。服も、以前着ていたものと似たようなデザインのものを選び、新しくした。

 何を暢気な事を、とソフィアにつっ込まれたが、服と鞄はともかくこの本はどうしても欲しかった。


「魔導入門--さあ魔法を使おう 《攻撃魔法編》 --」


 魔法の書だ。魔法具店なる店で買った。せっかくそれなりの魔力を秘めてる事がわかったんだから、やっぱり使ってみたいじゃないか。ちなみにこの本、めちゃくちゃ高かった。貧民は魔法を学ぶ事もできないってわけだ。


「ごめんなソフィア。俺ばっかり」

「んーん! 元々ヤゴのお金じゃん! それに私はあんまり魔法使いたいと思わないから」

「ふーん……そっか」


 この本、治癒魔法編なんてのもあったのだが、攻撃魔法編の五倍くらいの価格だった。もう何体かオークを狩らなければ購入できない。適性のある人間も限られているし、学ぶためのハードルがかなり高い。それだけ治癒魔法の使い手は希少という事だ。

 稼ぎなんかも相当良さそうだし、素質があるとわかったらもっと喜んでもよさそうなものだが……。


「まあいいや。ソフィアは本なんかよりこっちの方がお望みかな」


 次いで鞄から取り出したのは、包みに入った大きなパン。中にコーンとバターが練り込まれたシンプルな味わいのものだ。ちなみに同じものがあと二つある。


「久しぶりの……ごはん……」


 途端に目を輝かせるソフィア。口の端から涎が垂れ流しになっている。滝のようだ。


「よし食え!」

「やたー! いただきまーす!」


 彼女は俺からパンを渡されると即座に包みを剥ぎ、貪るようにかじりついた。すごい勢いだ。数秒で半分くらいを平らげている。


「よしソフィア、この辺で」

「むぐ、んぐ!」

「ソフィア」

「んぐぐ! んぐー!」

「ちょ、ちょっと聞いてくれる?」

「ふぅー。ん? なに?」


 一つ目のパンを食べ終わったところでようやく落ち着いたらしい。二つ目を催促するようにチラチラと鞄を見ているが、またあの状態になられては話が進まないので無視しておく。


「喉、乾かない?」

「むむ、そう言えば……パンに喉の水分だいぶ持っていかれたかも」

「それでこれだ!」


 そう言いながら俺が鞄から取り出したのは二つ目のパンではなく、木製のカップ。中身は入っていない。


「それを……どうするの?」

「俺が水魔法で水を生み出してこのカップに入れる」


 移動中にも魔導入門をさらっと読んでいたのだが、どうも魔法はそれなりに応用が利くらしい。攻撃魔法でも威力を落とせば日常で役立たせる事ができるそうだ。水系統の魔法は大気中の水蒸気などをかき集めて水を生成する。飲んでも体に害は無いとの事。


「魔法の練習がてらソフィアの喉を潤してやるとしよう」

「だ、大丈夫なの? いきなりそんな」

「問題ない。こういう初めての挑戦をする時、俺は自分の事を天才だと信じ込む事にしてる。俺は天才だから余裕」

「う、うーん……じゃあお願いします」


 パラパラと魔導入門をめくっていく。

 魔法の基礎、それはイメージと念話である。魔力を使ってこの世界の理を歪めるイメージ。そしてそれを念に乗せて精霊へと届ける。最後に任意の魔力を込めて精霊に命を下す。

 これが魔法を使う時の大まかな流れらしい。かなりの達人になると精霊の手を借りる必要がないらしいが、その域までたどり着けるのは本当に数人のようだ。


「最初はそうだな……この『ウォーターボール』で行こう」


 本の図にあるように、人差し指を前へ突き出し、その先に水の玉が形成されていくイメージ。そしてこの魔法に対応した呪文を頭の中で読み上げる。意味のわからない言葉の羅列だが、これは精霊言語で書かれているらしい。間違えないように一字一句丁寧に読んでいく。


「お?」


 すると、頭の中がどこかの誰かとリンクしたような感覚に陥る。精霊と繋がる事に成功したようだ。一発目でここまで来れるとは、なかなかセンスがあるのではないか。

 最後に、魔力を込め魔法を発動させる必要がある。

 そもそも魔力を込めるとはなんぞや、といった感じだが、これもなんとなくのイメージでやってみる事にする。

 こんな……もんか?


