プロローグ
この状況をどう説明していいのかわからない。
「ねえー、お兄すわぁーん? ちょちょっと異世界に行って世界救ってきても・ら・え・な・い?」
そんなわけのわからない事を言ってきているのは、身長が一九〇センチ近い、金ぴかのミニのワンピースを着た……うっすらヒゲの生えたおっさんだった。
濃いな!
生まれてからちょうど二十年になるが、こんなキャラの濃いやつを見たのは初めてだ。
仕事帰り、ちょっとコンビニに寄って帰ろうと回り道したのが間違いだったか。ただちに警察を呼んだ方がいい気がしてきた。うん、そうしよう。
「ねえ? 黙ってないでなんとか言ってよぉう。……遠谷剛毅クン?」
「なっ! なぜ俺の名前を!」
通報しようと手に取っていたスマートフォンを思わず落としてしまう。
「遠谷剛毅、二十歳。遠谷家の一人息子で、職業は……占い師ね。お祖母ちゃんの占い館で勤務。両親は冒険家で、今はボリビアにいる」
「なんでそこまで……」
「あと未来を見通す力を持ってる、予知能力者ってやつねアナタ」
「さらっと言ったな! 俺の最重要秘密事項!」
厳密には少し違うが。
「お前いったい何者だ!」
「おっと失礼。あたし、デモニカ。ワールドキーパーってのやってるのよ。まあ簡単に言うと世界が滅んじゃわないようにキープする的な?」
「な、なるほど」
「それでね? 実は世界っていうのは二つあって、こっちの世界じゃないもう一つの世界が、魔王が復活しちゃって今大変なのよ。だからこの世界から一番強い人送り込んで世界救ってもらっちゃおうってわけ。どう? 話わかった?」
「なんかすげえ楽しそうじゃん何それ!」
「わあお! 適応力尋常じゃないわねアナタ! あ、もしかして能力使ってこの先の展開見てみた?」
「いや? いちいち使ってたらキリが無いから本当にヤバイ時以外使わないようにしてるんだ」
「じゃあ素で受け入れちゃってるのね! イカれてんなぁおい常識人だと思ったのに! でもいいわ、それぐらいの器じゃないと世界なんて救えっこないもの!」
これで俺も異世界デビューかぁ。
感慨に浸りつつ、俺は落としたスマートフォンを拾い上げた。
「とりあえず祖母ちゃんに連絡していい?」
「どうぞ!」
「よし、明日から修行の旅に出ます、しばらく帰りません、と」
数秒後、
「あ、返事来た」
「お祖母ちゃん、なんて?」
「『お土産は東京ばなながいいです』と」
「お祖母ちゃんもぶっ飛んでるわね! 血筋なのかしら?」
まあいいわ、とデモニカが呟くと、足元に魔法陣が現れる。
これは……! 本当に行けるのか、異世界!
「向こうの世界での言語の問題はこちらでなんとかしとくわね。あとは……そうね……細かい説明はめんどっちいからあたしの相棒に任せるわ! じゃ、行ってらっしゃい! よい冒険を!」
「あいよー、行ってきます」
魔法陣の輝きは強さを増し、次第に視界は白く染まる。
そしてバシュン、という音とともに俺の意識は途絶える。
こうして、俺は元の世界からおさらばしたのだった。