「おおー!」


 指先に瞬時に水の玉が形成される。

 感動だ。これが魔法か。あとはこれをカップにうまい事注げれば……。そんな事を考えていたのだが、


「ヤ、ヤゴ?」

「どうしたソフィア」

「なんか多くないかなそれ。もういいんだよ? そんな飲んだらお腹タプタプになっちゃうし」

「うーん、俺もそう思う」


 玉の増大化が止まらない。なんならアリッサが撃ったあの火球よりももう大きくなっている気がする。『ウォーターボール』は初歩の魔法で、どれだけ魔力を込めても一定の大きさにしかならない。そう書いてあった気がするんだがおかしいな。


「とりあえずこのままカップに入れてみよう」

「えっ、待っ」


 俺は魔法の行使を中断するべく、魔力の注入をやめた。

 すると、


「おわぁあああああ!」

「ソ、ソフィアー!」


 弾けた水の玉が散弾となってソフィアに襲い掛かった。小さな水球がソフィアの肌を打つ。音を聞く限り、強めの雨ぐらいの威力しかなさそうなので安心した。

 しかしかなりの水量があったので、終わる頃にはソフィアはびしょ濡れになっていた。


「……ヤゴ?」

「喉は潤いましたか」

「全身潤っちゃったよ! 何すんの!」

「いやーごめん。こんなはずでは」


 まあでも初めての魔法なんてこんなものだろう。気を取り直そう。


「濡れちゃった事だし乾かすとしよう」

「え、待ってまさか」

「次は火の魔法にチャレンジだ」

「やめて! 今のは水だからまだよかったけど火はヤバいよ!」

「大丈夫だ! 次は絶対うまくいくから!」

「どこから湧いてくるのその自信は!」


 ソフィアの制止を振り切り、炎魔法の初歩『ファイアーボール』に挑戦する。

 先ほどと同じプロセスで、しかし込める魔力の量を最低限にしながら……発動!


「おお! これは上手くいったんじゃないか?」


 先ほどとは違い、火の玉は野球ボールぐらいの大きさを保っていた。

 これは成功だ。そう思っていた。


「ねえヤゴ」

「どうしたソフィア」

「めちゃくちゃ熱いんだけど、気のせい?」

「奇遇だな、俺もそう思った」


 その火球は、小さいのにも関わらずとんでもない熱量だった。直接触れてるわけでもないのに、肌が焼けそうなくらいに熱い。そして発動者までダメージを食らってるんだが、これいかに。

 これさてはただの火の玉じゃないな?


「ヤゴ! どんどん熱くなってきてるよ!」

「そのうち太陽くらいまでいきそうだな、これ。よし、魔法を中断して……」

「ゆっくりねヤゴ! さっきみたいな事になったらこの森が!」

「わかってるって。ゆっくり、ゆっく……あああああアチィイイイイ! 無理!」

「ヤゴォオオオオ!」


 熱量に耐えられなくなり、俺はそのままその火球を放り投げてしまった。『ファイアーボール』は付近の木々に着弾。すると爆発が起き、一気に炎が森に回り始めた。


「……ヤゴ?」

「燃えてんなぁ。何もかも」


 遠くの方で魔物達の絶叫が聞こえる。この燃え方……たぶん骨しか残らないだろう。


「さ、じゃあ帰りますか」

「バカ! 消して!」


 その後、『ウォーターボール』を連発してなんとか火を消し止めるのに数時間。終わる頃にはすっかり日が暮れていた。

 こうして、俺の異世界生活初日は消化活動によって幕を閉じたのだった。

 

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